ドリーム小説
それからは本当に大変だった。
スクアーロは荒れるし、なぜかヴァリアーの指揮権が臨時ではあるけど俺に委任されたり、
ボンゴレサイドと和解のために尽力をつくす羽目になったりで忙しかった。
九代目と互いに情報を公開し合って、ザンザスがとった行動の意味がようやく理解出来た。
馬鹿だよなぁ・・・。
俺を巻き込まないように自分が憎まれ役買って出るなんて、誰だってそりゃザンザス信じちゃうって。
だってお前、顔怖いもん。
クスクス笑いながら俺は会合で使われた資料に目を落とす。
父の氷に抱かれるようにして眠りについたザンザス。
この一連の事件を幹部は「揺りかご」と名付けた。
誰がこの名前付けたんだか知らないけど、皮肉だとしか思えない。
すでにゆりかごは上層部のみの極秘事項として扱われ、現場にいた人間は堅く口を閉じる事になった。
事の発端であるザンザスの血縁問題を知る俺は、話を大規模にしないようある事ない事幹部に言って誤魔化した。
それを知る九代目は俺の配慮を汲み取り、ヴァリアーの処分を規模縮小に留めてくれた。
それからティエラは辛うじて命を取り留めた。
力だけならスクアーロが断然強いんだろうけど、部下であるティーが剣帝の妹であると知って動揺したらしい。
スクアーロ、ああ見えて優しいから。
ティエラの処分は永久追放。
ボンゴレにもヴァリアーにも居場所はなくなってしまった。
ティエラは自分の責任だから仕方ないと笑って出て行った。
「そんで気が付けば1年半経っちゃった」
すっかり慣れた会合の席に座って俺は思いっきり溜め息を吐いた。
円卓はすでにすっからかんだが、俺は一人残って今後の事について考え耽った。
「君、まだ残っていたのかい」
「九代目」
ニコリと笑った九代目は俺の隣に座って、ぼんやりと俺の身体を見ている。
な、何だぁ・・・?
怯えるように身体を引いて、その視線の意味に思い当たる。
多分、俺の着ているヴァリアーの隊服を見ているのだろう。
実はこれ、ザンザスのだし。
この人ホント息子を大事に思ってるんだけど、愛しすぎてたまに意味不明な思考に辿り着くんだよね。
それで息子コールドスリープとかシャレになんないって。
まぁドン・ボンゴレとしては凄い人だし、俺は怨みも憎みもしてないから、好きだけどさ。
「君、まだヴァリアーにいる事を言わないのかい」
何のことだと言いたいが、ピンと来てしまった。
俺はボス代理として会合にも出席してるし、デスクワークもこなしてる。
だけどボンゴレ上層部以外にはボス代理を務めているのはスクアーロという事にしてある。
全てはディーノ対策という訳だ。
「会うつもりはないから」
会いたくないといえば嘘になる。
だけど兄さんなんて嫌いだ!はもっと辛い。
そしてそれ以上にリボーン怖い!!
うん。決めた。
そろそろヴァリアーから出よう。
じゃないとペロッと九代目がディーノに教えちゃいそうだ。
俺はその足でヴァリアーに戻って引継ぎを済ませた。
反対やら抵抗やらにあったけど、全て黙殺。
「えぇー!!、出て行くの?!」
「あとの事は全部スクアーロに任せたから大丈夫だ」
最近になって気付いたんだけど、俺、チビにモテるらしい。
この1年で随分懐いてくれたベルが放さないと言わんばかりに腰に縋り付いている。
今や髪が肩まで伸びたスクアーロがやいのやいのとベルを叱り付けている。
窺うようにスクアーロを見遣れば、任せろと言わんばかりにニンマリと口の端を吊り上げた。
うわー、極悪顔だー。こりゃ心配ないな。
***
ヴァリアーをそそくさと出て、飛行場へ向かおうと公共の乗り物を使って俺は移動していた。
ベルに貰ったミリタリー帽とルッスーリアからの餞別のサングラスを掛けていたのが悪いのか、物凄い視線を感じる。
重装備だって俺だって思うけど、仕方ないじゃん!!
だってここ俺の古巣だもん!
居心地の悪さを感じながらさっさとここを通り抜けようと俺はタクシーを拾い、飛び乗った。
その次の瞬間、反対の後部座席が開いて、誰かが俺の隣に飛び乗ってきた。
「悪い!スクアーロ相乗りさせてくれ!おっちゃん、後ろ撒いてくれ!」
男の急かす声に運転手は悲鳴のような文句を言って、乱暴にアクセルを踏み込んだ。
驚愕に驚愕を重ねた俺は瞬きも出来ず、声を絞り出すのがやっとだった。
「ディーノ、」
「あれ、スクアーロじゃ、ない?」
久しぶりに会った弟の間の抜ける声と、俺の不運さを嘲笑うように運転手がドリフト走行を始め、
見事に俺達は座席から放り出された。
・・・・全く、何てこった。
「悪い!ヴァリアーの隊長服着てるし、髪色とか長さとかスクアーロに似てたから間違えた」
「いや、」
声変わり万歳!!
サングラスと帽子で武装してるとは言え、声だけは不安だったがディーノは全く俺だと気付かなかった。
背後の追っ手を気にしていると運転手から撒くより先にガソリンが尽きると文句を言われてしまった。
「なら遠回りしてキャバッローネに向かってくれるか、おっちゃん!その間に俺がアイツらを」
「それは俺がやる」
下手な事されたら堪らんて。
俺が知ってるディーノならまだしも、鞭を握り締めてるのを見ると何か不安になるんだよ!
何でそんな難しそうな武器選んだのか謎だけど、弟守るのは兄ちゃんの役目だろ?
後部座席の扉を開けて盾にするように、で追って来る車のタイヤを狙い打つ。
やっぱ俺、射撃向いてないよ!全然違うとこ当たるし!
次の瞬間、ドーン!と派手に追跡車が爆発し、ディーノが感歎の声を上げた。
「すっげー!どうやったら見えないエンジン狙えるんだ?」
「・・・・」
・・・狙ってねぇんだけど。
偶然の産物にキャッキャと喜ぶ弟の声を聞きながら、俺達は懐かしきキャバッローネへと向かった。
他愛もない話をしていると運転手が疲れた声で到着を告げた。
キキッとブレーキ音を立てて止まったタクシーにわらわらと部下達が近寄ってくる。
どうやら、いいボスをやってるみたいじゃん、ディーノ。
外に出たディーノが車内の俺を覗き込むように助かったと俺に笑いかけ、その笑顔が昔と全然変わってなくて
俺は思わず手を伸ばした。
太陽のような金髪をくしゃりと撫でてやるとキョトンとしてディーノはヘラリとまた笑った。
その直後、ゾッとした感覚がしてディーノに庇うように抱き着けば、キュンと独特の銃声が耳元でした。
俺のサングラスが壊れて落ち、弾の角度から犯人を探して上を見た俺はギョッとした!
リッボーン!!
慌てて運転手に出してくれと告げて、抱き締めていたディーノを突き放すように部下に託して俺は扉を閉めた。
窓越しに目が合ったディーノは急に泣きそうな顔で俺を見て何か言っていたけど、車内の俺には聞こえなかった。
しばらく追い掛けてきていたディーノを撒いてくれと運転手に頼み、俺は座席に隠れるように丸くなった。
リ、リボーン怖えぇ!!
* ひとやすみ *
・後日談。何だかいろいろあったけど九代目とは意外と仲良し。
というか、何かいろいろ悟っちゃった感じ。笑
そして突然すぎる弟との再会。お兄ちゃんの頭の中は恐怖の赤ん坊で終わったけど。笑
サラーっと流した時間の中で実はいろいろあったんだけど、そこは妄想で補って下さい(え (09/11/21)