ドリーム小説

明け方、疲れた身体を引き摺って屋敷に戻った俺は扉に手を掛けて固まった。

鍵が、開いてる・・・。

昨夜、俺はきちんと鍵を閉めたのを三回確認してるから開けっ放しだった事は有り得ない。

ざわざわと込み上げる胸騒ぎに俺は邪魔な林檎を小脇に抱え、を構えた。

頼むから無事でいろよ。

何が飛び出すか分からない部屋に俺は恐る恐る足を踏み入れた。

まだ薄暗い屋敷の中は特に荒らされた形跡もなく、疑問に思いながらもとりあえずチビ達の部屋へ向った。

落ち着け俺ー。

深く息を吸って吐いて、突入ー!!!




「あ、れ?」




飛び込んだ部屋はベッドメイキングでもしたかのように綺麗で、もちろん人などどこにもいない。

むしろ誰かがここにいたという痕跡すら残っていなかった。

俺は拍子抜けして部屋を見渡し、確認のために引き出しに手を伸ばした。




「入れ歯とヨーヨーがない」




つまりやっぱり何かあったんだ。

部屋を出て俺の部屋や他の客間など確かめてみたけど、誰も侵入した気配がない。

どうなってるんだ?

廊下に出て息を吐いた時、不意に何か焦げるような臭いを感じて俺は走り出した。

飛び込んだキッチンで俺は思わぬ物を目にした。




「アップルパイ・・・?」




それもものすごく歪な感じのアップルパイだ。

俺はその隣に置いてあるメモに目を通して、崩れ落ちるように椅子に座り込んだ。

あのチビッ子共めー・・・。

メモに書き殴られた「Grazie」が3つ。

妙に綺麗な字が多分骸で、暗号みたいなのが犬、細長くて薄いのが千種だろうな。

よくよく思い出してみれば昨夜の骸の様子はおかしかった。

つまりはそういうことだった。

アイツ等は自分の意思でここを出て行ったんだ。

何か言いたげだった骸に気付かなかった自分が情けないやらムカつくやらで、

俺は大きく溜め息を吐いて焦げたアップルパイに手を伸ばした。




「しょっぱい・・・」




うぅ、お前ら、これ塩じゃねーか!味見くらいしろよ!

焦げてるし、汚いし、キッチンボロボロだし。

・・・・でも、本見て一生懸命作ったんだろうな。

アイツら、料理なんか出来ないもんな。

くそー・・・。

今度会ったら砂糖と塩くらい確認しろって文句言ってやる!

だから、

だから、それまでどうか無事でいろよ。







***







「で、、お前、ここで何してんだぁ?!」




小汚い部屋をいろいろ物色してたらそんな声が掛けられて思わず振り返る。

何って言われるとすっごい困るんだけどさー。

同じように積み重ねられたダンボールを漁りながら、スクアーロが怪訝そうに俺を見てる。

その目は存外に「帰ったんじゃなかったのかよ、お前」って言ってる気がする。

いやさぁ、帰ったんだけど、大きな屋敷にポツンと一人取り残されて静まり返った部屋が急に大きく見えてね、

そしたらすっごく寂しくなって、トンボ返り?

ははは、こんなカッコ悪いことスクアーロに言える訳ねー。

どうしようかと焦っていたら、スクアーロが大きく溜め息を吐いて口を開いた。




「ガキはどうしたぁ。お前の帰りを待ってたんだろぉが」

「いなかった」

「は?!」




スクアーロがダンボールを倒して中身が派手に散らばったが、俺達は全く動けなかった。

てか、何ですかね、この空気。

スクアーロが何とも言えない顔で落ちた資料をゆっくりと拾いだして、俺もそろそろと手伝う。




「あ゙ー。愛人、いや、嫁か。お前の嫁がガキ共追い掛けてんのか?」

「・・・俺に嫁なんかいた記憶はないが」

「あ゙ん?!じゃ愛人なのか?!」

「愛人なんて一生作る気ない」




何ですかね、この空気、第二弾。

俺もスクアーロも吃驚って顔をして固まった。

よ、嫁ってなんだよ!

生まれてこの方、彼女いたことないんだぞ俺!

愛人なんてそんな恐ろしい物作る気なんて更々ねーし、ましてやぶっ飛んで嫁?!

な、な、何言ってんの、このお人は!!




「昔から思ってたがぁ、お前は女泣かせのサイテーな男だな、




愛人いないからって何で俺、サイテー男の烙印押されてんのー?!

お前、今、全国のモテない男を敵に回したぞ、コノヤロー!

あ、こら!そんな目で俺を見るな!




「そんな事より、スクアーロ。お前の部屋、汚すぎるぞ」

「俺の部屋な訳があるかぁ!ボスの部屋だが、アイツ寄り付きもしねぇから今や物置だ」

「物置?誰か使ってた感じだが」

「前はテュールが使ってた」

「確か、剣帝だったか」




無理矢理話を逸らして部屋に視線をやると、案の定スクアーロは話に乗ってくれた。

そしてどうやら俺は押してはならないスイッチを押してしまったらしい。

すでに原作うろ覚えの俺がうっかり剣帝などと言ったがばかりに、スクアーロが目を輝かせた。





「そうか。はあの死闘を知らないんだな!俺がどうやってテュールを倒したか」

「いや、別に」

「気にするな。時間ならある。あの激闘の3日間の事を聞かせてやるぞぉ!あれはまだ俺が・・・」




気にするって!

めちゃくちゃ話長そうな雰囲気じゃん!

てか、話し出しちゃったし。

・・・とりあえず、片付けしようかな。

うっとりと「激闘!俺とテュールの死線72時間」を語り続けるスクアーロの傍らで

俺はそれを聞き流しながら暇潰しに落ちてる資料に手を伸ばした。

永遠に続くスクアーロの武勇伝に欠伸を噛み殺しながら、次に拾った資料に思わず目を瞠る。

殉職者リスト・・・。

その嫌なリストの分厚さにどこか心が痛みながら、俺は何となくソレを開いてしまった。

おそらく隊員名簿をそのまま移動させてファイリングした物なのだろう。

名前や顔写真はもちろん、年齢、血液型、家族構成、趣味や特技まで載っている。

アルファベット順に並べられた資料を幾つか捲ってTの欄に来た所で手が止まった。

これが初代剣帝、テュール。

スクアーロに倒され、ヴァリアーボスの座をザンザスに奪われた男。

正直、何の感慨も湧かなくて、ただカッコいい人だなとだけ思った。

深い緑の目が印象的でザンザスとは対称的だ。

・・・アレ?俺、この人とどこかで会った事ないっけ?

記憶にないその感覚に首を捻りながら、俺は長いスクアーロの話が終わるまでその写真を見つめていた。


* ひとやすみ *
・うっかりスクアーロが面白い事に。笑
 主人公が既婚者で子供が三人とか思ってたのに、特定の女作る気ねーよと勝手に捉え
 スクアーロの中でサイテー男と成り下がった主人公。笑
 主人公からしたら何でそんな話になったのかすら謎でしょうね。挙句に彼女無しを責められるとは。笑
 やっぱり武勇伝とか派手好みなスクアーロ。後半キラキラです。キラキラ!笑                  (09/10/27)