最弱ヒーロー

62.美女再来！

どえらい事になった・・・。

俺は呆然としながら、けれど確実に足を進めてその部屋に飛び込んだ。

真夜中だというのにその部屋にはスクアーロとベルフェゴール、マーモンが目を爛々とさせて俺を待っていた。




「、どうなった？！」

「・・・作戦は中止。全員に伝えとけ、と」

「「「　中止？！　」」」




俺の方が叫びたい。

まさかザンザスが止めると言い出すなんて思ってなかったんだぞ？！

そりゃスクアーロに止めろって言われたけどさ、俺はそんな気更々なかったし。

てかどうしよう。

ゆりかご起きなかったらどうなるの？！

レディの嘘吐きー！中止になっちゃったじゃん！！

いや、むしろザンザスの冷凍保存がなくなったんだから、素直に喜んでいいのか？




「アイツ当分起きないな。かなり無茶したからな」

「・・・何やったんだぁ、お前？」

「ちょっと殴って、転がしただけだ」




あれは未だに何で俺、怒られなかったのか分かんねー。

中止にしたのだって謎だ。

殴ったり殴られたり、転んだり転ばせたりしたから酒をたらふく飲んでいたザンザスは一気に酔いが回って

あの後、死んだように寝てしまった。

今思えば、相当な無茶してるよな、アイツ。

そんな事を思いながらふと三人の顔を見れば、とんでもない物を見るような顔で俺を見ていた。




「ちょっとって、、お前ぇ・・・」

「うげェ！どうやったらボス転がせんだよ、」

「ボス相手に傷一つなんて。何者だい、君」




え？ええ？

そんな信じらんねードン引きーって感じの目で見るの止めて君達！！

俺は友達と普通に喧嘩して普通に仲直りしただけで、別に何もしてないから！

普通だろって言えば、揃いも揃って変だと言いやがった。

チクショー、お前らよりマシだー！！

傷付いた心を自分で慰めていると、部屋の扉が叩かれて全員の目が扉に向った。

入って来たのは綺麗な女の人で、酷く見覚えのあるその人はみんなと同じ黒い隊服に身を包んでいた。




「ティー、奴は見付かったかぁ？」

「フーキンですが、目撃情報はあったものの、それきり誰も見・・・」

「どうした、ティー？」




固まっていた俺と視線が合った彼女は大きく目を見開いて声を失くした。

怪訝そうなスクアーロの声すら聞こえていないようで、彼女はひたすら俺を大きな目に映していた。

まさかスクアーロの部下だったなんて・・・。

俺はこれから起こる悲劇を思って泣きたくなった。




「フーキン、あなた、何でここにいるの？！」




あーあーあーあー。

そうだよね。俺、あの時、彼女に風紀委員だって言っちゃったもんね。

彼女の声に全員の目が突き刺さる。

うぅ。怖いよー！

トゲトゲしい視線に気付かないフリをして、俺は彼女、ティエラに久しぶりだなと小さく言った。








***







その後は悲惨。

物凄い勢いでスクアーロに詰め寄られ詳細を話す羽目になり、マーモンの呆れた目とベルの好戦的な目に晒された。

ティエラとのことを話すか迷って彼女を見れば、すごく青褪めていて俺は慌てて近寄った。

彼女の俯いた顔を上げさせて、サラリとした額に手を当てて熱を測れば、目を丸くして驚かれた。

熱はない。むしろ冷たい。

チラリとティエラの視線がスクアーロに向いて、また下を向いてしまった。

あぁ。なるほど。

俺は何となく状況を察して、ティエラの背を押すように手を回して歩かせる。




「うﾞぉぉい！！どこ行く気だぁ！」

「トイレだ。彼女に案内してもらうから気にするな」

「ティーには仕事がある。案内なら俺が、」

「男に案内されて何が嬉しい？どうせなら美人がいいだろ」




てか、お前も仕事あるだろーが。

同意を求めるようにティエラを見れば、目をパチクリさせていた。

金魚みたいに赤くなって口をパクパクしているスクアーロを余所に、俺はティエラの背を押して部屋を出た。

しばらく歩いて人の気配が消え、ようやく話が出来る。




「俺と会ったあの時のこと、スクアーロに言いたくないんだろ」




廊下をティエラと並んで歩きながら俺が彼女にそう言うと、弾かれたように顔を上げた。

いや、だってさー。

フーキンのこと聞かれるのは仕方ないとして、ティエラと出会った時の話まで聞かれるって事は、

彼女がスクアーロに詳しく話してないってことだろ？

連れ出す口実のトイレもすでに通り過ぎ、中庭に出て俺は彼女を見た。




「えぇ。出来れば名前もここではティーと呼んで」




搾り出すような声でそう言ったティエラに、分かったと告げれば安堵の息を吐いていた。

そうだよなー。

俺みたいな奴に声を掛けて車に乗せて、バールで襲い掛かったなんて言えないよな。

お前、逆ナンしたのかよ的な視線で上司に見られるのとか、嫌だもんね。




「フーキン、でもどうしてヴァリアーに？隊長の知り合い？」

「フーキンは止めてくれ。だ」

「・・・？あなた、まさか、？！」

「・・・大袈裟な名前だ」




今やその名前は俺の銃剣に付いてんだぜー？

だからそれは俺じゃないもん！って言ってもよかったが、ややこしくなるので顔を顰めるだけにしといた。




「まさか声を掛けたのがなんて、私も運がいいのか悪いのか。まぁいいわ。あれは忘れて。

　仕事に戻るわ。明々後日に九代目がウチに来るの。その時の警護を私の班が任されて今すごく忙しいのよ」

「あぁ、例の調印か。クーデターは取り止めだ。通常警備でいいはずだぞ」

「何ですってッ？！」




うお！びっくりした！！

悲鳴のような声に驚きながらも、物凄い顔をしたティエラに視線を向ける。

まぁ、そうだよな。

あのザンザスが取り止めにしちゃったんだもん。

俺だって呆然としたもんなー。

慌てて走り出したティエラを追うように俺も部屋に戻ることにした。

戻る途中で中止を聞いたらしいヴァリアー連中がバタバタと走るのを見て、大変そうだなーと他人事のように思った。

それから少し明るくなってきた空を眺める。




「朝か」

「帰るのか、」




いつの間にやら向かいにスクアーロが立っていて、俺は答える様に頷いた。

てかお前、その両手にある林檎は何？

あ。林檎といえば。




「子供が待ってる」

「あﾞぁ？！」

「三人」

「お前ぇ、いつの間に」




うん。だから帰るよ。

数週間前に拾ったんだよね、黒曜ボーイズ。

欠食児童がメェメェ泣く頃だからそろそろ帰らないと。

スクアーロの持ってる林檎を一つ頂戴して、また来ると言い残して俺は屋敷を出た。

ふわぁ・・・。眠いが、アップルパイ作んないとなー。