ドリーム小説

「テメェ・・・ッ!!」


――― ドゴッ!!


いってぇぇぇ!!!

気が付けばザンザスにグーで殴られていた。

酔っ払って千鳥足でザンザスがこっち来るから、大丈夫かよって思いながら近付いたら思いっきり殴られた!

よろめいたけど、足を踏ん張って何とか姿勢を保つ。

うぅ。口の中が血の味がする。

確かめるようにそっと切れた唇に手を沿わすと赤い血が指に付いた。

おっまえ、再会した友人をグーで殴るか普通?!

恨みを込めてザンザスを見返せば、ザンザスは眉根をこれでもかっ!と寄せて顔を辛そうに歪めていた。

・・・くそっ。そんな顔されたら怒るに怒れねーじゃん。




「勝手にいなくなりやがって、そんなに俺が気に食わねェか!ボンゴレが嫌いか!」

「は」

「知らばっくれるな!俺が継いだボンゴレに従いたくなくて逃げたしたんだろォが!」

「いや」

「ハッ!良かったじゃねェか!テメェの望み通り俺はボンゴレを継げねェ!」

「おい」




デジャヴ・・・!!

何か前にもこんなパターンあったぞ?!

てか、俺が去ったのはディーノをボスにするためで、別に何が嫌いとかじゃないぞ。

全く話が噛み合ってないけど、激昂してるザンザスは俺が口を挿む隙を与えてくれない。

どうしような、これ。

そうこうしてる間にザンザスは自嘲するような笑みを漏らして、俺を見た。




「テメェを追い出したボンゴレが憎くて俺に手を貸しに来たのか?それともテメェも俺を止めに来たのか?

 ハッ!どっちにしろテメェにとっちゃ屈辱的だろォな。は俺のことが逃げ出すほど嫌いなんだからな!」




・・・こっのッ大馬鹿野郎がッ!!!

ガリッと歯を軋ませて噛んだと同時に俺は握り締めていた拳を振るい上げていた。


――― バキィッ!!


俺と殆んど身長が変わらないザンザスが吹っ飛んだ。

さっきから聞いてれば、好き勝手言いやがって!!




「嫌い嫌いって女々しいこと言って拗ねんな!俺がお前を好きだと言えば満足なのか?嫌いと言えば満足なのか?

 俺を理由に自分を貶めるのは止めろ!」




上半身を起こし、俺と同じ所に傷を付けたザンザスが呆然と俺を見ていた。

うん。言いたいこと言ったらスッキリした。

そして殴った手が痛い。

やっぱ人なんて殴るもんじゃない。


九代目の息子じゃないと知って、ザンザスは絶望し、自嘲し、激昂した。

でも多分ザンザスが怒ったのは血の繋がりとかボンゴレを継げないからとかそういう事じゃなくて、

九代目に裏切られたという思いが強かったんだと思う。

プライド高いコイツは継げない自分が嫌で、でも壊す以外を知らなくて、そんなジレンマの間でボンゴレ襲撃を企てた。

酒に浸り、部屋に閉じこもったのは胸で燻ぶる遣る瀬なさからだろうけど、だからって俺に押し付けるなよ。

俺に嘲笑って貰おうなんて、そんなの、冗談じゃない。

友達だと思ってた奴にいきなり殴られて、しかも「お前は俺が嫌いなんだ」と連呼されて喜ぶ奴がいるかよ。

むしろ、お前の方が俺のこと嫌ってるだろって言いたくなる。

でもコイツの場合、違うんだよなぁ・・・。

何ていうか、目が助けてくれって言ってるっていうか。




でも叫ぶことがあるんだな」

「あるさ。馬鹿野郎にはな」

「ハハッ!違いねェ」




転がってるザンザスに手を貸せば、ザンザスは打って変わって楽しそうに笑い俺の手を掴んだ。

殴られてちょっとは目が覚めたか、このやろー。

俺は小さく溜め息を吐いて、ザンザスに聞く。




「お前はボンゴレが憎いのか?」

「あぁ」




即答かよ。

目には怒りの炎が揺らめいているようにさえ見える。

分からないでもない。

もし俺がザンザスの立場なら怒っていただろうから。

まるでクーデターを起こした奴等が全面的に悪いように原作では描かれていたけど、九代目に責任はないのか。

ボンゴレをザンザスが継げないことを九代目は知っていたのに、どうしてそれをもっと早く教えてやらなかったんだ?

息子を悲しませるとか思ったのか?

教えずに結果、血は否定され、リングに阻まれて瀕死に追い込まれると知ってたはずなのに?

俺の思考を読み取るようにザンザスが険しい顔で俺を見る。




、お前、何しにここに来た。今お前が来たって事は全部知ってるんだろ」

「まぁな」




・・・お前、ただでさえおっかない顔してるのに、これ以上怖い顔すんのやめろよ。

てか、俺、コイツ殴ったんだよなー・・・。

勢いって怖い!!

もし、九代目が小さい頃からボンゴレを継がせる気はないと断言していれば、ゆりかごなんて起きなかったのかな。

九代目は優しすぎた。

真綿で首を絞めるような優しさなんて俺だったらいらない。

俺はイタリアに来てからずっとザンザスに言いたかった言葉を告げた。




「お前の好きなようにやればいい」




ゆりかごに関して俺は手出しするつもりはない。

だってこれはザンザスと九代目の問題だから。

だけど仕方ないから俺はお前を最後まで見といてやる。

友達だからな。

そっとザンザスの顔を窺うように見れば、おかしなことに怒ってんだか泣いてんだか分からない顔をしていた。

お前、面白い顔するなー。

そんな事を思っていると、ザンザスが急に俺の腕を掴んで引き寄せた。

驚いてる暇もなく、俺は床に背中をしこたまぶつけて倒れていた。

いってェ!!このやろ、引っ張って俺に足掛けやがった!

仕返しだと勝ち誇った表情で俺を見下ろすザンザスにムカついてそのまま足を横に払うと、

呆気なくザンザスが俺の隣にすっ転んだ。

へへん、ざまあみろ。






「何だ」

「お前ならどうする?」




二人して床に倒れて高い天井の照明を何となく見ていると、突然そう言われて俺は驚いて隣を見た。

どうするってこの一連のことだろうけど、俺に聞いちゃうとかどうしたのさ、ザンザス。

ぼんやりと天井を見つめてるザンザスを真似て、視線を上に戻す。




「俺なら、一発殴って帳消しだな。親子喧嘩に懸ける命なんて持ち合わせてない」

「・・・・・。」




ゆりかごとか言えば何だか凄い気がするが、ようするに規模のデカイ親子喧嘩だろ。

そんなのに命懸けるなんて勿体無い。てか無駄。

急に腹を抱えて笑い出したザンザスに目を瞬かせると楽しそうな視線を返された。




「親子喧嘩か。と話してると自分が馬鹿みてェだ」

「悪かったな」

「あぁ?褒めてんだぞ」

「嘘吐け」




俺とザンザスはカッコ悪いことに口元に傷を作り、床にすっ転んでそんなくだらない事を言い合った。

傍から見りゃそんな俺達は馬鹿みたいだろうけど、何だかそれが心地良かったのは俺だけじゃないようだった。


* ひとやすみ *
・満を持して玉砕。粉砕。木っ端微塵。
 男臭い友情を描こうとして見事に沈没。せむい編の本題がこんななんて、誰か慰めて!泣
 対等でありたい男の弱さを隠す見栄だったり、小心者の癖に衝動で動いて自滅する男の考察とか
 もっとパリッと書きたかったのにな・・・。うん。気合入れ直して次だ、次!笑              (09/10/05)