ドリーム小説

あの日、僕は幻想世界でに出会った。

真っ暗な僕の心の裏側であるあの場所にだけが辿り着き、僕の話を聞き、抱き締めてくれた。

が神であろうと、悪魔であろうと僕は全く構いません。

ただ金の瞳を持ちキラキラ輝く彼だけがあの時の僕の救世主なのです。

結局その時は名前も知らず、すぐに別れる羽目になりましたが、

誰かに間違えられ、酷くしつこい地元の不良との追いかけっこの末、僕は彼と再会した。

彼が僕のことを覚えていないのが少し悲しかったですが、もう一度会えた事の方が嬉しかった。


目が覚めると久しぶりに普通の食事にあり付けた。

お腹が空いていたことを除いても、目の前の料理はとても美味しい。

研究所では食事は戦争だったので、形振り構わずかき込んでいると、不意に大きな音を立てて犬のグラスが割れた。

僕等はピタリと動きを止め、億劫そうに立ち上がったに慌てた犬が割れたグラスに手を伸ばす。




「触るな!」

「・・・ッ!!」




の声に犬は見るからに怯え、千種も目に恐怖を映していた。

無理もありません。

研究所では殴られて当たり前。怒られるのは日常茶飯事。罰は長引く実験だと決まっていたのですから。

小さく溢したの溜め息を僕等は敏感に感じ、犬の前に座り込んだ彼にただ視線だけを向ける。




「怪我はないか?」




罵倒や暴力以外の言葉が投げ掛けられて僕等は一瞬理解出来なかった。

今までこんな風に話し掛ける大人が周りにいなかったのだからそれも仕方ないと思いませんか?

何だか気の抜けたようなおかしな声を上げる犬の手を取ったに、ビクリと震えた犬は小声で謝った。




「ごめんらさい」




そして僕等はまたおかしな光景を見た。

が小さく笑って犬の頭を撫でた。

・・・・・なぜです?

グラスを割って撫でられるのが僕等には全く理解出来なかった。

悪い事をしたら叩かれる。

これは僕等の常識だった。




「叩かないんですか」




気が付けば僕はそう口にしていた。

僕等に背を向け、何かを探していたは不思議そうな顔をして僕等を見た。

犬は顔色を悪くし、千種も息を呑んでを見上げている。




「なぜ?謝ってるのにそれ以上罰する必要があるのか」




さも当然のように言い切ったに僕等は今度こそ声を失った。

それは僕等が望んだ常識で、だけど研究所では有り得ない非常識。

そこからやっと抜け出せたのだという実感と、という安心感に包まれた気がした。

そして犬が目に涙を浮かべてに飛び付くと、僕と千種もいてもたってもいられなくなった。

気が付けばに三人で縋り付いて彼を困らせた。

何だかおかしな顔をしていたに誰からともなく噴き出せば、少し遅れてが薄く笑った。




「お前らは笑ってる方がいいな」




途轍もなく整った顔で嬉しそうにそう言ったに僕達は呆然とした。

何と言いますか、その言葉は、そっくりそのままにお返ししますよ・・・。







***







その夜、に与えられた部屋で横になっても、全然眠れなかった。

グルグルといろんな事が頭を廻り、とてもじゃないが眠れそうにない。

そんな時、誰かが動く気配がして、僕は起き上がった。




「犬、どこへ行くのです?」




目に見えて飛び上がった犬はオズオズと言い難そうに口を開けたり閉めたり繰り返す。

まぁ、手にしている枕を見れば何を考えていたかなんてお見通しですが。

僕は小さく溜め息を吐いてベッドから出た。




「仕方ありませんね。僕も一緒に行きます。千種も行きますか?」




寝たフリを続けていた千種は小さく返事を返して、僕達と一緒に部屋を出た。

仕方ないなどといい訳するなんて僕もズルいですね。

本当は僕もそうしたいと思っていたのに。



僕達がの部屋にこっそり入り込んで、ベッドに近付くとはすぐに目を覚ました。

ただ者じゃないとは思っていましたが、こうも気配に敏感だとは。

怯える僕達を見ては興味を失くした様に再びすぐに目を閉じた。

これは、どうしたらいいのでしょうか・・・?

残された僕達がベッド際に突っ立っていると、は掛け布団の端を持ち上げた。

何でしょう、これは・・・。

僕が呆然としていると犬がベッドに潜り込み、千種が僕を見た。

入れってとっていいんですか?

僕と千種が布団に入るとは布団を下ろした。

僕達に与えられたベッドよりもかなり狭かったですが、とても温かかった。




「おやすみなさい、




そして僕は再び幻想世界でに会い、ずっと言いたかったお礼を述べた。

意識が薄っすらと現実に戻った時、それに合わせるようにが問い掛けてきた。




「どうして再会した時にあれは自分だと言わなかったんだ、骸」




何だかとても気恥ずかしくて寝たフリを続けていたかったのですが、の視線がそうはさせてくれなかった。

本当は全てバラしてしまうつもりはなかったんです。

そんな事を思いながら、の視線と沈黙に耐え切れず、僕は小さく答えた。




「・・・そんな子供染みたこと言えませんよ」

「子供なんだから別にいいだろうが」




すぐさま返ってきた声に驚いて思わずを見上げると、彼は呆れたような顔をしていた。

確かに僕は子供だけれど、今の僕には犬や千種が付いて来ていて、子供のように振舞っていては生きていけない。

だけど僕は本当は・・・。




「子供の癖に眉間に皺寄せて難しく考えんな。言いたい事は言え。そしたら俺がお前達を甘やかしてやる」




口の端をニィと吊り上げて笑ったに僕はその後とても恥ずかしいことを言った気がする。

普段なら絶対に言わないだろうそれを聞いて、は面白いものを見たと言わんばかりの顔で笑った。

・・・甘やかすと言ったこと後悔しても僕は知りませんからね。


* ひとやすみ *
・骸視点でした。
 何だかちょっとクドイ気がしましたが、ねじ込みました。笑
 これは予感じゃなくて確信ですけど、せむい編絶対伸びる!!
 まさかここまで黒曜組が出張るとは・・・、ショタの力恐るべし!! (09/09/17)