ドリーム小説

『どこだ、ここ・・・?』




気が付けば俺は真っ暗な空間に一人ポツンと立っていた。

そこは上も下も前も後ろも何もない。

俺、何でこんなトコにいるんだ?

てか、早く帰らないとレディ達が心配する。

俺は真っ暗な空間に恐る恐る足を踏み出して、どこへ進んでいるのか分からないまま歩き続けた。

ホントに何だここ?

こんな所に長くいると気が狂いそうだ。

出口なんか全く見えないけど、俺は歩き続けた。

歩いて歩いて歩いた時、俺の耳が初めて何かの音を拾った。

泣き声だ。

それも声を殺したような・・・。

こ、こっえェー!!ホラーじゃねぇかよ!

うん、逃げよう。

悪霊退散!無病息災!家内安全!!

クルリと背を向けて俺は駆け出した。

関わらないのが吉だって!

そして俺は・・・。




『誰かいるの・・・?』




出会っちゃったー!!!!

方向も分からないままに走り続けたら、いつの間にか戻ってきてたらしい。

お、おばけ怖い!!

無視したら呪われるかも!!




『・・・何で泣いてる?』




・・・・・・・決めた。

オバケの人生相談に乗って心置きなく成仏してもらおう!そうしよう!

俺が声を掛けるとかすかに人影が目に映った。

多分、人間の子供、のはず。




『悲しくて辛くて・・・、でも泣けないからここで泣いてる』

『一人でか?』

『うん。ここに誰かが来たのはお兄さんが初めて』




目の前にいるだろう子供が小さく笑ったように思えた。

何でこんな子供が、一人で辛い思いを隠してこんな暗闇で泣かなきゃいけないんだろう。

もしかして恭弥やディーノもこんな風に隠れて一人で泣いたのだろうか。

それって何だかすごく・・・・・。




『寂しくないのか?』

『どうして?一人には慣れたよ?』




また子供が笑った気がした。

何でこの子、無理矢理笑うんだ?

この子は泣けないから誰もいないここで泣いてると言った。

それはつまりいつも我慢してるってコトで、俺がここにいるから本音で話せないのか。




『慣れる訳ないだろうが。孤独は寂しいものだ。お前が辛くて悲しくてここで泣いてたのを俺は知ってる。

 なら隠す必要はない。暗闇はお前に何もしてやれないが、俺はお前の話を聞いて、一緒に考えて、泣いてやれる』

『・・・・どうして?見返りも何もないのに?』

『あるさ。そうすればお前も俺も一人じゃないだろ』




一人は怖い。

だけど一人と一人が一緒になれば怖くないだろ。

弱小生物的思考で思わず苦笑してしまう。

全ての音が消えたような気がした瞬間、俺は物凄い衝撃を腹に受けた。

ぐっ・・・!!ディ、ディーノのタックルには負けるが、お前もなかなかやるな、オバケ少年・・・っ!

グリグリと俺の腹を頭で掘るように押し付けてくる少年の背中に腕を回した。

泣いてる子は放っとけないだろー?

やっぱり押し殺すように泣いていたけど、無理に笑うよりずっといい気がして俺は泣き止むまで背を優しく叩き続けた。




『あの、あなたの名前を聞いてもいいですか?』




それからどのくらい経ったのか、落ち着いた少年が俺の腹から顔を上げた時、初めて彼の顔が見えた。

うわー。深い海のような濃紺の瞳だ。こういうのもブルーアイズって言うのかな。

気が付けば辺りは明るくなっていて俺が名乗ろうとした瞬間、少年は光に包まれて遠のいて行った。

あぁ、成仏出来たんだね、よかったよかった。

・・・・・・ん?

まさか、俺も、死んだの?

ギャー!!神様、ストーップ!!










「うわっ!!」




ガバリと身体を起こすとそこはレディの屋敷にある俺の部屋だった。

何、え、と、つまり、夢・・・?

俺は汗で張り付いた前髪を掻き上げて、確認するように自分の顔に触れて安堵の息を吐いた。








***








「あ、帰って来れたのね、

「は」

「あの子の思念に引き摺られて闇に落ちたでしょう?あそこの扉は私でも見付けられないから無事でよかったわ」




え、何、俺、九死に一生な目に遭ってたの?!

怖ェェェェェ!!やっぱオバケ怖ェ!!

光が射さなければ俺は一生あそこを彷徨っていたらしい。

おぉぉぉ!成仏してくれてありがとう、少年よ!

俺は物凄く少年に感謝しながら、朝食に向き直った。


えー・・・・と、ちなみに毎朝出るんでしょうかね、このちくわのソテー。

それを聞こうと、忙しなく動いてる執事を呼び止めようとしてふと気付いた。

てか、俺、呼び止めたいけど、彼女の名前を知らないじゃん・・・。




「執事の名前は何て言うんだ?執事としか聞いてないが」

「私、ですか?はい。執事ですが?」

「フルネームは?」

「ですから執事と申します。執事チクワがフルネームでございます」

「・・・・・・・・は?」

「この子を体現してるいい名前でしょう。私が付けたのよ」




ネーミングセンス最悪だなー!!!

嬉しそうにチクワかメイドか迷ったのよ、と言うレディに俺は頭痛がした。

なるほど、それでずっと執事呼ばわりだったのか・・・。

本人達が何だかいつもより楽しそうに笑っていたので、俺は突っ込むのを止めた。

で、やっぱりこのソテーは毎日出るんでしょうかねー・・・?


* ひとやすみ *
・夏の終わりにちょっとしたホラーを。笑
 相変わらず誰彼構わず、引き寄せて陥落させちゃう主人公です。笑
 という訳で、初公開、執事のフルネームの回でございました!
 ようするに執事と言う名の執事だったというだけ。笑
 まあ、彼女達にもいろいろと無駄に設定はありますが、それはまた別の話。    (09/09/03)