ドリーム小説

俺が並中に入学して早三年の時が過ぎた。

正確には2年と350日くらいじゃねーかな。

相変わらず俺は風紀委員長だし、学校中から遠巻きに見られる人生を送っている。

平凡で平和な日常を過ごしていると思っているならそれは大きな間違いだ。

いつからか恭弥が俺を襲って来るようになった。

しかも物凄い勢いで強くなってて兄ちゃん泣きそう。

一体、いつの間にツンデレを卒業したのか、ツンツンしちゃって可愛くない。


あと数日で俺は並中を卒業する。

おかげで引継ぎやら何やらで追われていて睡眠不足は否めない。

ようやく家に帰ってきて、俺は着慣れた浴衣に袖を通して翌日まで寝てやると布団に倒れ込んだ。

もう二度と起きたくない。

そう思って寝たのに少し浮上した意識の端に誰かの気配を感じ、侵入者を知らせる。

俺の眠りを妨げるのは誰だよ、コノヤロー!

一瞬爆発した殺気に掛け布団を相手に投げ、死角から隠していた銃剣を侵入者の首元に当てた。




「・・・何してる、恭弥」

「ズルいよ。を出すなんて」




ホント何してくれてんですか、恭弥さん。

俺は再び眠りに落ちるように目を瞑って、寝返りを打った。

付き合ってられん。

大体、何で俺の銃剣にとか縁起悪い名前付けてんだよ。

少し前に銃剣について聞かれたから、って人が使ってた物だと誤魔化したらそんな事になってた。




「怒ってるの?ねぇ兄さん、副委員長が来てるよ」

「こんな時間に?寝てると言、」

寝てると言ったら担いででも無理やり連れて来てくれって

「・・・・・」




くそう。伊達に三年一緒じゃないってか、草壁よ。

圧し掛かるように俺を揺らす恭弥に促されて面倒だが仕方なく出て行く羽目になった。

嫌な予感しかしねェよ。




さん!風紀委員の奴等が卒業するさんに手間掛けたくないって奴等の誘いに乗って」

「・・・馬鹿か、アイツらは。卒業しようがしまいが俺は雲雀だ。

 この町を好き勝手しようとしてる奴等をこの俺が野放しにするかよ」

「え、あの、さん・・・?」

「無駄だよ。兄さん寝惚けてるからめちゃくちゃ機嫌悪いよ。相手も馬鹿だね。兄さんを怒らせるなんて」




この所、俺が卒業したら風紀委員を潰そう、もしくは乗っ取ろうとしてる奴等が出て来た。

俺は学校の事に合わせてこっちの対応にも追われ、心底疲れていた。

そして非常に眠い。

俺を追い掛けてきた恭弥が俺の着替えを草壁に渡し、俺は闇夜に浴衣と下駄で飛び出した。

さっさと片付けて寝たい。





***





そして辿り着いた空き倉庫で俺が見たのは戦場だった。

学園ドラマでこんなクラス全員で殴り込みシーンを見たことあるな、と今も続く大乱闘を見た。

そうか、これは夢か。

風紀委員の奴等はボロボロになりながらチンピラに殴りかかっていた。

俺は頭を掻いて銃剣を取り出した。

もう何か面倒臭い。そして眠い。


―――パァンッ


相変わらず嫌な音だ。

俺が銃剣を空に向けて一発打ち込むと天井の高い倉庫内に乾いた音が響き渡った。

一気に乱闘の熱が治まり、その場にいた奴等の目が俺に向いた。

俺は静かになったのをいい事に草壁に携帯を借りて病院に連絡を入れた。




「夜中に悪いな院長。怪我人大多数だ。救急車を頼む」

さん、これが」




何やらごそごそしていた草壁が倉庫の奥から怪しげな粉やら注射器やらを持ってきた。

小麦粉って訳にはいかないだろうな・・・。

俺は溜め息を吐いて電話口の院長にもう一つお願いをする。




「ついでに警察もな」




あぁ、面倒なことを起こしてくれたな、チンピラめ。

俺は返事も聞かずに通話を切り、何度目かの溜め息を吐いて辺りを見渡した。




「悪いが大人しく捕まってくれ。俺は今物凄く眠い」

「・・・っふざけんな!!」

「ついでに物凄く機嫌が悪いッ」




あぁ。早く帰って布団で寝たい。

俺はそんなくだらない事を考えながら襲い掛かってくる奴等を蹴倒し、殴り倒し、順当に気絶させていった。

やっぱりこれは夢かもしれない。

めちゃくちゃ身体は軽いし、相手は弱くて俺強い。

その間もスタンガンとか鉄パイプとかで殴りかかってくる奴をバッタバッタと張り倒す俺。

普通絶対無理。もう夢決定。




さんがキレた」

「強いとは思ってたけど、やっぱあの人最強だ!」

「委員長ー!」




俺が華麗に踵落としを決めてフィニッシュを飾ると風紀委員達が大きな歓声を上げた。

ぶっちゃけ煩い。

俺がボーっとしてる間に草壁は早くも検証を終わらせたらしく、何か細長い箱を俺に渡した。

てか、コレ何?




「押収した玩具なんですが、これだけ奴等の物じゃないそうです。性能もいいしさんにとあいつ等が」

「玩具?」

「危険性も皆無です」




あまりに謎すぎる話だが、俺は溢した欠伸で眠気を思い出して家に帰ることにした。

限界。眠すぎ。

草壁にあとを任せて踵を返すと、風紀委員の奴等が揃って俺に声を掛けた。




「「「さん!お手数をお掛けして本当にすいませんでした!」」」




だからさ、そういう事じゃないんだってば。

俺はシパシパする目を何度か瞬かせて口を開いた。




「ゔお゙い。俺が怒ってるのはお前等が俺が卒業したらあんなカス共を放って置く奴になり下がると思ってるからだ。

 今度俺に黙って危険な事をしてみろ。その時は俺が死んでも死にきれねェくらい後悔させてカッ消してやる」




おー。こういう悪人だかヒーローだか分からんセリフ言ってみたかったんだよね、俺。

いろいろ考えてたら何かいろんな人のセリフ交ざっちゃったけど、夢だからまーいーか。

そして俺が気分よく家に帰ると恭弥が玄関で出迎えてくれた。




「おかえり。その箱、何?」

「やる」




俺は持っていた玩具の入ってるらしい箱を恭弥に押し付け、念願の布団に倒れ込んだ。

夢の中でも寝れるなんて俺、しあわせー・・・。








目が覚めて俺は身体のあちこちが筋肉痛なのに首を傾げた。

あれ、俺なんかしたっけ?

パキパキとなる骨の音を聞きながら、何て目覚めの悪い夢だっただろうと背伸びをした。

そして俺は部屋の隅にあった細長い箱に目を奪われた。

え?あれは夢の中で押収した玩具の・・・。

俺は慌てて浴衣の姿の自分を見降ろしてホッとした。

俺、夢の中では学ランのまま寝たもん。やっぱ夢だなアレ。

そう結論付けた時だった。

寝込みを襲うような殺気に俺が銃剣を向けると、金属がぶつかり合うような甲高い音がした。




「いいね、コレ。これで兄さんのと渡り合えるよ」

「恭弥、お前、そのトンファーどうしたんだ」




ギャー!!恭弥がトンファー持ってる!!

誰だよこんな危険なもん持たせたの!!

キョトンとした恭弥は可愛らしく小首を傾げて言った。




「何言ってるの?昨日兄さんがくれたやつだよ」




犯人、俺でしたー!!!

てか、もしかしてあの箱の中身がトンファーだったの?!

一瞬であれが夢でなく現実だったと理解した俺は心底後悔した。

まさか今更返せとも言えず、俺、泣きたい。

草壁が危険性はないと言った言葉に今物凄く反論したい。

トンファー自体に危険性はなくとも、それを持つ人間が危険性大なんだよー!コンチクショー!!


* ひとやすみ *
・あーあーあー、ついに武器を持った弟。
 主人公どうやら寝起き最悪の様子。ビビリが冷静になるほど怖いものはない。笑
 武器として使用するには使いにくいため、草壁は玩具と称しました。
 だけど恭弥に玩具を与えた日にゃ並盛崩壊も有り得る・・・。笑             (09/08/23)