ドリーム小説
今日、俺は念願の並盛中に入学する。
目的は並盛最強と言われる風紀委員に入るためだ。
並盛の風紀と秩序を守ると言えば聞こえはいいが、要するに不良の巣窟で、
俺のように自分の力を試したい奴が所属する委員会だ。
風紀委員を今の形にしたのはかつての卒業生で「総裁」と呼ばれた最強の男。
その伝説の初代委員長に憧れて入ってくる奴は山ほどいる。
俺は学校の敷地に入った途端に襲い掛かって来た奴等を全て返り討ちにして、汚れた手を払うように振った。
「最近の奴等は弱すぎる」
並中の現風紀委員長を倒し、俺は難なく委員長の座を奪ってその場をあとにした。
体育館から聞こえるマイクの声に入学式も中盤かと思いながら、何となく体育館へ向うと俺はおかしな男を見付けた。
異質な雰囲気を纏う外人の男が「故障中・立ち入り禁止」と貼られた柱を無視して扉に手を掛けた。
おいおい、故障中と書いてあっただろうが・・・。
男のその真新しい制服を見る限り、どうやら新入生らしい。
遅れて来たなら隣の扉を使えと声を掛けようとした時、扉は物凄い轟音を立てて開ききった。
ひしゃげた扉を一瞬見てから男に目を向けると、感慨もなく無表情で館内の視線を浴びていた。
男は堂々と生徒と保護者の間を割るように颯爽と歩き、皆の視線を奪った。
いや、まぁ確かにカッコいいが・・・。
そのままマイクの元へ向った事から、さっき教師が紹介した雲雀がこの男なのだと思った。
そして俺達の代表であるというその男は淡々とした表情で口を開いた。
「普通に楽しんで普通に学べ。以下略」
・・・・・は?
誰も彼もが同じ表情で雲雀の一挙一動を追うように視線を向け、呆然としていた。
今のが、挨拶でいいものなのか?
清々しいまでに簡潔な挨拶に呆けている間に入学式は幕を閉じた。
***
そして初めてクラスの奴等と顔合わせをした時、そこには一人完全に浮いている雲雀の姿があった。
ただ窓の外を眺めている男の雰囲気は尋常ならざる物があった。
酷く高圧的な金の眼が威嚇しているようで、普通の中学生ではないと物語っている。
こういう奴はヤバイのだと、俺の勘がそう言っていた。
だが、俺はもう並中風紀委員長なのだ。
雲雀に学校を掻き回させる訳にはいかない。
俺はすぐに踵を返して、風紀委員の部屋として使っている応接室へと向った。
「草壁委員長!どうしたんですか?」
「雲雀を摘む」
早めにそうしなければいけないような気がした。
だから俺がそう言えば、委員は皆楽しそうに顔を歪めていた。
俺が言うのもなんだが、荒くれ集団だな、ここは。
委員長を別の奴に仕立て上げ、俺が奴の隙を衝いて脅せばいい。
使う気はないが、どうにもならない時はナイフを突き付けてやれば仕舞いだ。
そうして俺は相変わらず目立っている奴を難なく見付けて声を掛けた。
「俺に何か用か?」
「お前、派手に飛び込んできた挨拶の奴だよな」
雲雀は金色の目を少し細めて頷いた。
近付いてみて分かったが、本当に端整な顔立ちをしている。
違和感を感じるくらい流暢な日本語と耳に心地いい声がさらに奴の男を上げている気がする。
少し悔しさを感じながら俺は用意していた言葉を紡ぐ。
「お前と遊びたい奴がいるんだが、ダチになりたいんだとよ。付いて来いよ」
首を廊下に傾ければ、奴はどこか面白そうに目を光らせて黙って俺に付いて来た。
ゾクリとするまでに綺麗に笑った顔に異常なまでの恐怖を感じた。
まさか、コイツを嵌めようとしている事が全部バレてるんじゃないだろうか?
無言で進んでいるのにどこか軽快な足音が背後から聞こえて、俺は動揺を抑えるようにゴクリと喉を鳴らした。
逃げ込むように応接室に飛び込めば、今朝俺が倒した風紀委員の連中がズラリと肩を並べていた。
それに少しだけ安心した俺に少し遅れて奴が入ってきた。
部屋を変わらぬ無表情で見渡して偽委員長に眼を留めた雲雀は淡々と口を開いた。
普通もう少し何か反応しないか、この状況なら・・・。
「お前ら風紀委員なのか?」
「よく分かったな。俺達は学校の風紀を乱す奴を取り締まる風紀委員だ。知っての通り一番強い奴が委員長って訳だ」
「ふーん」
興味のなさそうな声を出して、一瞬俺を見た雲雀に俺は身体を跳ねさせた。
まさか、俺が本当の委員長だとバレているのか?!
そんな事があるはずがない。
俺が委員長になったのは今朝の事だ。
そうこうしてる間に臨戦態勢を取った委員達に身構えるようにした雲雀が姿を消した。
素早い動きでしゃがみ込んだのだと俺は理解して、思わずナイフを取り出す。
こいつには普通にしてたら勝てない。
そう考えた次の瞬間には俺は奴に足払いをされて、乗り出していた体が奴を覆うように倒れた。
こけると思った俺の身体を支えるように奴は両手を上げてしゃがみ込んでいた体勢から一気に立ち上がった。
その拍子に俺はそのまま綺麗に投げ飛ばされ、持っていたナイフで顔を切った。
何が起こったんだ、今。
本当に一瞬だった。
あんな身のこなし、この場にいる誰も出来やしない。
俺に近付いてくる雲雀に視線を向けて目を離すことが出来なかった。
・・・・・器が、違いすぎる。
呆然としている俺の手を捻り、ナイフ奪った雲雀は面倒そうに眉根を寄せた。
俺は、ここで消されるのかも知れない。
「草壁委員長!!!」
先に我に返ったのは偽委員長で、俺の名前を読んだ途端皆が駆け寄ってきた。
それに大丈夫だと答えていると、雲雀がゆっくりとした足取りで近付いてきて膝を着いた。
そして俺に手を差し伸べて口を開いた。
「俺に付いて来い」
この言葉が胸に響かなかった奴はこの場にはいなかっただろう。
これほどの才能を持つ男が俺達に差し伸べている。
いずれこいつが辿り着くその高みを一緒に見てみたい。
俺はその言葉を深く噛み締めて、雲雀の手をしかと握り返した。
「どこまでも付いて行きます、委員長!!!」
そしてこの後、雲雀委員長があの伝説の総裁の息子だと知った俺達は彼に全幅の信頼を置く事になったのだ。
* ひとやすみ *
・またもフィルターが掛かったような主人公の解釈・・・。
何ていうか辿り着く先は保健室ですから。笑
てか、雲雀父は一体何をやらかしてるんでしょうか、全く。笑(09/08/15)