ドリーム小説

煙幕と共に雲隠れしたを探してボンゴレは奔走した。

事件を知るあの場にいた者達は全員まだ意識が戻らない。

至急、医療班を呼んだが、どうやら皆軽傷らしい。

何か少し引っ掛かるが、俺はザンザスに代わり捜索の指揮を執った。

犯人はキャバッローネのに間違いないとそう言えば、驚いた事にザンザスは怒りのままに暴れ回った。

なぜそうなったのか俺には全く分からなかったが、取り乱しているザンザスには指揮は執れまいと覚った訳だ。


逃走したを探すのにボンゴレが誇る情報部を送り込んだが、全く足取りが辿れない。

あの惨状といい、この雲隠れといい、何て子供だ。

が何を考えてこんな事を行ったのかは知らないが、ボンゴレに喧嘩売ったとしか思えない行為だ。

この大ボンゴレが体裁に傷を付けられて黙ってる訳がない。

を祭り上げてでも捕まえなければ納得しないはずだ。

そのための「生死を問わず」の命令だった。

とにかく、あんな危険な子供を放っておく訳にはいかない。

そんな時に急に騒がしくなった廊下に目を向けると、扉を開けて彼女はドレスの裾を軽く持ち上げた。




「ごきげんよう」

「君は、レディ・ディヴィナトーレ」

「私の事は気になさらないで下さいな、若獅子。答えはまもなく自らやって来ますから」




丁寧な口調で相変わらず訳の分からない事を仄めかす彼女に俺が口を開きかけた時、その知らせは同時に届いた。

部下とキャバッローネ9世が慌てて部屋に飛び込んできた。




「どうなってるんだ、家光!」

「九代目が目覚めました」




一度に押し寄せた朗報に目を瞬くと、レディがクスクスと楽しそうに笑った。

「ほらね」と呟いた言葉に俺は眉根を寄せて、キャバッローネとレディを連れて九代目の元へ向った。





***






「九代目!」

「あぁ、家光。今どうなっている?」




薄く微笑んだ九代目は有無を言わさずそう言って俺を黙らせた。

現状を淡々と伝えると、九代目は小さく頷いて俺の目を見た。




「今すぐ君の捜索を止めさせなさい」

はドン・ボンゴレ、キャバッローネの皆、そして父と弟を救ったという事よ、若獅子」




全てを知っているような口振りで話すレディに同意した九代目に俺は疑問の目を向けた。

悲しそうな目をした九代目はキャバッローネを見て深々と謝った。

俺はもちろんキャバッローネも分からないようで困った顔をしていた。




「私が捕まらなければ君にあんな酷い事をさせずにすんだのだよ。君の言う通り、彼は素晴らしい子だった。

 少しでも彼を疑った私が恥ずかしい。私が不甲斐ないばかりに彼のオーラに呑み込まれてしまった。

 彼はたった一人で私を救い出し、ボンゴレに敵の居場所をリークした」

「まさかあの電話は、」

君だ。彼は被害を最小に抑えるために自ら危険を冒して取引相手に成りすました。

 キャバッローネを救うために君に付いて行ったのは私の意思だ」




言葉を失うキャバッローネに俺は同意したい。

十一歳の子供がそんな事まで考え、最善の策まで捻り出すなんて信じられなかった。




「そう、あなたの考えた通り、はお父様を殺させないために先に殺してしまった事にしたのよ」

「私が撃たれた?傷など・・・」

「ペイント弾か。俺達が部屋に着いた時、あなたは凄い出血で生きていないと思った」

「おそらく君は私をいつでも殺せると主張した事で、逆に父親の君を人質にされる可能性を消したかったのだろう」

「えぇ。部下に頼んで外では敵を捕獲させ、その後の事は弟が殴られてが逆上しておしまい」

「レディの予知には恐れ入るよ」

「お褒めに預かり光栄ですわ、ドン・ボンゴレ」




取り返しのつかなくなる前に俺は慌てての捜索打ち切りを部下に伝えた。

完全に情報が逆回りしていた事に舌打ちした時、レディの真っ赤な唇が初めてストンと笑みを消した。




「すでに過ぎ去った未来なのでお伝えしますが、もし彼がそれ以外の選択をしていたならば

 ここにお二人方は存在していません。もちろん彼もその弟も」




ハッと息を呑んだ。

危ない綱渡りをしていたのだと告げられて背筋が凍る。

九代目だけは何かを考えるようにしていたが、その内容をも彼女は分かっているようだった。




「私はの願い、行動、真実を伝えにここに来ました」

「・・・これは勘なのだが、もしや彼は」

「えぇ、ドン・ボンゴレ。はもう二度とキャバッローネに戻っては来ないでしょう」

「どういう事だ?!私の息子だ!」

君は罪悪感を背負っている気がしたんだよ。それと引き換えに私達は助かった」

「ドン・キャバッローネ。たとえ貴方達がに罪はないと認めても、彼は選び取ってしまった」

「どういうっ」




何が何だか分からない俺の前にまたも誰かが部屋に飛び込んできた。

それはあのロマーリオで、彼は取り乱したようにキャバッローネに叫んだ。




「ボス!今、ディーノ坊ちゃんの腕にキャバッローネの刺青が浮かび上がって・・・!」

「何だと?!」

「すでに運命は決まってしまったのですよ、ドン・キャバッローネ」




レディの声がその場にいた全員の心を乱したように思えた。

キャバッローネの刺青が浮かび上がったと言う事は後継者を意味している。

つまり、の存在はキャバッローネの血に否定されたという事だった。

何とも残酷な事態にディーノは暴れて左手の刺青を消すため手を刺そうとしたらしい。

の名を呼び続けるディーノが痛々しいと涙ながらに言ったロマーリオにキャバッローネは嗚咽で返した。




「彼はすでに国外に飛び立っていますが、どうかが離れていてもご子息である事を許してあげて下さい」

「当たり前だ!ウチにいなくても、ファミリーでなくなっても、は私の息子だ!」




キャバッローネの言葉にレディは嬉しそうに微笑んだ。

そして後に言う「かたしろ」事件はこうして幕を閉じたのだった。


* ひとやすみ *
・形代(かたしろ)とは身代わりと言う意味。または禊や祓の時に災いを移す人形のこと。
 ディーノの刺青に関してはこの日だけ浮かび上がった事にしてあげて下さい。
 まだ跳ね馬になるのは早いし、未来が視えた的な感じで捉えて下さると助かります。笑
 はぐるま編、あと一話お付き合い下さい!!!                        (09/07/22)