ドリーム小説

気が付くと俺は公園のベンチで寝ていた。

いくら人気が無いとは言え、物騒だなぁ。

俺はまだ血が飛び散っている服を見て、一瞬にしてアレを思い出した。

その記憶を振り切るように首を振って、ポケットに手を伸ばす。

一番初めに見付かったのはあの白い銃剣、次にパスポート、見覚えの無いクレジットカード、小さいメモ。




「うわ、インク滲んでる!えと、いつでも私を頼りなさい、か」




真っ赤な彼女が頭に思い浮かんで苦笑する。

ちくわにメモが詰められていた事から間違いなくあの執事が俺を運んだのだと思う。

それにしてもここはどこだろう?

あれから俺はどうしたんだろう?

暴走とも言えるとんでも事件を起こして、執事に車に乗せられブラックアウト。

確か俺がボンゴレに追われてるとか、安全な場所に連れて行くとか言ってた気がする。

ここが安全なのかぁ?


普通の公園を眺め渡して、俺は自分の手を眺めた。

爪の間が赤黒く変色している。

これは血だ。

一人になって考える時間が出来た途端、俺は身体に震えが走った。

俺の知り合いに危険が迫ってると知ってから、俺は感覚が麻痺した。

普段ならあんな恐ろしい所で芝居打ったり絶対出来ない。

まるで誰かが俺を操り人形のように操作していたようだった。




『大丈夫かい?』




そんな事を考えていたらふと声を掛けられて、初めてそこに人が立っていた事に気付いた。

アジア系の男の人だ。

ビクリと跳ねた身体を抱え込むようにして視線を向けると男の人は口元を緩めた。




『よかった、生きてるみたいだね。僕の言葉分かるかな?』

『・・・日本語』




どうやらこのお兄さんは日本人らしい。

久しぶりの日本語を聞いて少し落ち着いてきた。

今更気付いたけど、この人めっちゃ美形じゃん。

血塗れだから死んでるのかと思ったと朗らかに笑って言うお兄さんに思わず引き攣る。

ま、まさかこの人も裏の人とかじゃないだろうな?!




『どうしてこんな所で寝てたんだい?』

『分からない』

『そう。君の名前は?』



『じゃあ、何でそんなに震えてるの?寒い?』

『!!!』




歯がガチガチと音を立て噛み合わない。

組み合わせた腕を押さえ込んでも震えは隠しきれなかった。

見知らぬ人にそれを覚られるほどに俺の心は震え上がっていた。

ニコリと笑って俺に問い掛けるお兄さんを見ていられなくて俺は膝に顔を埋める。

逃げるように膝の間を選んだけど、光を遮った暗闇は怖さと悲しさを大きくしただけだった。




「弟に会いたい!父さんに会いたい!俺はこんな事望んでなかった!だけどこうしないと全て失ってたんだ!!

 俺はどうすればよかったんだ・・・?!どうしてこんなことに・・・・!」

『・・・はお父さんと弟を、家族を失くしたんだね。守るために』

「俺は、・・・俺は、みんなが好きだから・・・っ」




みっともないくらいに泣いて喚いてお兄さんに迷惑を掛けた。

膝の中の暗闇しか見えない俺にはお兄さんがどんな顔をしてるかなんて分からない。

訳が分からない事を叫ぶ血だらけの子供になんか関わらなければよかったときっと感じているのだろう。

お兄さんは黙り込み、俺の鼻を啜る音だけが耳を打つ。

何で見ず知らずの人にこんな事言ってんだろ、俺。

泣き言なんて言えるような家じゃなかったから、他人になら言っていい気がしたのは確か。

でもこのまま何も言わずに立ち去ってくれる方がありがたい気がした。

その願いが通じたのか、お兄さんが動く気配がして俺は荒んだ気持ちを押し込めるように膝を強く引き寄せた。




『泣けばいい。泣いてる事が馬鹿馬鹿しくなるまで泣いたらいいんだよ、




ふわりと温かい何かが俺を包み、お兄さんに抱き締められたのだと理解するまで時間が掛かった。

一定のリズムで背中を優しく叩かれて、不意に父さんやディーノの記憶がぶり返した。

命の代わりに失ってしまったモノの大きさに俺はお兄さんの腕に縋り付いて大声でわんわんと泣いた。







***






ディーノみたいに大声で泣いた俺は気だるさを感じながら、恥ずかしさで堪らない。

てか、もう公園はすっかり暗くなっていてお兄さんに申し訳がない。




『・・・お兄さん、物好きだな』

『僕は結構気まぐれみたいなんだ』




気まぐれにも程があると思う。

血塗れの外人のガキに服と腕を貸して、長時間付き合うなんて。

何考えてんだろ、この人。

大泣きした俺の頭はスッキリしていた。

悲しんでいても仕方ないし、一人で泣いてもどうにもならない。

第一、父さんやディーノの命を救った事を後悔している訳が無いんだ。

そう思った次の瞬間にはこれからどうしようと現実が待っていた。




『僕にはね、奥さんがいて、より小さな子供がいるんだ』

『・・・・?』




突然始まったお兄さんの家族自慢に俺は素直に首を傾げた。

俺のまん前に座り込んで視線を合わせたお兄さんをガン見する。




『君が父と弟を失くしたのなら、僕が父親になってあげよう。弟ももれなく付いて来るよ』

『・・・・・・・・・・・・・・・・は?』

『ふふ。我が家にお兄ちゃんが出来たと知れば奥さん驚くだろうね』




そりゃ驚くだろー?!

てか俺がビックリだよ!!この人、気は確かか?!

俺の答えも聞かず、お兄さんはヒョイと俺を抱えて歩き出した。

暗い公園にうっすら公園の名が書いてある看板を見付けて俺は目を疑った。

 並 盛 第 二 公 園 ? !

ここ日本なの?!てか並盛って、大なく小なく並がいいってアレ?!

俺の混乱を余所にお兄さんは長いコンパスで颯爽と歩きながら、クスリと笑った。




『そうだな。・・・。うん。君は今日から雲雀だ』

『・・・・・ひ、ばり?』

『そう。ひばり。並盛で雲雀なんて名前うちだけだから、わかりやすくていいでしょ?』




オーマイガーッ!!!

神様、やっぱアンタ極悪非道だなー!!!

うわーん!!俺が一体何したって言うんだよ、コンチクショー!!!


* ひとやすみ *
・という訳で、はぐるま編終わりです。笑
 主人公だって悲しい時は泣きます。本人はわんわん泣いたつもりですが、
 おそらく子供らしからぬ感じだったと思います。
 お兄さんの正体は雲雀父。2章は雲雀家から始まります。どうぞ今後もよろしくお付き合い下さい!(09/07/25)