ドリーム小説
俺が知ってる限りで以上に強い奴はいない。
だが、誰にもの考えなんて読めないのだ。
人を怯えさせ誑し込む空気と実力を持っているのに、奴は弱者に情けを掛け労わる。
狂おしいほどの恐怖と才能を持つアイツに敵意を見せた奴には分かる。
が闇に巣食う強者で、格が違うのだと。
だが、はアイツの美貌と才能に惚れ、好意を見せた奴にはとことん甘い。
学校の馬鹿共やへなちょこの弟、言いたかねぇが一度奴に牙を向けたこの俺にもだ。
奴が本気を見せる相手がこの世にいるのかすら怪しい。
「馬鹿にしてんのかぁ、アイツはぁ!」
「仕込み火薬で後ろから兄さんを倒そうとした奴が何言ってんだよ」
「だからってクシャミしたフリで避けるかぁ?!」
俺は今日も何の気なしに奇襲を避けられ、ムシャクシャしていた。
への奇襲はいつもおかしなフリをして全てかわされ、挙句に奴はそんな事は知らんとシラを切りやがる。
おそらく被害を最小に抑えるための芝居だろうが、それにしたって腹が立つぞぉ!
「諦めろよ。兄さんはそういう人なんだ。俺だって兄さんが何考えてるのかなんて分からないんだぜー?
この前、手に噛み付いたままの猫をブンブン振り回してたけど、あれもきっと俺には分からない理由があるんだ」
「猫ぉ?なんだそれは・・・」
「分からないからすごいんだ!」
その内容は誰が聞いてもおかしなもんだが、それがだと聞けばなぜか納得出来た。
俺達の百歩先を読む男と猫との関連を思案していると、急に不満そうな声が隣から上がった。
「ていうか、何でスクアーロが付いて来るんだよ?」
「・・・俺がどこで昼飯を食おうとテメェには関係ねぇだろぉ」
「大有りだ!兄さんはスクアーロが気に入ってるから、っ・・・・何でもない」
不機嫌そうに黙り込んだディーノと裏腹に俺は自然と口の端が上がる。
弁当を抱え、待ち合わせの屋上に向うディーノに付いて行けば、訓練場に差し掛かった所で偶然にも俺は
弾詰りしたライフルが暴発した瞬間を目撃した。
銃口が捉えているのは目の前にいた女で、俺は向かいに険しい顔をしたが既に体勢を崩しているのを見た。
鉛弾が鈍い音を立てて何かにぶち込まれ、女が悲鳴を上げて初めて時間が流れ始める。
散らばった弁当の残骸と弾け飛んだ鞄、無傷の女、足を一歩踏み出し何かを投げたような体勢をしていた。
バラバラだった点が線で結ばれ、事の次第に気付いたのはディーノも同じだったらしい。
唖然としながら俺達はが女に歩み寄るのをただ見ていた。
咄嗟に鞄を投げて弾除けにするなんて・・・。
「大丈夫か?」
「あ、あの様!助けてくださってありがとうございました!」
「・・・本当に大丈夫か?」
は女の肩を抱いて立ち上がらせると、もう一度無事を確認した。
それは発砲させた馬鹿がやる事であって、テメェがそこまでやる必要はねぇんだぞ!
頬を赤く染めた女に、俺は眉根が寄るのを感じた。
その矢先、奴はあろう事か女の髪にするりと何度も指を通してに弄ぶように風に晒す。
の甘い顔に真っ赤になったのは女だけじゃなく、俺とディーノは止めるように走り出した。
「兄さん!!何やってんだよ!!」
「ゔお゙ぉぉい!テメェはまた見境なく!!」
「とにかく兄さんが一緒だとその子また倒れるから!」
沸騰して倒れそうな女を余所に、は発砲した馬鹿に視線を向け「お前も大丈夫か?」などと口走った。
コイツは馬鹿か。
全部この男がした事なのに何で情けを掛ける?
「言ったろ?兄さんは予測不能だって」
ディーノの呟きが風に攫われ、困ったように聞こえてきた。
その後、馬鹿男と沸騰女は案の定に惚れたような目を向けて、治療室に向っていった。
また無意識に面倒なの増やしやがって・・・。
***
「兄さん!人助けもいいけど、ほどほどにしてくれなきゃ困るんだって!」
「・・・何の事だ?」
「テメェはまたそうやってシラを切る!さっきが情けを掛けた女と野郎の事だぁ!」
バレてるって言うのに相変わらずの知らんフリに俺は腹を立てながら、昼飯のパンに食らい付く。
大した事じゃないとばかりに目を逸らして、は何の感慨もなく穴の開いた小説に目を落としている。
弾が貫通し殆んど読めないだろうに、むしろ面白そうにペラリと捲って視線を落としている。
ふと顔を上げたと目が合って、少し驚く。
「スクアーロ、お前、甘いの好きなのか・・・?」
「別に好きでも嫌いでもねぇ。腹の足しになればそれでいいからなぁ」
甘ったるい匂いが気に障ったのか「そうか」と何かを考えているようなに手の中の甘いパンを見る。
他が売り切れてなければ、もっとマシなパンを買ったんだがなぁ。
そんな事を考えてると不意にのひんやりした手が俺の手首を掴み引き寄せられた。
普段あまり開かれない口が大きく開いて俺の食べていたパンを掠め取っていった。
頬をの髪が撫でて行って、奴が何をしたのかに気付き目を見開く。
何気なさそうに、口の端のクリームを妖艶に舐め取ったのを見て、俺は頭が痛くなった。
コイツは馬鹿だ!!!
自分の容姿の事には全く気付いてない大馬鹿者だ!
計算か?計算なのか・・・?!
こんなを女共に見せれば、どうなるか・・・!!
「あーもー!俺の弁当残り全部あげるから!」
「腹が減ってるなら先に言えぇ!!コレもやる!」
に食い掛けのそれを押し付けると奴は不思議そうにしながらもどこか嬉しそうにしていた、気がする。
ディーノの弁当も奴に押し付け、俺は心から頼むようにに言う。
やはりへなちょこも思う所は同じだったらしく、声が被る。
「「
だから誰彼構わずそういう事するなー!!! 」」
小首を傾げたを殴りたくなった俺は何も間違っていないと思う。
その後、おかずをフォークに突き刺し、食えと言わんばかりに口元に運んできたに俺は問答無用で斬りかかった。
俺はぜってぇ間違ってねぇぇ!!
* ひとやすみ *
・子鮫、尊敬する人が自分の事には無頓着だと気付くの巻。笑
最強なのにそれをひけらかさない主人公にヤキモキしてます。何せ流派潰しとかしちゃう子ですから笑
多分本人はスクに奇襲かけられてる事すら知らないでしょうね。猫って何よ・・・?笑 (09/07/01)