ドリーム小説

俺が再び目を開けた時、そこはベッドの中だった。

見覚えのない部屋に、見覚えのないベッド。

そうか、俺は再び生きる道を選んだんだっけか・・・。

俺は伸ばした手の大きさに驚いて飛び起きると、腕に刺さる点滴や酸素マスクに気付いた。

全てを引っこ抜いて外すと、軋むような身体の痛みに、長い間寝ていたのだと感じた。

一体、ここはどこなんだろうか。

枕を背もたれにベッドに座り込んでいると、部屋の外で何やら言い合う声が近付いてくる。

ジッと扉を見ていると、騒いでいた声とは裏腹にそっと扉が開いた。

入って来た二人と目が合えば、キラキラ輝いていた瞳は見る見る内に雫を湛えた。




兄さん!!」

兄さん!!」




俺を押し倒すように飛付いて来た二人は恭弥とディーノだった。

仰向けに寝転ぶ俺にのしかかるように縋り付く二人に胸の辺りが引き攣れるような痛みを感じたが、

二人の肩が震えているのに気付いてしまったら何も言えなかった。

五千も部下がいる男が、プライドの高い一匹狼が、子供のように泣いている。

・・・あぁ、俺はこいつらに心配を掛けたんだな。

俺の肩口に顔を埋める二人の柔らかい髪を撫でると、一層顔を押し付けてきた。

何だかそれが無性に嬉しくて、俺は二人を抱えたまま天井を見つめて笑い声を上げた。

すると、二人が顔を上げてきょとんと赤い目を俺に向けた。

それからすぐにムッとした顔をして俺を睨んできた。




「何笑ってるの?」

「笑いごとじゃないぜ。兄さん、四日も目が覚めなかったんだからな!」




・・・へぇ、四日か。通りで身体が軋むと思った。

恭弥とディーノは不機嫌そうに怒っていたが、それでも俺は笑いを止めることが出来なかった。

だって、俺がここにいるんだぜ?

一体、何のバグかは知らねーが、確かにあの時俺は選んだ。

たとえ新たに生まれてくる赤子が俺だと誰も気付かなくても、こいつらと、こいつらの傍でもう一度生きたいと。

なのに現実はどうだ?

俺はこの通り、元ののままで、そして腕の中に弟達がいる。

こんな幸せなことが他にあるか?

笑っている俺をウサギのような目で睨んでくる恭弥とディーノ。

お前ら、そんな目で睨んでも怖くねーよ。




「泣くほど心配してくれたのか、二人とも」

「「 な、泣いてない!! 」」




ぶふっ!!シンクロしてんの!!

恭弥はひっそり顔を背け、ディーノはこっそり袖で目を拭いていた。

俺は可笑しくて可愛い弟達に我慢することなく心から笑いまくった。

そんな俺の大笑いが気持ち悪かったのか、二人は目を丸くして互いに顔を見合わせていた。




「・・・なぁ、兄さん」




涙が出そうなほど笑い転げていた俺に、静かなディーノの声が掛けられて意識が向く。

ディーノはまだ俺の胸元に縋り付くようにしていたが、視線は俯いて下を向いていた。




「俺達はさ、まだ怒ってるし、いろいろ理解出来ないこともあるけど、今は何より安心してるんだ」




真剣なディーノの声音にいつの間にか俺の笑い虫はどこかに消えてしまった。

気が付けば、恭弥も俺の胸に顔を伏せている。

吐き出すようにそう独白したディーノに俺は少し驚いたが、黙って聞くことにした。




「俺は兄さんは最強でそれより強い奴はいないと思ってた。だから兄さんがいなくなるなんて考えたこともなくて、

 大怪我をして動かなくなった兄さんを見て怖くなった。また兄さんを失ってあんな思いをするのはもうたくさんだ」




ディーノの声が急に固くなり、俺の服をギュッと握り締める。

こいつが今何を考えているのか俺には手に取るように分かった。

かたしろは俺の我が侭と不運な事件が重なって起きた。

俺はいろいろなものを犠牲にして満身創痍で日本へと渡り、そして恭弥に出会った。

あの時は本当に余裕がなくて、ディーノのことを思いやってやることなんて出来なかった。

ディーノがあの時の感情を吐露するのを聞いて、俺の心がズキリと疼く。

俺はお前を苦しめたのに、お前はまだ俺を必要としてくれるのか・・・?




「兄さんは勝手だし周りのことなんて何も考えてない大馬鹿者だけど、僕にとってたった一人の兄さんだ。

 たとえ兄さんが世界を敵に回したとしても僕がそんな世界ぶっ壊してあげるから、うちに帰ってきてよ、兄さん」




ディーノの言葉尻を受けて、恭弥が顔を埋めたまま、そう呟いた。

いつもの強気はどこへ行ったのか、その言葉はまるで迷子の子供のように頼りないものだった。

お前にそんな声を出させたいわけじゃなかった。

ただ、俺が傍にいればお前を傷付けると思って、俺は家を出たんだ。

だけど、恭弥が、ディーノが、俺を必要としてくれるなら、俺は・・・・。




「・・・本当に、俺にはもったいない、よく出来た弟達だ」




もう一度、兄と呼んでくれるか・・・?

祈るように二人に視線を向けると、いつの間にか二人は顔を上げていて、

俺の言葉を噛み砕いて一拍おいてから瞳を輝かせた。


あぁ、本当にお前達は、俺の光だ・・・。

ディーノも恭弥もタイプは太陽と月のように全然違うが、どちらも俺を慕い全身で喜んでいるのが分かる。

・・・俺、本当にこの世界に生まれて、こいつらの兄として生きることが出来て、本当に良かった。

神様、俺、あんたに散々振り回されて、碌な目に合わなかったし、大変なことばかりだったけど、

ディーノと恭弥、ザンザス達とレディ達、それから綱吉達に逢わせてくれてありがとう。

俺は可愛い弟達をギュッと引き寄せて、感慨を込めて呟いた。




「ただいま」




俺の胸に押し付け抱き寄せた二人の表情は見えなかったが、きっと二人は笑っている。

何で分かるかって?

そんなの・・・・、




「「 おかえり、兄さん 」」




俺は二人のお兄ちゃんだから、分かるんだよ。


* ひとやすみ *
・これにて最弱ヒーローは完結です!・・・・・と言いたい所ですが、これじゃあまりに締りが悪いので
 もう少しだけ続きます。本当はここで終わりの予定でしたが、気に入らず付け足しました。笑
 それでも若干納得いく終わり方ではないので、期待はしない方が無難です。予告はしましたよ?笑
 番外予定をくっ付けたので、番外が消滅しました。(?!)こんな話が見たいとか、この話の裏側が見たいとか
 呟いて下されば、書くかもしれません。何か書きたいんですが、ネタがないんですよ。笑
 あと三話で本当に完結です。寂しい気もしますが、あと少しだけお付き合い下されば光栄に思います!!          (12/10/20)