ドリーム小説

『ふざけるなッ!!そんなこと許可できるはずがないだろ!!!』




そんな叫び声を聞いて俺の意識はゆっくりと浮上した。

まるで寝起きのようなふわふわした感覚で、ぼんやりと声の主を探すと眼下に激高したアーサーを見付けた。

その隣で青褪めてプルプル震えているガレノスもいる。

何をそんなに怒っているのか分からないが、とにかく二人は物凄く取り乱していた。

激高しながら一方的に捲し立てるアーサーを冷ややかな声が遮った。




『・・・勘違いするなよ。別に俺はお前達の許可など必要としていない』




その淡々とした声に第三者がいるのだと初めて気付いた。

俺は声のした方向を見て、そこにいた人物に目を見開いた。




「何で俺がいるんだよ?!」




ソファーに気怠そうに座っていたのは間違いなく俺だった。

思わず大声をだしてしまったが、部屋にいた誰もが叫んだ俺に気付いていないようだった。

まるで見えていないかのように俺を無視する三人にようやく俺は状況を察した。

これは俺の過去の記憶だ。

ここは俺が滞在していたホテルの一室で、確かこの状況は来てもらったアーサーとガレノスに

診察してもらった後の流れだ。

まさかこんな所で、過去の自分と対面する羽目になるとは。

自分のしたことを反省しろと言わんばかりの状況に、俺は溜め息を吐きつつ、

過去の自分達を空から見下ろすような形で見つめた。









***








俺が九代目の代わりにモスカに入ろうと決めたのは、スクアーロを見舞った時だ。

止めようがない争奪戦に成すすべなく流されていた俺は、自分のせいで混乱する状況に酷く悩まされていた。

俺がいなければこんなことにはならなかった。

けれど自分から消えることも、打開策を思い付くことも、情けないことに俺には出来なかった。

ならば、せめて争奪戦で付いた傷は全て俺が請け負おう。

傷付いたスクアーロを見てそう決意した俺は、自己満足かもしれないがようやく動き出せたのだ。

別に俺は自虐趣味があって自殺するためにモスカに入ったわけじゃない。

原作でモスカの動力源とされた九代目は一命を取り留めていたし、早々死ぬことはないだろうという甘い打算と、

万が一原作通りになった場合に九代目を守るための保険のつもりで俺はモスカに入った。

もちろん、俺も痛いのは嫌だし、出来る限りの策は練った。

その内の一つがアーサーとガレノスの二人だった。




「お前達に頼みたいことなんだが、・・・まず俺を診察してくれ」




ティエラに呼ばれて体調の悪い俺を診察に来た二人を、別室に呼んで俺はそう言った。

二人は何か言いたそうに訝しげに見ていたが、俺の顔色の悪さに口を噤んで診察を始めた。

だが、すぐに二人は異常に気付き、目を見開いた。




「心音がしない・・・?!」

「嘘でしょ?!測定不能?!」

「・・・だろうな」




まるで死人でも見るかのような目で俺を見てくる医者二人に苦笑する。

まずそうなることを予測していた俺はあえてこの二人に診察させた。

その方が理解が早いだろうからな。

この異常な状態の俺を知られるわけにはいかずティエラを突き放したが、医者の手は今後どうしても必要だったのだ。




「簡単に言うならここにいる俺は本体ではない」

「・・・作り物ってこと?」

「いや、むしろこの存在の希薄さは、・・・いやでも、触れたのは・・・」

「精度が悪かったか。正解だアーサー。これは有幻覚。実体ある幻覚」




骸が昔、熱く語っていたことをヒントに俺は実体ある幻覚を作り出した。

理論上は不可能ではないが、実力不足なのでいつか出来るようになりたいとか何とか。

難しいことは俺にもよく分からないが、幻術なんてようするに妄想力さえあれば何でも出来てしまうのだ。

嘘だけどそこに実体があるんだよー、と言い聞かせて作ってみたら出来ちゃったんだよね。

何で幻覚まで使ってそんなことをと首を傾げる二人に、俺はゴーラ・モスカの構造を説明した。

あれは人体生成された死ぬ気の炎を吸い上げて動く兵器なのだと。

すると敏いアーサーが顔色を悪くした。

俺は近くのクローゼットを開け放って、二人に中を見せて言った。




「お前達に頼みたいことはこの人を助けて欲しい」

「・・・な?!」

「ボンゴレ九世?!」




ぐったりと動かない九代目を見て、医者二人は素早く反応して駆け寄った。

彼はモスカに入り動力源になっていたと告げると、二人は厳しい顔をして動き始めた。

外的な怪我はないものの生命力である炎を奪われ続け、老体に相当な負担をかけていた。

すでに九代目の搬出の手続きをこっそり終わらせていた俺はガレノスに後を任せたが、

アーサーは動かない九代目に視線を落としたまま静かに呟いた。




「・・・ボンゴレがモスカに入っていたなら、今、あのモスカに入っているのは誰なんです?」




アーサーの震える声に忙しなく動いていたガレノスもピタリと止まった。

すでに気付いているだろうに強い視線を向けて確認してくるアーサーを見て思わず笑った。

幻覚だというのにこの顔色の悪さ。

しかも誰よりも俺を気遣ってくれる執事とティエラには何も伝えていないと来たら、そりゃバレるよな。




「今、中にいるのは俺だ」




絶望的な顔をした二人に俺は苦笑した。

医者に命を電池に兵器動かしてるって言うとは、俺も大概不遜だよな。

だが、九代目を治療するには医者が必要だし、俺の身体の保険としても傍にいてもらいたかった。

スクアーロの見舞いから帰った俺は一時的にヴァリアーに幻術を掛けて、モスカから九代目を引き摺り出した。

バラしたモスカと九代目をクローゼットに隠して、本国から届いたもう一体のモスカに自分で入った。

入ってから呑まれそうになる自我を何とか保って、モスカの傍に幻覚の俺を作って置いたのだが、

まさかここまで消耗が激しいとは思わなかった。

本体の調子が悪くなるにつれて、精度が保てなくなってきた幻覚の俺は顔色を悪くした。

まぁ、おかげでアーサーとガレノスを呼ぶ口実が出来たけど。




「俺はこのまま争奪戦を続ける。二人は九代目の治療を頼んだぞ」




そう告げた俺に一瞬呆けてから二人は怒鳴り散らしたのだ。

それが冒頭のアーサーのあの叫びというわけ。

その後、俺は権力を以て二人を黙らせたが、おかげでアーサーが本体の状態を多少反映する

有幻覚の俺に張り付いて離れなくなったのだ。


* ひとやすみ *
・えぴろーぐです。兄様と一緒に何があったのか過去の記憶を覗いてみましょう。
 兄様、モスカを一体ぶっ壊して、九代目共々クローゼットの隠してました。
 何か隠す時はベッドの下かクローゼットという安易な発想が兄様クオリティ。笑
 さぁ、あと6話くらいかな。楽しんでいこう!                       (12/10/06)