ドリーム小説
シトはチェルベッロに付いて並中に来ていたが、何が起きても手出しするつもりはなかった。
が守護者に割り込んだせいで原作がどう動くか気になってはいたので、
雲の争奪戦を見には来ていたが、ほぼ原作通りで気を抜いていた。
今日この試合が終わったら、シトは試練の結果をに伝えるつもりだった。
だが、モスカが異常なほどのスペックで動き始めた辺りから、少しずつ原作とのズレが生じ始めていた。
一体何が起こっているのかとを観察してみるものの、表情は全く変わらず、それどころか動きは隅の方で
時々自動砲台を避けるくらいで、本当に争奪戦に参加してるのかと疑わしく思えるほど影が薄かった。
何だか気持ち悪い違和感を感じながら、シトは校舎の上から全体を見渡していた。
「・・・結局、原作通りか」
恭弥が壊したモスカが暴走を始め、綱吉をターゲットに絞るまで原作通りの結果だった。
ホッと一息吐いた瞬間、シトは今までの存在を忘れていたことに気付いた。
慌ててグラウンドを見下ろしてを探したが、あちこちで上がる砂煙が視界を遮りが全く見つからない。
どうしてあんなに存在感の強い人間を忘れることが出来たのか。
ここに来て離れた場所での観戦を後悔しながらシトはそんなことを思った。
「・・・そうだよ。何であのがフィールド内で人目を集めずにいられたんだ?」
が気配を断とうとしていたなら、あんな中途半端なことはしないだろう。
なら何であんなことに?
シトは首を傾げながら、フィールドから消えたを探した。
***
危険因子として綱吉にターゲットを絞ったモスカは一切容赦がなかった。
搭載している銃弾の全てを綱吉に向けて放つかのように一斉放射した。
炎を逆噴射して移動する機動力を得た綱吉は、間一髪それを躱して弾幕はグラウンドに着弾。
物凄い砂煙と地響きの中、集中砲火を浴びる綱吉を隼人と良平が心配して声を上げる。
だが、攻撃の手を緩めることなく、モスカは避けた綱吉を待っていたかのように、
胴体部にある圧縮炉から綱吉を狙って砲撃した。
綱吉はそれもするりと躱し、躱された砲撃は校舎へ当って爆発した。
さらに撃たれ続ける銃弾を躱して空に飛び上がった瞬間だった。
そこにモスカが待ち受けており、綱吉は正面で圧縮粒子砲が出力を上げる音を聞いた。
「十代目!!」
隼人の叫び声に避けることを諦めた綱吉は、すぐに攻撃へと転じて炎を纏った拳を圧縮炉へ叩き込んだ。
腹部にめり込むように入った拳に、モスカは吹き飛んで地面に墜落した。
そのあまりのスピードと迫力に、武と了平、隼人の三人は歓声を上げた。
「つ・・・強い!!」
「あぁ」
「さすが十代目!!」
喜ぶボンゴレ側に焦ったレヴィはザンザスを見て驚いた。
なぜだかザンザスが笑っている。
争奪戦に負けた上に、暴走したモスカを止められてしまっては、ヴァリアーの完敗である。
レヴィはザンザスのその不気味さに息を呑んで、再びモスカに視線をやった。
綱吉と共に修行から戻って並中に駆けつけていたバジルとリボーンが、
グラウンドにめり込むモスカを見て声を上げる。
「さすがです!あんな機械兵器、沢田殿の相手じゃない!!」
「・・・だが一つひっかかるな・・・」
「え?」
「モスカを全力でヒバリと戦わせて勝ち越しを決めてから皆殺しにすることも考えられたはずだ」
なぜ敢えてザンザスはモスカを負けさせたのか。
・・・いや、この場合仕組んだのはか?
まぁ、どっちが主犯かなんてどうでもいいが、何でこんな回りくどいことを・・・。
ザンザスのあの顔はまるで、モスカが負けることを、待っているようではないか。
「ザンザス・・・一体これは・・・」
綱吉が不審に思って疑問の声を上げると、往生際が悪くも倒れていたモスカが綱吉に向かって飛んできた。
振り返った綱吉はモスカを片手で止めると、今度こそ動けなくなるように
炎を纏った手で胴体を縦に思いっきり焼き切った。
膝を着くように停止したモスカは高温の死ぬ気の炎で機体は融かされ、頭部から胴体部分まで中が見えていた。
蒸気と共にズルリと音を立てて、中から無数のコードに繋がれた何かが地面に滑り落ちた。
「中から人が・・・!!」
蒸気の蔓延する中、地に伏せる影は意識がないのか微動だにしない。
落ちたそれにザンザスは極悪な顔をして笑ったが、綱吉の前に引きずり出された人影に次の瞬間言葉を失う。
「・・・ッ?!」
椅子を蹴倒す勢いで立ち上がったザンザスは、モスカから出てきたに血の気が引いていた。
どうなっている?!
何でモスカからが出てくるんだ!!
ショックで動けないザンザスの感情を言葉にするようにバジルが呟く。
「そんな・・・なぜここに?!」
「ど・・・どうなってんだ・・・?・・・え?なんで・・・モスカからさんが・・・?!」
混乱する綱吉は死ぬ気を解いて、倒れているの傍で膝から崩れ落ちた。
リボーンがに駆け寄って、容体を見るも酷い有様で、素人がどうにか出来るレベルをとっくに超えていた。
リボーンはモスカの内部を見聞して、舌打ちをする。
「・・・モスカの構造、前に一度だけ見たことがある。は・・・ゴーラ・モスカの動力源になってたみてーだな」
恐ろしすぎる事態に理解が追い付かない綱吉達は動揺を隠せない。
誰に聞いていいものか分かってもいなかったが、綱吉が「どーして?!」と悲鳴のような声を上げると、
噛み付くように鋭い声がザンザスから返ってきた。
「どーしてじゃねーだろ!てめーがを手にかけたんだぞ!!」
まるで噴火する火山のように怒鳴り散らすザンザスの迫力に、ベルとレヴィは震える手を握り締めていた。
あまりの怒りに手を出すことも忘れ、必死に叫び続けるザンザスの声はまるで啼泣する赤子のようだった。
ザンザスは何でこんなことになっているのかと、酷く動揺していた。
ほんの少しの後悔と自分への怒り、綱吉への憎しみと、の愚かさへの失望と
いろんな感情が相俟ってザンザスの心はぐちゃぐちゃだった。
青褪めてドクドクと血を流して動かないを見て、どうしようもない怒りを全て綱吉にぶつける。
「誰だ?を容赦なくぶん殴ったのは。誰だぁ?モスカごとを真っ二つに焼き切ってたのはよぉ?!」
「そんな・・・オ、オレが・・・さんを・・・」
「いやぁぁぁぁ!!ーーー!!」
普通の中学生が人一人の命を背負えるはずもなく、ザンザスの言葉の重さに綱吉は耐えられなかった。
追い打ちを掛けるように、事態に気付いたティエラが悲鳴を上げ、あちこちでを慕う人々の声が上がる。
未だにモスカを叩き切った感触が残る手を、綱吉が震えながら見つめていると、
今まで動かなかったの手がそっと綱吉の手に触れた。
「・・・お前の、せいじゃない。悪いのは・・・俺だ」
「さん!!」
「全部、何とか、したかったが、やっぱ、上手くいかないもん、だな・・・」
ようやく目を開けたは綱吉が気にしないように笑おうとしたが、咽喉がやられて声にならなかった。
青くなっている綱吉の向こうで立ち尽くしているザンザスと恭弥に気付いて、は口元を緩めた。
恭弥はあり得ない状況に怒りよりも恐怖が勝り、さっきからずっと動けないでいた。
・・・僕の一撃のせいでモスカが暴走して兄さんがこうなった。
泣きそうな顔で不安そうに立ち尽くす恭弥の心を読んだかのように、は目を細めて笑う。
「・・・何だ、恭弥。まさかお前、自分のせい、だとか、思って、ないよな・・・?確かに、あの一撃は、効いたが、
お、前の・・・攻撃、ぐ、らいで、やられる、わけ、ねぇ・・・だろ」
「兄さん・・・!兄さん!兄さん!!」
「・・・それと、な。・・・あの時、殴って、わる、かった」
金に輝く瞳を優しい色に染めて微笑むに恭弥は一層不安に駆られた。
何でこんな時に謝るの?!
それじゃまるでこれが最期みたいじゃないか。
ぶんぶんと首を振って縋るように見つめたはすでに視線を恭弥に留めていなかった。
「・・・そう、怒るなよ」
「・・・ふざけんなよ、テメエ。いつもいつも勝手なことばかりしやがって、カッ消すぞ!!」
「悪いな、ザンザス・・・。後始末くらい、自分で、何とか、したかったが、身体が動かない・・・」
ゴボリと口から血を吐いたに周囲から悲鳴が上がる。
その直後、ようやく現場にアーサーと執事が到着したが、はザンザスから視線を離さなかった。
アーサーが指示を飛ばす中、はザンザスに鮮やかに綺麗に微笑んだ。
「あ、とは・・・頼んだ・・・」
争奪戦の終戦を願ってザンザスに声を掛けたは、力尽きたようにそのまま目を閉じた。
の名前を必死に呼ぶ皆の声が届くより先に、の意識は闇へと落ちて行った。
* ひとやすみ *
・言うことは何もありません。全てこの話に込めたつもりです。感じ取ってもらえると嬉しいです。
これにて、ぐしん編後編完結。さぁ、えぴろーぐです! (12/09/09)