ドリーム小説

並中グラウンドはあちこちで爆発が起こる悲惨な状態と化していた。

最早、争奪戦云々ではなく、恭弥に破壊されて暴走したモスカの爆撃で、フィールドは吹き飛んでいた。

制御のきかなくなったモスカは予測不能な軌道で飛び回り、無差別に攻撃を繰り返している。

戦場のような現状に、ザンザスは爆撃を避けながら大声で笑った。




「ぶはーはっは!!こいつは大惨事だな!!!」




こうなってしまえば、ズブの素人である子供達にどうにか出来るものではない。

ザンザスはそれを分かっていながらも震えるような戦況に笑いが止まらなかった。

・・・これだ。

これこそがいつもザンザス達ヴァリアーが身を置いてる世界だった。

ルールやモラルがあるバトルなんてものは、いつもの空気と世界が違いすぎて、息苦しかったのだ。

ようやく自分の居場所に帰って来たような気がしたザンザスは、水を得た魚のように生き生きとした表情をしていた。

だが、それを見ていた隼人と武は、笑うザンザスに冷や汗を流しながら悔しさを滲ませていた。


一方、未だ爆撃を放ち続けるモスカを避けながら、クロームは走っていた。

今、様と部下の女の人が向こうに行った気がする。

何となく気になったクロームはただそれだけを目指してグラウンドを横断していた。

それに気付いた了平はハッとして叫んだ。




「おい!!!フィールド内は危険だぞ!!」




声を掛けられたクロームはその時になって初めて気付いたのだった。

自分がトラップだらけのフィールド内に入っていたことに・・・。

止まろうとして一歩踏み出した足が無情にもカチッと音を立てて何かを踏んだ。

それが何なのか考える余地もなく、青褪めるクロームに足元から甲高い警告音が鳴り始めた。

派手な爆発音と共にクロームは地面に投げ出されたが、自分の上に庇うように乗る二本の腕にハッとする。




「千種・・・犬・・・!」

「ったく世話のかかる女らびょん」




犬と千種が助けに入って危機を逃れたが、三人は自分達がまだフィールド内にいることをすっかり忘れていた。

嫌な機械音がして顔を上げると、自動砲台が三人を感知して狙いを定めてきた。

顔を歪めた三人はさらに砂煙の向こうで、圧縮粒子砲の圧力を高めているモスカにも気付いてしまった。

モスカと砲台に挟まれた三人の危機に隼人と武が気付くも、とても間に合いそうにない。

三人が最期を覚り、伏せた瞬間、同時に攻撃が放たれた。

物凄い光と熱を伴って爆炎が上がったが、一向に衝撃が来ないため、クロームはそっと顔を上げた。

そこには三人を庇うように立つ鮮やかなオレンジ色の炎を纏った綱吉の姿があった。




「来たか」




ザンザスは額とグローブに大きな死ぬ気の炎を燃やす綱吉を見つめた。

あれだけの純度の炎ならガトリングの弾ごときは融かされるか。

それよりもモスカが放ったあれは高圧の死ぬ気の炎だというのに、炎で軽々と吹き飛ばしやがった。

ザンザスはニンマリと笑うと小さな声で呟いた。




「だが、カスから消えていく。それに変わりはねぇ」




どちらのカスが消えるか、見物だな。

せいぜい自分が選んだ結果に苦しめられろ、ジジイ。

モスカの放った弾幕の中をグローブから炎を逆噴射して、避けながら宙を飛ぶ綱吉を見ながらザンザスは笑った。

綱吉が頭上からモスカの残った左腕を焼き千切って振り返った。




「おまえの相手はオレだ」




両腕を失いボロボロのモスカは危険因子としてターゲットを目の前の綱吉に絞った。









***









突然始まった爆撃にティエラは驚きながらも足を止めることはなかった。

校舎の影へ消えたを追って曲がってみたものの、どこにも主人の姿は見当たらない。

さてどうしたものかとティエラは腕を組む。

今日の昼のことといい、今のことといい、には怪しい動きが多すぎる。

一体何を企んでいるのかとティエラが眉を顰めた時だった。

突然校舎横の植え込みがガサリと音を立てたので、ティエラが警戒態勢を取ると、

物凄い勢いで猫が飛び出してきた。

慌てたように出てきた猫は正面のティエラに気付くと、飛び上がって方向転換して逃げ去った。

何だ猫か、と呟いてから、何か小さな疑問が引っ掛かった。

正面のティエラに気付かないほど慌てていた猫はまるで何かから逃げているようだった。

もし逃げていたとするなら、一体何から逃げていた?

自然と猫が飛び出してきた方を見たティエラは、何となく校舎横の植え込みを覗いて驚いた。




「気付かれたか」

?!」




そこには校舎に背を預けて、腰ほどもない植え込みに隠れて座り込むの姿があった。

力なく足と手を投げ出して座るは、見るからに顔が青白く、大量の汗を掻いていた。

明らかに様子がおかしいにティエラは悲鳴を上げて、向かいに座り込んだ。




「え、どうしよう!救急車?!医者?!アーサー?!」

「・・・落ち着いてくれ、ティエラ」

「だって!だ、だって、大丈夫じゃないでしょ、?!」




混乱するティエラに返事も表情も変えず、は黙り込んだ。

いつも女性には紳士なが何も言わないことで、ティエラは現状の深刻さを覚った。




「頼む。落ち着いて話を聞いてくれ。今はお前を気遣う余裕がない」

「え、話?な、何?」

「俺のことはいいから、最悪の事態を避けるために暴走してるモスカを止めてきてくれ」




こんなに苦しそうにしているのに、放って置いてモスカを止めに行けという。

そんなこと出来るはずもなく、ティエラは嫌だと首を振った。

傍を離れそうにないティエラに、は冷や汗が滴る顔を歪めて言った。




「俺に命令させる気か?いいから、あれを止めてきてくれ。・・・行け、ティエラ!」

「・・・っ」




再び鋭い声で行けと叫ばれ、ティエラは渋々立ち上がって、後ろ髪引かれながら、走り出した。

渋りながらもモスカを止めに行ってくれたのではホッとしてそのまま目を閉じた。

角を曲がってが見えなくなると、ティエラは急に足を止めた。

止めに行けって言ったって、主人を放って置くなんて出来るわけないじゃない!

ティエラはの言いつけを破って、モスカの元へは行かずに携帯を取り出した。




「チクワ!!お願い、の容態がおかしいの!アーサーを今すぐ連れてきて!」




電話を切ると、ティエラはの受け入れ態勢を整えるべく、モスカとは真逆の方向へ走り出した。


* ひとやすみ *
・愉しそうなザンザス。そして急激に強くなって現れるツナ様。
 兄様は兄様で大変なことになっている様子。
 何だか徐々に長くなってきていて申し訳ないです。手が止まらず自重出来ませんでした。笑
 今回のタイトルの意味は乱気流。入り乱れたこの状況、さてどうなることやら。         (12/08/20)