ドリーム小説

「ティーが医長を呼びつけたと言うから何事かと思いましたが、様が元気そうで安心しました」

「大げさなんだ。少しダルいだけなのに医者まで呼んで」

「だって、が心配だったんだもん」




ホテルの一室で一見和やかな光景が繰り広げられている。

だが笑顔で話すボスとリーダー、ティエラ嬢の三人に対して、私とガレノスは酷い顔をしていたと思う。

・・・私達は知っている。

その笑顔の裏で、腹の探り合いが激しく行われていることを。


彼らの間で何があったのかなんて、私達に知る由もない。

ただ、彼らは互いにバレないように単独で動いているようだった。

そして私達も失敗すれば、代償は命だけでは済まないだろう。

つまり、私達は巻き込まれたのだ。

思惑が錯綜する恐ろしい企みに。


私とガレノスの二人がここにいるのは、体調の悪いボスのためにティエラ嬢に呼ばれたからである。

だけどそれは表向きで、ボスのいるホテルに着いた時、私達はティエラ嬢にこう告げられた。




『医者なら傍にいる正当な理由が出来るわ。が何か不審な行動をしていたら私に教えてちょうだい』




・・・つまりボスの監視役で呼ばれたということらしい。

もちろん、その時何も知らなかった私達は否と首を振ることも出来ず、曖昧に返したのだった。

これだけなら話は早かった。

ティエラ嬢は自分が呼んで私達が来たと思っているが、本当の所は少し違う。

話は私がボスからジャッポーネ滞在延期の命令書を渡された時へと遡る。

















「執事には伝えておくから、争奪戦終了まで残ってくれないか」




スクアーロの治療が一段落して帰国準備にかかっていた時、ボスが私達にそう言った。

その時、手渡された命令書の下に、なぜかもう一枚紙が重ねてあった。

何気なく覗き見た紙の上に乱雑に書かれた極秘の文字に、私は慌ててそれを隠した。

医者である私に極秘の話とは一体何の用なのか。




「念のためだ」




最後にそう呟いてボスは病室を出て行ったが、用心のためにここまでするとは。

手紙に書かれていた内容は非常に簡潔だった。


――五分後に連絡を入れる。七階東ロビーにて一人で待て。


ボスが出て行って、まだ一分も経たない。

ちなみに七階東ロビーは少し離れてはいるが、スクアーロがいるこのフロアも七階にある。

チームのメンバーに荷解きを指示して、私はトイレへ行くと言って部屋を出た。

ここは手術室やICUなど、病院の核を担う部屋が集まる管理棟なのだが、私達は七階の数室を陣取っていた。

リーダーが理事長の肩書を使って一体何をしたのか分からないけれど、偽造パスまであるので棟内を歩き回れる。

渡り廊下を通って東病棟へ行くと、患者がわらわらと歩き回り、受け付けも忙しそうに対応していた。

待合の椅子に座る気にもならず、柱に凭れて連絡を待つことにした。

これだけ人が多ければ、ボスが紛れ込むのも難しくはないだろう。

そう思って腕を組んだ時だった。




「Sorry, Are you Dr. Arthur? You got a call.」

「・・・to me?」




驚いたことに看護服を着た女性が困惑顔で私に英語で声を掛けてきた。

彼女に付いて行きながら、私は苦笑していた。

まさか病院の電話で連絡が来るとは。

彼女が困っていたのは恐らくボスが英語で話したのと、私が管理棟七階の謎の医者だからだろう。

電話に出るとやはりボスだった。




『時間がないから簡潔に言う。優秀な医者をあと一人連れて俺の元へ来い』

「・・・いつ?」

『そうだな・・・。合図は恐らく俺以外、執事かティエラのどちらかから来るはずだ』

「はず、とは?」

『俺がそう仕向ける。分かっていると思うが、これは極秘。執事やティエラにもだ』

「それは、そちらを最優先にと言うことですか?」

『あぁ』




受話器を置いて、私は厄介なことに巻き込まれたと頭が痛くなった。

リーダーやティエラ嬢にも秘密の任務とは、一体ボスは何を企んでいるのか。

私が顔を上げると、こちらを窺っていたここの医者達がそそくさと視線を外した。

電話を取った看護師に礼を述べて、私は管理棟へと歩き出した。




「どうしたものかな」

「あら?何の悪巧み?」




渡り廊下の先から声がして立ち止ると、角からガレノスが笑みを浮かべて出てきた。

この様子だと、後をつけてたな・・・。

電話の内容までは聞かれてないだろうが、私は良い生贄が現れたとニッコリ笑った。

すると失礼なことに、ガレノスは顔を引き攣らせて後退した。

悪いけど、お前も巻き込むよ、ガレノス。



そうしてボスの共犯者となった私達は、ボスの企み通り、ティエラ嬢に呼ばれてここへ来たのだ。

だが、まだこの時、何のためにこんな回りくどい真似までしてボスが私達を呼んだのか、深く考えていなかった。

ティエラ嬢に偵察を頼まれた後、私とガレノスだけがボスがいる部屋への入室が許可された。

突き刺さるティエラ嬢の視線を背中に感じながら室内に入ると、ボスはソファーに座り込んでいた。

私達は見るからに顔色が悪いボスに眉根を寄せた。




「ちょっと、どうやったら・・・!」

「わざわざ悪いな。少し疲れが出ただけなんだが。奥で診察してくれ」




ボスはガレノスの声を遮って、入り口を指差してから口元に人差し指を立てた。

ティエラ嬢を警戒しているのに気付いた私達は渋々口を噤んで、奥へと向かうボスに続いた。

しかし、ボスは奥の部屋のバルコニーへ出ると、付いて来いと言わんばかりに隣室のバルコニーへと飛び移った。

ボスの寝室だと窓がないため、こうはいかないが、なぜこの部屋に通されたのかようやく納得がいった。

いくつかバルコニーを経由してある部屋に入るとボスは振り返って私達を見た。




「お前達に頼みたいことなんだが、・・・まず俺を診察してくれ」




そこで見た診断結果に私達は愕然とすることになる。


* ひとやすみ *
・最弱ヒーローも残す所、あと十数話となりました。
 ここから他人視点ばかりになりますが、ラストまでノンストップで行きますので
 最後までお付き合いいただければ嬉しく思います!!
 ちなみにうちの医療チームに女性はいません。つまりガレノスさんは男の娘です。笑   (12/08/12)