ドリーム小説
の様子がおかしいことにティエラが気付いたのは、霧の争奪戦が始まる少し前のことだった。
ソファーにダラリと寝そべったがポツリと呟かなければ、もしかしたらずっと気付かなかったかもしれない。
「今夜はここに残る」
嵐戦もそう言って観に来なかったので、ヴァリアーの面々はすんなりとそれに頷いて部屋を出て行った。
執事は相も変わらずのために裏工作に勤しんでおり、部屋にはとティエラの二人だけが残された。
スクアーロの件以降、忙しくなったためティエラはチェルベッロの審判を降り、主人の傍で控えていたのだが、
何だか違和感を覚えてジッとを窺って気付く。
「・・・、何だか顔色が悪くない?」
「問題ない」
は力なく手を振って即答したが、見れば見るほど顔が白いような気がする。
それにこの部屋に入ってきてからそう言えばは全くソファーから動いていない。
一度気付いてしまうと体調不良としか思えず、ティエラは焦ってに詰め寄った。
「連日の疲れが出たのかしら?!熱は?!」
「俺に触るな!」
「・・・っ」
掌での熱を測ろうとしたティエラには飛び起きて鋭い剣幕で叫んだ。
その迫力にティエラは思わず手を引き、肩を震わせた。
自分に対して怯えているティエラを見て、はやってしまったと後悔した。
前髪を乱して肩を落とすと、は静かに謝った。
「悪い。お前が悪いわけじゃないんだが、今は一人にしてくれないか。寝てれば治る」
俯いて零すように喋るの様子から心底参っているのだと感じ取ったティエラは、
困らせないようここは従うことにした。
寝室に戻るからティエラ自身も誰も入れるなと託ったので、心配ながらもティエラは寝室の扉前で主人を見送った。
青白い顔で傍に来ることを拒むは、もう一度ティエラに謝って寝室へと消えた。
扉が閉じた後もティエラは何かあればすぐに応えられるよう、扉の真ん前で待機することにした。
の寝室はガラス張りの大窓はあるが、そこは一人では開閉不能の窓なので出入り口はこの扉一つ。
動くにはこの扉を必ず通るので、ティエラはいつでも役に立てるよう扉の前に座り込んだのだった。
「・・・だけどやっぱり心配だわ。だってあのが私に気付かれるほど体調を崩してるのよ?」
あれからどれだけ時間が経ったのか、ひたすら沈黙を続ける扉を見つめていたティエラはついに痺れを切らした。
もしかしたら中で身体が怠くて助けを求めているかもしれないじゃない。
入室禁止を言い渡されているとはいえ、もしそうであれば黙って見ているわけにはいかない。
扉を開けて中を見るだけなら入ったことにはならないはずだと、ティエラは屁理屈を並べて寝室の扉を開けてしまった。
ゆっくりと開いた扉の先のベッドに視線をやって、ティエラは驚きに声を漏らした。
「・・・?」
フラフラと室内へ入ったティエラはそう広くはない寝室を茫然と見渡す。
けれど、の姿はどこにもなく、ベッドの上ももぬけの殻だった。
ティエラは力なくベッドに腰掛けて、嫌な予感に早鐘を打つ鼓動を聞いていた。
寝室の大窓は割れておらず侵入も脱出も不可能で、唯一の出入り口はずっとティエラ自身が張り付いていたのだ。
がこの部屋を出るのは不可能なはずなのだ。
冷え切っていたベッドから立ち上がったティエラは混乱を抱えたまま、寝室の外へと出た。
閉められた寝室を睨み、一体どこを探せばいいのかと頭を悩ませていた次の瞬間、ティエラは飛び上がることになる。
「トイレに行こうと思ったんだが、もしかしてずっと扉の前にいたのか、ティエラ?」
「?!」
ガチャリと音を立てて扉が開き、誰もいないはずの寝室からが出てきたのだ。
一体どうなってるのだと困惑を隠せないティエラに気付くことなく、は相変わらず白い顔で首を傾げている。
「・・・、どうしてたの?」
「どうしてたって・・・、ずっとここで寝ていたが?」
「・・・・」
は嘘を吐いている。
部屋に入った時、確かにはいなかったはずだ。
一体彼は何をしているのだろう。
押し寄せる不安を抱えながら、ティエラは不思議そうな顔をしている主人に黙り込んだ。
***
「まさかこんな普通の病院にいるとはな」
「・・・ここは一般病棟ではないはずだが?」
招かれざる客に室内にいた医者数人が殺気を放つ。
病院は普通でもこの医者達は明らかに裏の人間だと、侵入者ディーノは苦笑した。
雨戦の後、ディーノはスクアーロの救出に向かった。
だが、チェルベッロからは生存否定の一言しかなく、例の鮫はすでに殺処分されており、
直接調べさせてもらったものの鮫の体内にスクアーロがいた痕跡は発見出来なかった。
明らかに何かがおかしいので、僅かな希望を元に探しに探してようやくここに辿りついたのだ。
しかし、こうも怪しい医者がいるのなら、これは何か不測の事態が起こっているに違いない。
「・・・まぁ、とりあえずスクアーロの命を救ってもらったことには感謝するぜ」
「あんたに礼を言われる筋合いはないね。俺達のボスが判断したことだ」
「・・・跳ね馬、なぜ来た」
「悪いが、スクアーロは預からせてもらう。お前らがチェルベッロでないにしても、敵か味方か判断つかないんでね」
ディーノが鞭に手を掛けた所で室内は一気に緊迫した空気に包まれた。
しかし、涼しげな声が睨み合いを裂くように病室に響いた。
「ここは我らが引くべきだろう。なぜなら跳ね馬と争うにはボスの許可がいるのだから」
「何を言っているんですか。患者を取られるんですよ!貴方達強いんですから、何とかして下さい」
「・・・不可」
病室で本を読んでいたラブレーの一言に、新入りのダイスケは納得がいかず抗議の声を上げた。
しかし、医療チームはとディーノの関係を考え、患者と知己のディーノなら無茶はさせないだろうと
負けを受け入れるしかなかった。
よく分からないがスクアーロを連れて行く許可が出たと、
ディーノは混乱しながらも背後にいた部下に搬出の指示を出した。
キャバッローネの車に乗せられ、連れて行かれたスクアーロを見送って、
患者のいなくなった部屋を片付けながらセイヤーが思い出したように呟く。
「そういやさ、アーサーとガレノスどこ行った?」
「・・・彼らは管制嬢に連行された。なぜならボスの体調に異常があるから」
「テメェは回りくどいんだよ、ラブレー!」
「・・・ボス、熱」
「分かってんよ!」
個性的すぎる面々の中でセイヤーは心底アーサーとガレノスの帰還を願った。
だが、その二人が彼らの知らぬ所でとんでもないことに巻き込まれているとは、まだ誰も知る由もなかった。
* ひとやすみ *
・何だか兄様が怪しい動きをしています。災害級兄様に振り回されて二次被害がでなきゃいいんですが。
いろいろ他人視点が増えて、何だか時間軸がめちゃくちゃです。私もメモ取りながら大混乱。笑
ティエラが疑問を募らせています。さてさて、どうなることやら・・・。 (12/07/16)