ドリーム小説
あちこち手の加えられた校舎内でチェルベッロは目の前の物に難しい顔をして黙り込んでいた。
そこに居合わせたシトはふーんと呟きながら、三階の壁に開いている大穴を見上げた。
明らかに誰か侵入した形跡がある。
だが争奪戦中、日本にいるチェルベッロ全勢力を集めて警戒態勢を取っていたのに誰も気付かないのは異常だ。
誰もが見えない敵にゾッとしている中、シトだけは確信していた。
――しかいない。
「ご丁寧に浮かんでこないよう瓦礫を重石にしたのか。鮫の頭吹き飛ばしてその血でスクアーロの死をでっち上げた」
「!やはり、スクアーロは生きて?!」
「少なくとも助けられた時は生きていたね。じゃないとわざわざ試合中にフィールド内に忍び込む意味が分からない」
目の前に転がる頭のない鮫の死体を前にチェルベッロは皆息を呑んでいたが、シトだけは難しい顔をしていた。
問題はなぜここでが動いたのか、だ。
原作通りの流れの中でが動いたことはあまりない。
に関わり、自分が物語の当事者になってから、シトには先が見えなくなっていた。
正直ここまで来れたのは八割方レディの予言書のおかげだ。
それもにバレて効力は相殺、むしろ不利になってる気すらする。
雷戦の時はランボを助けに動かなかったのに、スクアーロだと助けるのか。
まさか自陣の兵だからとか、仲がいいからとかじゃないだろうな。
悩むシトにチェルベッロの部下達が言う。
「スクアーロ氏を捜索しますか?」
「止めときなよ。気付かれず逃げた奴が尻尾を出すと思う?」
「ですが!このままみすみす彼に逃げられたとは・・・」
「うん。言えない。相手もそれを分かってる。だから秘密裏に助け出した」
本当によく出来ている。
公式審判のチェルベッロが警戒態勢で見張ってる中、フィールド内に侵入されるなど失態もいい所だ。
ボンゴレにもヴァリアーにもそんなことを言えるはずがない。
言えば責を問われて引き摺り下ろされるのが関の山だ。
「この件を知ってるのは犯人だけ。なら、スクアーロは鮫に食われて死に、侵入などなかった。これが真実だよ」
失態を問われるくらいなら、なかったことにすればいい。
犯人も試合への干渉をバラすわけにいかないので、名乗り出ることはあるまい。
そうシトが言い切れば、その場にいた者達は悔しそうにしながらも頷いた。
***
とある総合病院の一室では横たわるスクアーロをジッと見つめていた。
いろいろと切ったり刺したり縫ったりしたせいで、まるでミイラ男のようだ。
それでも、無事生きている。
知らせを聞いた時は安堵しかなかったが、少し落ち着いた今、は悩んでいた。
――どうすればこの不毛な戦いの犠牲者を失くせるのか。
原作通りであろうとなかろうと、争奪戦が続く限り怪我人が途絶えることはない。
もともとこの争奪戦はこっそり息子を助け、ついでに十代目候補を鍛えるという九代目の我が侭から始まったのだ。
今でもザンザスに後継者の椅子を狙う野心はないので、残る二戦で綱吉側が勝てばすんなり終わるはずである。
そう終結までは読み切っていたが、まだ心に引っ掛かる棘がある。
何度も何度も考えたが、辿りつく先は納得のいくものではなかった。
ただ一つ、ある道を除いては・・・。
「最善ではないが、最良か・・・」
苦渋の選択には深く溜め息を吐いて肩を震わせたが、スクアーロの姿を見て瞳に決意を燃やした。
動かせる駒はあと一つだけ。
は病室を出て、隣室で帰国準備をしていた医療チームのアーサーに声を掛けた。
「執事には伝えておくから、争奪戦終了まで残ってくれないか」
呆ける医療チームを無視して一筆書きとめると、命令書を手渡して背を向けた。
命令書を受け取ったアーサーは渡された紙が一枚ではないことに気付き、その内容を見て息を呑んだ。
困惑を背中で感じ取ったは扉を閉める間際にポツリと呟いた。
「念のためだ」
扉が閉じられた後、残された医師達は一体何の話だと首を捻るばかりだった。
病院を出たは一人ホテルへと戻り、ヴァリアー幹部がいるフロアに立って深呼吸を一つ零した。
明らかにどこか気負っている様子のであったが、扉に手を掛けるとすんなりと部屋へと滑り込んで行った。
扉が閉まる間際に映ったの瞳は冷たい藍色に輝いているように見えた。
***
コンコンとノック音が聞こえて部屋に入って来たのはどこか不機嫌そうなマーモンだった。
マーモンはレヴィとベルを素通りして、ザンザスの隣に座るに目をやった。
「何だ、。帰ってたのかい」
「あぁ、さっきな」
「夜遊びもほどほどにしときなよ。・・・それでボス。許可をもらいにきたんだ。あの力を今晩の争奪戦で使いたい」
何とも言えない表情をしているの前で、ベルやレヴィが勝者の余裕を見せながらマーモンと話している。
アルコバレーノの力についてはザンザスもも詳しくは知らない。
だが、ザンザスは僅かに目を細めてを窺ってからマーモンに視線を向けた。
「許可する」
マーモンはそれ以外に用もなかったため、部屋を出ようとして何となく違和感を感じた。
室内を見渡してもいつも通り、それぞれが好きなことをして過ごしている。
僅かな違和感に立ち止るとキュンキュンと音を立てるモスカの前にいたと目が合った。
の金色の瞳はどこか薄暗く見えて、マーモンは首を傾げた。
「何かあったのかい、?」
「・・・いいや、何も」
「・・・そう。何もないなら、いいんだ」
理由のない不安感にマーモンは困惑しながらもそう返して部屋を出て行った。
可笑しなマーモンにベルやレヴィは笑ったが、は鋭い視線を閉じられた扉に向けていた。
* ひとやすみ *
・兄様の堂々たる暴走の結果が周囲に大混乱を巻き起こしています。
ヴァリアーのストッパーであるスクアーロはミイラと化していますし、
兄様もまた動き出した模様。少々他人視点が増えるでしょうが、
お付き合いいただけると嬉しく思います!! (12/07/08)