ドリーム小説

ここに来るまで命があった事が不思議に思える。

ひとえに俺を離れに案内してくれたボンゴレのお兄さんのおかげだろう。


お兄さんは九代目の部屋から出た俺に群がるマフィアを蹴散らしてそこから連れ出してくれたのだ。

突如として悲鳴を上げて襲い掛かってくる奴らを宥め、取り押さえ何度も俺を守ってくれたいい人だ。

しかも「その態度を何とかしてくれないと気の小さい奴らは耐えられません」と、

俺の不敬な態度が彼らの怒りを買っていたのだと丁寧にも教えてくれた。

ガキのくせに頭が高いんだよ!!って事だったらしい。

命が惜しい俺は無害オーラを出しながら、ヘコヘコと俯き加減で乗り切った。

あぁ、お兄さんあなたのおかげで俺、生きてます!




「ここが離れです。キャバッローネには必要ないと思いますが、ここにはあの方が居られます。

 下手に刺激すると丸焦げですのでご注意を。では」




そ、それって人間ですかー?!

颯爽と立ち去るお兄さんの背中が遠くなる。

前言撤回!!俺、これから死ぬかも!!

あぁ。もっと楽な人生を生きたいよ。






***






俺は離れという名の別宅を見渡して、隅にあった小さな建物の方へ向った。

お兄さんが言うそのおっかない火炎放射器みたいな人に俺は心底会いたくない。

だから時間が来るまで、人気の無い所でジッとしていようと考えたのだ。

遠くから見た建物はこじんまりしていたのだが、近付くと案外大きな建物でボンゴレの規模に驚かされる。

ここでこんなにデカイんじゃ、めちゃくちゃデカかったあの屋敷は一体どんだけだ。


人に会いませんよーに、と祈りながら開いた扉の先にあったのは花だった。

花で埋め尽くされたそこに足を踏み入れると、まるで夢の中に迷い込んだような錯覚に陥る。

どうやらこの建物は温室だったらしく、手入れの行き届いた花が色鮮やかだ。




「すっげー・・・、天国みたいだな」




そう小さく漏らしながら辺りを見渡した俺は気が付けば花に埋もれており、

まだ生きてるはずの自分がこの場に酷く不釣合いな気がした。


久々に穏やかな時間を過ごせそうだ。

生花の匂いが充満する温室を俺はただただ眺めて歩き回る。

歩いては止まって、また歩き出しては止まる。

それを何度か繰り返した頃、気が付けば目の前に白バラの生垣が聳え立っていた。


背後の花達を隔てるように連なる白バラの向こう側には何があるのだろう。

アーチ状に頭上を彩る白バラに俺は探検心を出して、アーチを潜った。

進むにつれて一気に暗くなった視界は、広い場所に出ると今度は一気に光が差した。

さっきまで暗かったから目が慣れるまでしばらく掛かる。

慣らすように何度も瞬きを繰り返して目に飛び込んできた白に息を呑む。




「白バラのテラス・・・?」




まるで不思議の国のアリスにでもなった気分だった。

いや、まぁ、俺、だけど・・・。


全面真っ白のバラに囲まれ、天井は吹き抜けで頭上に太陽が輝いている。

趣味のいい白いテーブルが置いてあって、近くにベンチが備え付けてあった。




「ここに紅茶でもありゃ、何でもない日を祝うぞ俺は」




ゴロンとベンチに横になり、俺は温室を暖める太陽に目を細めた。

ポカポカと気持ちいい空気に包まれ、俺はゆっくりとゆっくりと夢へ落ちていった。







***








『、ん・・・なたの、・・・い・・・』




何・・・?よく聞こえないよ。

お姉さん、もう一回言ってくれ。




ッ!!』

『ぜ・・・な、の・・・・い』




父さん?!

どうしたの、そんな苦しそうな顔似合わないって。




『そんなの俺は信じない!!消えろ!』

『・ん・・・た・・せ、よ』




え?今度はディーノ?

どうしたんだ、そんなに叫んで・・・?

みんなして一体、何がそんなに悲しいんだ。


というか、アンタは一体誰なんだ!

さっきからノイズだらけで聞き取れやしない。

お姉さんは俺に何が言いたいんだ!!



その直後、真っ赤なドレスを身に纏った女が急に現れて、俺の背後を指差す。

命じられるがままに振り向けば、そこに広がる赤。

驚愕に広がる俺の目が映し出したのは、血溜まりに倒れる父さんとディーノ。

どんなに走り寄っても全然近付けない二人に俺は涙を流して名を呼ぶ。

自分の声も何も聞こえない暗闇の中、女の声だけが耳を打った。




『 ぜ ん ぶ あ な た の せ い よ 』


















「・・・・ッ!!!」




バッ!と飛び起きた視界に飛び込む赤、赤、赤。

目の前をチラつくそれに恐怖を覚えて、掻き分けるように乱暴に振り払う。

鼻につく匂いが生花のそれだと気付いた時には、俺は汗だくで引き攣るように息をしていた。

ポタリと落ちた汗がベンチに落ちて、ようやくここがボンゴレの温室だった事を思い出した。

目の前にヒラリと舞い落ちた赤はバラの花弁で、赤バラなんてどこにもなかったはずだと顔を上げた途端、



・・・・心臓が止まるかと思った。

またも赤いそいつの瞳に俺の心臓は鷲掴みにされた。




「、誰だ・・・?」




ようやっと漏らした言葉に俺自身がハッとなった。

てか、この場合、俺の方が不法侵入者なんじゃー?!


* ひとやすみ *
 ・不思議の国の
  ヒーローにしては珍しい暗い話。まぁ続かないのがヒーローですが。
  一体、誰なんでしょうねー?(ワザとらしい・・・          (09/06/19)