ドリーム小説
意識が浮かび上がると、俺はもとの観覧席に座っていた。
すでに周囲に骸の気配はなく、俺達の周囲に漂っていた霧は跡形もなく消えている。
俺はハッとして執事を窺うと、まだどこかぼんやりと虚空を見つめていた。
焦って執事の前で指を鳴らすと、同時に外野が何だか熱い声を上げた。
どうやらまだ試合中であるらしく、皆スクリーンを注視している。
俺はそれ所じゃなくもう一度指を鳴らすと、執事の瞳が俺を見上げた。
「さ、ま・・・?」
「身体に異常は?」
「え、いえ、特に思い至りませんが、何か粗相をしましたでしょうか?」
珍しく混乱しているようだが、執事は何があったか分かっていないようだし、
ほんの少し催眠をかけられただけのようだ。
ホッとして首を振れば、執事は不思議そうに時計を見て目を見開いていた。
そりゃビックリするわなー。
執事にとっての一瞬の間に二十分も過ぎてたら。
冷え切ったカップに首を傾げる執事を横目に、俺はスクリーンを見上げた。
そして俺はさっきの騒ぎの意味を知る。
――鮫特攻。
スクアーロの大技の一つが放たれたのだ。
そして今、武が水に自身の姿を映して、刀の峰でスクアーロの首を強打したのだった。
首は急所の一つだ。
峰とはいえあれだけ思いっきり殴られれば、いくらスクアーロでも立てまい。
結局、リング戦は原作通りに終わった。
冷めた空気が流れるヴァリアー側が負けたスクアーロにお仕置きしようと動こうとした時、チェルベッロが水を注した。
「規定水深に達したため獰猛な海洋生物が放たれました」
その言葉に観覧席の空気は一気に冷え切った。
動揺する綱吉側を横目に俺は立ち上がって、嫌な予感をヒシヒシと感じながら呼びかけた。
「スクアーロ、俺の言った言葉、覚えているな?」
アクアリオン内には音声が届いているので、今のも聞こえたはずだ。
俺は試合前に引き際を間違えるなと忠告した。
まともな言葉は期待してない。
むしろ首を叩かれたのだから目は霞み、平衡感覚は狂い、吐きそうなはずだ。
だからほんの少し頷くだけでいい。
それだけで俺は安心出来るのだ。
頼むから素直に武に助けられてくれ。
気が付けば辺りは息を呑むように静まり返っていた。
スクアーロは水中に倒れながらも首をスクリーン用カメラの方に向けた。
『・・・、すまねぇな』
スクアーロは血を吐く口元を吊り上げてよりによって笑いやがった。
俺は怒りで目の前が爆発したかと思った。
「大馬鹿野郎がッ」
クルリとスクリーンに背を向けて歩き出すと、執事が慌てて俺の後ろを付いて来た。
怒りに任せて足音荒く歩く俺の背中にザンザスが声を掛けてきた。
「どこへ行く、」
「試合は終わっただろ。俺の好きにさせろ」
ザンザスの返答はなかったが、俺はそれを肯定と取って足を止めることはなかった。
スクアーロのあの笑みは自分の間違いを謝った苦笑ではなかった。
――あれは・・・、
あれは全てを諦めた奴の目だった。
そんなことをこの俺が許すとでも思ってるのか、あのバカは!!
角を曲がり観覧席が見えなくなると俺はアクアリオンの壁に手を添えて執事に声を掛けた。
「執事!ここにいる医療チームを全員呼び出せ。今すぐだ。俺はあのバカを殴りに行く」
「で、ですが、侵入はチェルベッロに止められるでしょうし、特殊強化されていて難しいのでは」
「問題ない。あれだけスクアーロが破壊して校舎が崩落しているから破壊音は紛れるし、
特殊強化と言っても窓くらいだろ。なら・・・」
唯一開閉出来る窓が厳重に塞がれているなら、出入り口を別に作ればいいのだ。
俺は炎を足に纏わせて、僅かな段差を足場に三階へと駆け上がり、
水音と瓦礫の滑落音に合わせて、三階の横壁を蹴り倒した。
――ドオォン
蹴り破った穴は瓦礫を出し鈍い音を立てたが、水のおかげで振動も少なく誰にも気付かれることがなかった。
中に転がり込んだ俺を天井タンクから降る雨が濡らすが、
まだ水は三階まで溜まっておらず全て二階へと流れ落ちていた。
水を全身に浴びながら俺は邪魔な髪を掻き上げ、アクアリオンの外で目を丸くしている執事に声を掛けた。
「あとは任せる」
スクアーロを助けるために俺がすることは、誰にも見つからないようにあいつを回収することだ。
え、それ無理じゃね・・・?
穴から二階の様子を覗き込めば、武がスクアーロに肩を貸しているのが見えた。
うわ、一階はもう水で埋まってるじゃねーか。
しかもよくよく見れば、時々鮫の背びれが水面に出ている。
これ、俺が二階に降りた所で、三人纏めて鮫のエサで終わりな気がするんだけど・・・。
考えなしでここまで来た自分に嫌気がさした所で急に建物が揺れた。
驚いて下を覗き込めば鮫が大口を開けて校舎に噛り付いていた。
おいおい。噛み付いただけでこの揺れはやばくね・・・?
こんだけ柱も床も穴だらけのアクアリオンに耐震構造も安全保障もなにもない。
冷や汗を掻いた俺がもう一度階下を覗いた瞬間、
大きな揺れが襲って武達が足場と共に僅かに残った一階の瓦礫の上へと落ちた。
崩落に揺れる三階の脆い足場が俺を乗せたままピシリと音を立てて崩れたのも無理はなかった。
「え」
身体が浮く感覚に咽喉が恐怖で貼り付いて声も出なかった。
瓦礫と共に落ちた俺は途中、武とスクアーロを追い越して一階の水の中へと沈んだ。
* ひとやすみ *
・兄様・・・、あんたどんだけ不運な子・・・!笑
しかも相変わらず感情で突っ走って墓穴掘りまくってます。
今後ちょっとオリキャラというか、通りすがりが数人出るやもです。苦手な人は回れ右! (12/05/13)