ドリーム小説

目が覚めたらというのは語弊であるだろうが、とにかく気が付けば俺はそこに立っていた。

一秒にも満たない僅かな間に全く別の場所に立っている状況に慣れてしまっている俺に悲しくなる。

霧が周囲に立ち込めていた時点でおおよその見当はついているが、

感知に遅れて執事を巻き込んでしまったのは俺の完全なる不手際だ。

ゴゴゴと地を揺らすような不思議な音が背後から聞こえてくるのを感じ、

俺は若干呆れと面倒臭さを滲ませて口を開きながら後ろを振り返った。




「わざわざここに俺を呼び込んで何の用だ、むく・・・ろ・・・ッ?!」




振り返って俺が見たものは、鋭い咢で俺を砕こうと迫り来る炎の龍だった。

あまりの熱気にすぐさま我に返って何とか飛び退ると、龍は俺を掠めることなく背後の地面を大破させて掻き消えた。

はぁぁぁぁぁ゙?!何で炎が地面を抉る?!つーか、何でいきなりこんな目に?!

地割れを起こしたような悲惨なひび割れをガン見しながらパニックに陥ってた俺は、

再び激しくゴゴゴと鳴り出した音に恐る恐る龍が来た方を見た。

・・・・・・お、鬼だ。怒り狂った夜叉が二人いる・・・!!

そこにはなぜだか酷く恐ろしい顔をした骸とクロームが爆発する火山をバックに立っていた。




「何の用ですって・・・?」

様の、ウソツキ・・・」




低く地を這うような声を漏らし、そっくりな髪を熱気に揺らした二人は火山の噴火と同時に片手を上げた。

火山から噴き上がった溶岩は二人に従うように、再び炎の龍になりギロリとこちらを睨んだ。

え、ちょ、何、え、まさか、待て、話を・・・・・・!

ギャアァァァァ!!!龍こっち来たぁぁぁ!!

俺は一目散に逃げ出して警鐘鳴り続ける頭で必死に生き残る術を捻り出そうともがいていた。

考えろ、考えろ、考えろ!!

何でか知らんが二人は怒っていて、俺は嘘を吐いたことになってるらしい。

そしてここは骸の幻想世界で、・・・ってことはあれは幻覚で作られた龍ってことか!

なら、やりようがある!

俺はクルリと後ろを振り返って立ち止った。

術士のリアリティを壊すには、知覚の支配権を奪って術で返せばいい。

・・・って、炎の龍を倒せるのって何?!

あぁ、そうだったー!

倒せる手段はあっても、俺にそんな逞しい想像力はねぇよ!!

えーと、えーと!炎だから水?龍と戦う人?!武器?!剣?!あ、水の剣?!それじゃ握れねぇ!!

あー!!もう、頼むぜ、俺の隠れた才能!!




「所詮まやかしの蛇だ、この程度・・・」




怖くない、怖くないと自分にそう言い聞かせる。

目前に迫った龍に俺はやけっぱちになりながらを真上へ掲げ、一気に真横に振り下ろした。

握っていたはずのは一メートルを超える氷の剣と姿を変えていた。

水は握れないから氷にしてみたとか、戦いで思い付いたのがハブ対マングースとか安易すぎる想像だが、

とにかく行くぜ!今の俺はマングースだ!アイツの口を閉じさせろ!

パキン、パリンと涼やかな音を立てる剣の冷気を纏って、俺は龍へと突っ込んで飛び上がった。

口を開けて俺が落ちて来るのを待っている奴に、剣を振り下ろして上顎を殴り飛ばし、

そのまま縫い止めるように両顎を貫通させて地面に突き刺した。

その瞬間、龍はもちろん辺り一面が一瞬にして凍り付き、俺が地面に降り立った途端に全てが砕けて消えた。

・・・うぅ、生き残ったよ、俺。

ちらりと骸とクロームを盗み見れば、悔しそうに舌打ちしやがった・・・!




「酷い挨拶だな」

「酷いのはどちらです。当分僕が自由に動けないからにクロームを任せたというのに」

「どうして様が敵側にいるの?私の家庭教師じゃなかったの?」

「全く。いつも神出鬼没に現れる上に、敵の雲の守護者とは。どうせ敵ならなぜ霧の守護者じゃないんですか!」

「「 え 」」




え、そこなの?!

若干クロームも驚いているように見えるのは気のせいか?

確かにこうして聞いてると俺が悪いように聞こえるが、俺だって望んでこんな状態になった訳じゃない。

骸だってなぁ、動けないのに家光から勝手に霧のリング貰ってきて、俺に丸投げしただろうが。

まぁクロームの件は成り行きとはいえ、面倒を放り出したのは悪かったと思っている。




「・・・俺にも事情がある」

「そうでしょうね。あの新たな雲の守護者とやらを見れば、大体碌でもない事情だと察せられます」

「え、あのゴーラ・モスカって人?」

「あれを人と呼んでいいものか・・・。あんな恐ろしいこと、人の所業かどうかも怪しいですよ、あれは。

 、貴方一体何をしてるんです?全く、マフィアってやつは・・・」

「俺はマフィアじゃない」




深く溜め息を吐いた骸にキッパリとそう言えば、骸は僅かに目を細めて口端を上げた。

そうですか、と愉しそうに笑う骸に俺とクロームが首を傾げる。

相変わらず何考えてるのか分からん、変な奴だ。

するとクロームが僅かに視線を上げて、骸の裾を引いた。

骸は今気付いたと言わんばかりに反応して、俺を見た。




「おや、犬が何やら騒いでいますね。どうやら雨の試合が終わりそうですよ」

「そうか。・・・骸、気が済んだか?」

「クフフ、僕が本当に満足するのはを手に入れた時ですよ。例え貴方がどれだけこの件の根幹に関わり、

 どれだけ凶悪で残忍なことをしていても、僕は僕の邪魔をしない限り貴方を止めはしないし、

 周りに何か言うつもりもありません。何より今回の件は僕に有益に働きそうですからね」




骸には粗方今の状況、そしてモスカの中身の想像が付いているようだ。

さすがとしか言いようがないが、その方針がマフィア嫌いで構成されてるから本当に何もする気がないのだろう。

俺的には助けてくれと声を大にして言いたいほどだが、これ以上巻き込みたくないので言葉にはしない。

溜め息を吐いて返せば、骸はニンマリと笑って別れの挨拶を述べて掻き消えた。


* ひとやすみ *
・骸さんとクロームちゃんのちょっとした意趣返し。笑
 勝てないの分かってるけど泣き寝入りは嫌だと暴れて、さぞかしカッコいい兄様が見れたことでしょう。
 ついにマフィアに墜ちたかと確認しに来てみたけど、やっぱり兄様は兄様で安堵した骸。
 この話も含め、若干余分な話が増えますが、付き合って下さると嬉しいです。                     (12/05/13)