ドリーム小説

観覧席はフィールド外にあると言われて、ザンザスを追って校舎の外に出ると何かとんでもない物が目に入った。

アンティーク調の肘掛と足に、真紅のベルベット地の背もたれ。

沈み込む身体を優しく包み込んでくれるあの椅子は間違いなく泊まっているホテルにあったやつだ。

なぜそれがここに堂々鎮座し、なぜ当たり前の顔をしてザンザスが座ってるんだ?

・・・・・・・おまっ、・・・まさか、わざわざ持って、きたのか?!

驚愕に立ちすくむ俺をザンザスは見やって、椅子の近くにこれまた用意されていた小さな丸テーブルに足を乗せた。

ザンザスは俺に座れとばかりに、もう一つ空いたまま佇む豪奢な椅子を顎で示した。

・・・えぇー?!俺やだよ!そんなプチバカンスみたいな空気!!

つーか、完全浮いてんじゃん!!

全力で拒否しようとした俺の横を風を切って執事が通り過ぎ、ザンザスの足をテーブルから叩き落とした。




「テーブルに足を乗せません。これは全て様のために用意した物であって、ザンザス様はついでなんですからね」





犯人はお前かーーーー!!!

ザンザスに歯向かう執事を茫然と見ていると、彼女はニッコリと笑いながら空いてる椅子を引いてこう言った。




「さぁ、様、お掛け下さい」




・・・・・・断れねぇー。

泣く泣くちょこんと椅子に腰掛ければ、どこから取り出したのか執事がついに紅茶まで入れ始めた。

俺はもう、何も言わんよ・・・。


気が付けば巨大スクリーンの中ですでにスクアーロと武が刃をぶつけ合っていた。

ちらりと横を窺うと綱吉達がハラハラしながら、スクリーンを見上げているのが見えた。

スクリーンの中では武の技で足場に溜まった水が宙に巻き上げられて目隠しとなり、スクアーロの剣が躱されたようだ。

付け焼刃の時雨蒼燕流剣術とはいえ、あのスクアーロを何度も躱せるとは、武のやつ、やるな。

綱吉の喜ぶ声を聞いて視線をやると、それに答えながらも難しい顔のディーノが目に飛び込んできた。

・・・そう、スクアーロは本気どころか、武がどこまでのやつか、遥か高みから見定めている。

反撃に出た武が両手で刀を振り抜き、タイミングをずらして片手で五月雨という技を放った瞬間、

スクアーロが放物線を描いて吹っ飛んだ。

感歎の声を上げる綱吉達にザンザスの近くに立っていたベルとマーモンが馬鹿にするように呟いた。




「めでたい連中だな」

「うむ・・・。ヴァリアーのボス候補になるということがどれほどか分かってないね」




二人が言うように、スクアーロはすでに確信した上でわざと攻撃を受けたふりをして遊んでいる。

大体、攻撃受けた瞬間、笑うやつがあるか。

武の初太刀からの動き、剣捌き、法則性、それらをつぶさに観察して、時雨蒼燕流を看破出来ると踏んだのだろう。

スクアーロは様々な流派に挑み、破ることで、刀剣術の全てを読み解いてきた生き字引と言ってもいい。

おそらく動体視力が半端ないため、一度見た技はたいてい見切ってしまう。

つまり、あいつの膨大な記憶の中に時雨蒼燕流の型があったか、類似する動きがあったかのどちらかだ。

紅茶を啜りソーサーへカップを戻したと同時に、水柱がいくつか上がり、

水が重力に従い落ちた時、肩から血を流す武の姿がそこにあった。

予想通りの結果に思わず溜め息を吐くと、携帯のバイブの音を微かに拾った。

執事が俺に少し外すことを詫びて、携帯を片手に少し後ろへと離れた。




「―――、・・・――!何ですって?!―――!――、」




何か仕事の内容だろうと、見送って視線だけやっていたら、電話に向かって叫ぶ執事がいた。

腹立たしげに声を荒げていたが、落ち付いて来たのかいくつかやりとりをして執事が戻ってきた。




「アクシデントか」

「いえ、命令違反の愚か者が出ただけで、特に支障はありません」

「命令違反?どこの誰だ」

「先日お話していたイタリア本部に派遣予定だった医療チームが、予定の航空機に乗っていないとのことで

 連絡を取ってみれば、今、ここにいるそうです・・・」

「・・・ここ?」

「はい。この並盛中学にチーム全員いるそうです」




呆気に取られた俺を放置して、青筋立ててる執事が言うには、ボンゴレ十代目候補とか、リング争奪戦とか、

せっかくジャッポーネに来たんだから見ておきたいってことらしい。

・・・・・・観光気分かよ?!

全員抹殺しますかとすげー笑顔で聞いてくる執事に俺はぶんぶんと首を振って何とか放って置いてあげてと呟いた。

執事まじこえぇぇ・・・。


スクリーンの中の雨の守護者対決はかなり武に厳しい状況になっていた。

気が付けば、武はあちこち血だらけで怪我だらけだ。

どうやら今のところ、戦いの内容は原作通りのようだが、最後までどうなるか分からない。

注意して見ておかねばと気合を入れ直した時、どこからか殺気を感じてハッとした。

・・・これは、霧?

視界を漂う白い霧に目をやって、執事を見るとどこか濁った目で遠くを見ていた。

くそ・・・っ!これは、攻撃を受けている・・・!

何とかしようにもすでに時遅く、目蓋が勝手に落ちてくる。

ザンザス達ヴァリアーがいる場所より少し後ろに俺達は座っていたので、

誰にも気付かれることなく俺は深みへと落ちた。


* ひとやすみ *
・相変わらず兄様に喋らせるとどうでもいいような阿呆らしい話になります。
 ただ戦闘を冷静沈着かつ正確に読んでいるのは兄様クオリティです。スクアーロの僅かな
 表情の変化も見逃しません。凛々しい顔の兄様の戦闘評価が気になってるのがチラホラいるんですが、
 やっぱり気付いてないのは本人だけ。無意識なら男前。意識させると阿呆の子です。無念。笑
 さて、次はお察しの通りあの人が出ます。                                 (12/05/06)