ドリーム小説

結局、は嵐の争奪戦に顔を出さなかった。

もしあの時一緒にいれば、何があったのか分かったのだろうか。

俺はそんな埒が明かないことを考え、首を振った。

昼を過ぎたというのに未だ開かない扉を睨んで俺は踵を返した。

クソッ・・・イライラする!

いつもなら扉を蹴破って本人から無理やり聞き出す所だが、のことになるとどうも上手く動けなくなる。

苛立ちをぶつけるように部屋の椅子を蹴り倒すが、晴れるはずもなくソファに雪崩れ込んだ。


昨夜、争奪戦が終わってかなり時間が経ってから、が一人帰って来たらしい。

まるで血を浴びた亡霊のように。

直接見たわけじゃねぇが、あのちくわ女が刺々しくてまともに声を掛けられなかったと言ってたくらいだ。

余程凄まじい空気を放っていたのだろう。

その様子を想像して思わず鳥肌が立った。

もう一人の女が泣きながら必死に昨夜並盛周辺で殺人事件が起きてないか調べてたのも無理はないな。

・・・クソッ!落ち着かねぇ!

俺は飛び起きると、もう一度部屋を出ての部屋へと向かった。

それを何回か繰り返した後、扉はあっさりと開いて出てきた当人は俺の気も知らず不思議そうに目を瞬いていた。




「珍しいな、ザンザス。お前がこんな時間に起きてくるなんて」

「それはこっちのセリフだ、カスが」

「何怒ってるんだ?」




ふざけるなよ、カスが!怒りもするだろーが!

暗殺部隊の人間が、あのちくわ女共が、お前が恐ろしいと震えてたんだぞ。

アイツらがたかが血如きで今更怯えるかよ。

何があったのかと見に来てみれば、いつも通りにケロリと無表情決め込みやがって。

言いたいことが山ほどありすぎて口籠っていると、不意にの目が気になった。

いつも通りだが、何か違和感がある・・・。

何だ?何か色が違わねぇか?

・・・気に入らない色だ。

俺の勘がコイツに何かあったと告げている。




「・・・テメェ、何だその面は?」

「それはこっちの台詞だが?」

「あぁ?!」

「何だ?また昨日の傷が開いたのか?」

「そういうことじゃねぇ!・・・クソッ」




あー!!面倒くせぇ!!

コイツ分かっててやってんのか?!

小さな傷のある米神を気にするように触るに俺の意図が全く伝わっておらず、俺は髪を混ぜっ返しながら悪態を吐く。

・・・もういい。ムカついた。ストレートに聞いて何が悪い?




「おい、

「ん?」

「お前、何か・・・・、いや、何でもねぇ」




くそ・・・・っ、何でかお前の目を見てたら言えなくなる!

それでもって何も分かってないように首を傾げるが憎い。

大体、何でこの俺がお前のことでこんなに頭を悩ませてるんだ、馬鹿らしい!

そう思った途端、怒りが爆発した。




「ふざけんなドカスが!何でこの俺が気を遣わなきゃならねぇんだ!」

「・・・お前、気なんて遣えたのか」

「あ゙ぁ?!・・・チッ!おい、呑みに行くぞ、!」

「はぁ?!昼間っから何言ってんだお前!」




グダグダ言わず最初っからこうしとけば良かったんだ。

呑めばいろいろ嫌なことも忘れられるだろう。

言いたくなければ言わなくていい。

だけどお前が変なのは目障りなんだよ。

俺は何とも言えない感情に舌打ちをして、の腕を引いて外へ出た。








***








その後、思いもよらない奴に会い、俺の気分は急降下する。

コヨーテ=ヌガー、ジジイの嵐の守護者で俺は昔からコイツとは馬が合わない。

口を開けばジジイジジイと煩くて反吐が出る。

コイツがシトの使いで来たのは意外だったが、ジジイ信奉者のコイツのことだ。

どうせ何か疑り深く調べに来たに違いねぇ。


ジジイが今回の件についてこの過保護な守護者達に伝えなかったのは容易に想像ができ、

そこを突いてやると案の定噛み付いてきた。

単純さに鼻で笑うと、が殺気めいて睨んできて、俺もコヨーテも黙らざるを得なかった。

何とも言えない空気のまま車に乗り込んだが、なぜかだけは機嫌がよく、不気味さが際立っていた。


目的地に着いた時、コヨーテとシトの衝突は見ていて愉快だったが、何も探れないと知ると

コヨーテはあっさりと引き下がって立ち去った。




「全く、わざわざ影まで立てて守護者を引き離してたのに、向こうは何やってんだろうね」

「ふん、コヨーテをジャッポーネに近付けたのはテメェの手落ちだろうが」

「馬鹿言わないでよ。僕が何でもかんでも手を出してると思わないでよね」




コヨーテの尾行に注意しながらホテルを移ると、ジジイが俺達を待っていた。

元から陰気臭い奴だが、今日のジジイは俯いて顔も暗くいつも以上にウザったい。

シトが我関せずと好き勝手している中、なぜか部屋に沈黙が降りた。

それが何だか気に入らなくて、を見ると驚くほど鋭い視線でジジイを睨んでいて驚いた。

ジジイもジジイでいつの間にか顔を上げてを見ている。

一体何だっていうんだ?

するとの大きな溜め息が部屋に響き、ポツリとようやく声を漏らした。



「・・・馬鹿だな」

「・・・そうだね」

「本当に馬鹿だ」




呆れ顔のとなぜか馬鹿だと言われてヘラヘラしているジジイ。

二人にしか分からない何かがこの場に流れている。

それが気に食わなくて顔を顰めると、ジジイがいつもの生温い表情を見せて笑った。




「全ては私の弱さが引き起こしたこと。私の我が侭なんだよ。だからね・・・・・、私がモスカの中に入ろう」




ジジイがモスカに入る?

俺の脳内でこの腹立たしいジジイと十代目候補のガキ共が戦う光景が浮かび、俺は思わず口端を上げた。

面白れぇ。それで相打ちにでもなれば、少しは気分が晴れるかもしれねぇな。




「待て!何で今更モスカを動かさなければならない?雲の守護者は俺だ」




珍しく食い下がるに目を瞬いていると、ジジイはの目をジッと見つめた。

何だか嫌な空気だ。




「本当に?確かに君は雲の守護者に相応しい。だが、その本質は本当に雲なのかい?」

「・・・・・・」

「チェルベッロはそんなに甘くない。人の身でないモスカなら何とかなるだろう」




黙り込んでしまったが意外で見つめていると、ジジイの視線を感じた。

もう一度モスカに入ろうと言ったジジイは俺の返答を求めるように視線を向けている。

・・・ふん、カスが。




「いいだろう」




相打ち上等だ。

どうせ踊るなら面白可笑しく踊り狂えばいい。

そして燃え尽き散っていくのも見物だな。

惨劇の光景を思い浮かべて嘲笑う俺の横で、は何も言わずひたすら黙ったままだった。


* ひとやすみ *
・明けましておめでとうございます!ちんまり更新ですが今年も頑張ります!
 かなり開いてしまいましたが、ザンザス視点でお送りしております。
 ヤキモキしてるボスとか書いててかなり楽しかったです!笑
 コヨーテとか寄り道しちゃいましたが、ズババンと進みますよ!!まぁ予定は未定ですが。
 そんなわけで今年もよろしく願いまーす!!                                       (12/01/01)