ドリーム小説
どこをどう通って帰って来たのか全く記憶にないが、ホテルに着いた時の周囲の反応は面白いぐらい顕著だった。
皆が皆、俺の顔を見て表情を強張らせ、視線を逸らす。
一歩踏み出せば人が道を開ける可笑しな状態に俺はどんな珍獣だと思わず笑いを零した。
別に取って喰う訳でもなし、話し掛けられればいつも通り接するつもりだが、これはこれで都合が良かった。
今は誰かと話したい気分じゃない。
俺のために開かれた道を好都合だと歩いて部屋に戻ると、扉の前に執事がポツンと立っていた。
何も言わず立っているだけの執事に首を捻ったが、用がないなら別にいいかと俺は執事の隣を
黙って通りすぎノブに手を掛けた。
「・・・様、これで顔を」
声を掛けられて隣を見ると執事が白いハンカチを差し出していた。
反射的にそれを受け取ると執事はお休みなさいませと一礼して去って行った。
何だこれ?意味が分からん。
頓珍漢な行動に首を捻りつつ、部屋の中に入ると必然的に窓に反射した自分の姿を見ることになり俺は納得した。
「あぁ、そういや恭弥に殴られたっけ」
顔に乾燥して赤黒くなった血がこびり付いてるのを見付けて、溜め息を吐いた。
道理で人が避けて通ると思った。
顔を真っ赤に濡らして世間を歩くとはどんなウッカリさんだよ。
この様子じゃシャワー浴びないと落ちない、か。
・・・・・・面倒だな。
俺は握っていた白いハンカチをベッドに放り投げ、同じく自分の身を投げた。
疲れたから全部明日考えよう。
俺は靴も脱がずベッドにうつ伏せになり、そのまま目を閉じた。
***
目が覚めたらすでに昼を回っていた。
シャワーを浴びて適当に着替えてボーっとしてから部屋を出ると、なぜかザンザスがいた。
・・・つーか、お前、何つー顔して見てんの?
「珍しいな、ザンザス。お前がこんな時間に起きてくるなんて」
「それはこっちのセリフだ、カスが」
「何怒ってるんだ?」
そう言うとザンザスはむっつりした顔をして黙り込んだ。
何か言いたそうなので口を開くまで待とうと見ていたら、ザンザスは俺を見て片眉を上げて呻いた。
「・・・テメェ、何だその面は?」
「それはこっちの台詞だが?」
「あぁ?!」
「何だ?また昨日の傷が開いたのか?」
「そういうことじゃねぇ!・・・クソッ」
米神に触れるが特に血も出ておらず首を傾げると、ザンザスは忌々しそうに悪態を吐いた。
髪を掻き毟って散々罵った後、ザンザスは不機嫌そうな表情で俺を見た。
「おい、」
「ん?」
「お前、何か・・・・、いや、何でもねぇ」
はぁ?意味不明すぎるだろ、お前。
変な物を見るような目で見てたのが悪かったのか、ザンザスがまた突然怒り出した。
マジ理解不能ー・・・。
「ふざけんなドカスが!何でこの俺が気を遣わなきゃならねぇんだ!」
「・・・お前、気なんて遣えたのか」
「あ゙ぁ?!・・・チッ!おい、呑みに行くぞ、!」
「はぁ?!昼間っから何言ってんだお前!」
何を言っても聞かないザンザスに腕を引かれながら俺達はホテルを出た。
俺は訳の分からん状況に首を傾げるしか出来ない。
いや、だって呑みたいだけならホテルでも出来るし、ザンザスいつもやってるじゃん?
何だって今日に限って外なのかとか、呑み屋が昼間に開いてるはずがないだろとか、俺の頭はハテナでいっぱいだった。
すると不意に項辺りにピリリと嫌な物を感じ、俺はザンザスの腕を強く引っ張って振り返った。
「悪いが付いて来てもらうぞ、」
「コヨーテっ」
「久しぶりです、ザンザス様」
ものすごくダンディなオジ様が俺達の背後に立っており、ザンザスが声を掛けると僅かに目を細めた。
スーツを着こなし口調も穏やかでただそこに立っているだけなのに、コイツ目が笑ってない。
警戒しつつザンザスに目で問うと、苦虫を噛み潰したような声でジジイの守護者だと呻いた。
なるほど、これが9代目の守護者ね。
貫禄ありすぎだろ。しかも名前がコヨーテとかどんだけカッコいいんだよ。
9代目のお呼びなら立場上行くしかねーよな。
「お前はどうする、ザンザス」
「決まってるだろ」
「・・・そうか。なら行くか」
鼻を鳴らしたザンザスに肩を竦め、俺達はなぜだか殺気立ってるコヨーテの後に付いて行った。
すると彼は振り返りもせずに地を這うような声を絞り出した。
「シトとやらが何を考えて貴様らを呼んだかは知らんが、行動には気を付けろ」
「・・・ハッ!何だ、ジジイはテメェに何も言ってねぇのか。守護者とやらも大したことねぇな」
「口は慎めよ、ガキが」
飛び交う殺気が息苦しくて深く溜め息を吐くと、二人共舌打ちをして再び歩き出した。
よく分からんが、今回の件は守護者はノータッチってことらしい。
この並盛で9代目の近くにいる守護者を見たことがないし、何より今9代目は本国にいるよう小細工されている。
おそらく守護者のほとんどは本国にいるのだろうが、
何も知らされず9代目の影から引き離されてイラついてるのだろう。
つまり遠ざけられて拗ねちゃった訳か。
そう思うと何だか笑えてきて、シトの所に着くまで不思議と気分が悪くなかった。
さて、今度は一体何の用事だろーな。
* ひとやすみ *
・痛すぎると忘却という名の麻酔が効くのかもしれません。まるで普通。
さっさと進めたいのですが、もう少し回り道する予定です。
しかしザンザスが可愛いことになってる。兄様に振り回されてるのを見ると和みます。笑 (11/12/10)