ドリーム小説

シトに情報が筒抜けなことに俺は閉口した。

俺があの人とやらの情報を探してここに来ると何で知ってるんだよ。

何だか気になることを言っていたが、こんな怪しげな男に行動を読まれているなら勝てる気がしない。

いやな想像をして俺は顔を顰めた。

するとシトは肩を竦めて話し出した。




「あーもう、そんなに睨まなくてもちゃんと答えるよ」

「・・・睨んでない」

「はいはい」




ちょっと考え事してただけなのに、なぜか睨んでると勘違いされた・・・。

否定も拒否されて不貞腐れていると再びシトが口を開いた。




「さっきも言ったけどここまで辿り着けたご褒美に彼女達の解放の選択肢をに上げよう」

「選択肢?」

「そう。有能な彼女達をただで返すつもりはないからね。一つ条件を呑んでくれたら返してあげる」




くっそー、やっぱタダで帰してはくれないかー。

でもこれをクリアすれば彼女達は自由だ。

今更、コイツの条件の一つや二つくらい安いものだ。

視線で条件とやらを促すと、シトは表情を消して俺の目を見た。




「条件は一つ。モスカの動力にザンザスを使うことだよ」

「なッ・・・!!」

「それさえ呑んでくれれば彼女達を解放しよう」




俺はとんでもない条件に言葉を失った。

彼女達を助ければザンザスが犠牲になる・・・。

こんな馬鹿な話はない。

けれどこの機会を逃せばいつ彼女達を解放出来るかも分からないのだ。

俺は酷く迷った。

どちらも同じくらい大切な奴らだ。

俺は無表情のシトを一度だけ見つめた。

そうだよな、こんなの悩むだけ無駄だ。




「その条件、呑むわけにはいかない」

「・・・いいの?彼女達を解放するチャンスを僕がもう一度与えると思ってるの?」

「いいや。・・・でも、俺は必ず彼女達を救い出すし、ザンザスをモスカの動力にすることを拒んでみせる」




今は無理でもいつか出来るかもしれない。

いや、必ず両方叶えてみせる。

これは俺の誓いだ。

どちらも捨てないと宣言した俺に、シトは何だか眩しそうに目を細めた。




「そう。さすが神の目を掻い潜り、この世界に降り立っただけはあるね」

「どういう意味だ?」

「気にしないで。そんなに僕から祝福を授けよう」




胡散臭いことを言い出したシトに眉根を寄せると、奴は笑って宙から何かを取り出した。

シトの手に突然現れたそれを見て俺は目を見開いた。

それは九代目があの時持っていた黒い封筒・・・!




「残念ながらこれは九代目が持っていたのとは違うよ。だけどあの人はがここに来ることを知っていたみたいだ」




シトは持っていた黒い封筒を俺に押し付けると、頑張れと呟いて部屋を出て行った。

黒い封筒には宛名も差出人も何も書いてなかった。

すぐさま引き出しからペーパーナイフを取り出して封を切ると、ころりと一つだけUSBメモリが出てきた。

封筒の中身は本当にメモリしか入っておらず、メモリの中を見るしかないようだ。

俺は備え付けのパソコンにメモリを差し込んで起動させた。




「動画ファイルが一つだけ・・・?」




このメモリの容量は小さくはない。

それなのに容量をほぼ使い切るほど重いファイルが一つだけぽつんとある。

俺はプログラムの起動するか否かのウィンドウを眺めながら、Yesの方をクリックした。

動画が再生され始めると、しばらく真っ黒な画面が続いて突然声が響いた。




『シトにこの手紙を渡しておいて正解だったようだね。君は必ず私に辿り着くと思っていたよ、




黒い画面から聞こえる声はボイスチェンジャーで変換された声で、相手が誰だか一切分からなかった。

何となく高圧的な雰囲気のある声に眉間に皺を寄せていると、急に画面の向こうで相手が笑い出した。

な、なんなんだ?




『あぁ、ごめんごめん。が難しい顔をして画面を睨んでるのが手に取るように分かるから、ついね』

「・・・馬鹿にしてるのかコイツは」

『そう怒らないでよ。軽い冗談でしょう?』




液晶に向かってぼやいたはずなのだが、それに返答するかのような言葉に驚いた。

違和感は徐々に増していき、俺は何だか嫌な予感がした。

そしてそれは不幸にも当たることとなる。




『何よ。前の時も今回も少しも驚いてくれないなんて、ホントつまらない男!・・・久しぶりね、




ボイスチェンジャーは不要になったのか、声は落ち着いた女の声を発しており、

暗かった画面は焦点を合わせるように赤いドレスの女を映し出した。




「レディ・・・ッ!!」

『ふふ。一度こういう悪党をやってみたかったのよ。なのに少しくらい驚きなさいよ!』




映像の中のレディは昔と全く変わらない女性で、俺は混乱の渦の真っただ中にいた。

生きていたのか。

いや、それより何でレディが?

シトとはどういう関係なんだ?

俺は纏まらない思考の中で画面の向こうの彼女を見つめて絞り出すように呟いた。




「レディ、」

『・・・・・・』

「・・・君は、敵、なのか?」




レディはただ黙って俺を見ていた。

相手はただの映像だというのに俺達は互いに重い沈黙を守り、画面の録画時間だけが無情に過ぎていく。

そして彼女は赤い唇を開いた。




『・・・そうね。私はの敵よ』


* ひとやすみ *
・ぎゃー!!ついにここまで来ちゃいました!!いろいろ予想してくれた方、大正解です。
 ここに来て彼女が再び飛び出ました。うぅ、何だか切ない・・・。
 何かもっと前振りとか伏線とかいろいろ考えてたんですけど、面倒になってすっ飛ばしちゃいました。笑
 誰も彼もに裏切られズタボロな兄様。彼の運命は如何に?!                        (11/08/12)