ドリーム小説
綱吉の活躍でテンションが上がり過ぎた俺は、気持ちを戒めて緩んだ表情を引き締めた。
額と両手に灯る澄んだオレンジ色の穏やかな炎は綱吉をよく表している。
ヴァリアーの面々はその炎の大きさに驚いていたが、俺はハイパーモードを使いこなしている綱吉の成長速度に驚いた。
骸との戦いからまだ一月あまりしか経っていないというのに。
「ボンゴレリングだとか・・・次期ボスの座だとか・・・、そんなもののためにオレは戦えない。
でも・・・友達が・・・仲間が傷つくのはイヤなんだ!!」
「ほざくな」
あっ、待て、こら・・・!
俺が声を掛ける前に地を這うような低い声が綱吉の言葉を遮り、綱吉の横っ面を憤怒の炎が吹っ飛ばした。
・・・いきなり現れて何キレてんだよ、ザンザス。
俺は貯水タンクの上から不機嫌そうに見下ろしている男に溜め息を吐いた。
まぁ、でもザンザスの気持ちも分からないでもないんだよな。
俺達が九代目に踊らされながらやりたくもない戦いを綱吉のためにしてるっていうのに、
当の本人はリングやボスの座のために戦いたくないって否定してくれちゃうんだからなー。
全く、損な役回りだよ・・・。
倒れた綱吉はその瞳を恐怖に揺らしていたが、唇を噛み締めるとしっかりとザンザスを見据えた。
「なんだその目は。まさかおまえ、本気でオレを倒して後継者になれると思ってんのか?」
「そんなことは思ってないよ。オレはただ・・・この戦いで仲間を誰一人失いたくないんだ!!」
俺はほんの一瞬、綱吉の姿に九代目を見た気がした。
おそらくザンザスも同じことを思ったのだろう。
奴の眉がピクリと動いたのを俺は見た。
正直言えば、綱吉は甘い。
仲間を失いたくないと綱吉が思うように、俺達だって相応の物を賭けてここに立っている。
理想だけではどうにもならない。
でも、それを信じ貫こうとする静かな強い意思を持つ姿は穏健派と呼ばれる九代目に良く似ていた。
俺はそれが嫌いではないが、今ここにはザンザスもいるんだ。
九代目を思い出させるとか、自殺行為でしかない。
「ジジイコロス」オーラを全開にしているザンザスに俺は冷や汗を流して、
今にも前に飛び出しそうなチェルベッロに制止を呼びかける。
「待て、今アイツに近付けば、燃や・・・!」
「ザンザス様、いけません!」
あー・・・、遅かったか。
チェルベッロに扮したティエラは俺の一言で止まったが、もう一人の正規の審判は
ザンザスの怒りを静めようと飛び出して行った。
案の定、ザンザスの八つ当たりに遭い、彼女は酷い怪我をして吹っ飛んだ。
こうやって見るとさっき綱吉を吹っ飛ばしたのが、かなり手加減してたのが良く分かる。
まぁ、綱吉に怪我させると争奪戦が滞るからなー。
「オレはキレちゃいねぇ。むしろ楽しくなってきたぜ」
「こいつはレアだ」
「いつから見てないかな、ボスの笑顔」
「8年ぶりだ」
「笑顔?あれが?ずいぶん歪んだ笑顔だな」
ケタケタと楽しそうに笑うザンザスを見て苦笑する。
まぁ、相手が本気を出してくれた方が演技する方も張り合いが出るってもんだよな。
しかし、八年ぶりも何も俺、結構アイツの笑ってる所見てる気がするんだけどなー。
「こいつは悲劇、いや喜劇が生まれそうだな、!」
「・・・そうだな。道化は踊り狂って笑われ消える運命だ」
・・・この場合、道化は俺達かもしれないが。
演技する俺達を舞台になぞらえてそう言ったザンザスが、他嘲してるのか自嘲してるのか
それは俺にも分からないが、最後は全て丸く納まればいい。
そして残されたティエラによって雷のリングと大空のリングがヴァリアー側の物になった。
勝負への妨害で大空のリングまで取られるとか、結構重い罰よな。
「これでオレの命でボンゴレの名のもとおまえらをいつでも殺せる。だが老いぼれが後継者に選んだおまえを
ただ殺したのではつまらなくなった。おまえを殺すのはリング争奪戦で本当の絶望を味わわせてからだ。
あの老いぼれのようにな」
「ザンザス!貴様!9代目に何をした!!」
争奪戦を見に来ていた家光がザンザスに激高し、俺は呆けてザンザスを見た。
何ていうか、今俺には末尾に「まだだけどその予定」って聞こえた気がするんですけど・・・?
そりゃ、いつか九代目にギャフンと言わせようとは思ってるけどさ、先走り発言はよくないぞー。
勘違いして家光怒ってるじゃん。
綱吉の妨害で大空のリングまで手に入っちゃう不測の事態が起こったが、こっちとしてはそれで争奪戦終了では困るのだ。
今後も争奪戦を続けるための理由としてはこれ以上ないほどよく出来てるが、お前ちょっと悪役ハマりすぎじゃね?
疲れて溜め息を吐いた俺はザンザスの尻拭いに呟く。
「それを調べるのが門外顧問の仕事じゃないのか?」
「・・・!」
「落ち着け、家光。何の確証もねーんだ」
「隅から隅までよく調べることだな」
ホント、よーく調べて九代目の悪事を暴いて下さい!!
大盤振る舞いにも調査の許可を出したというのに、家光もリボーンも怖い顔のまま。
何で?!むしろ九代目にいろいろされてんのこっちだっての!
「残りの勝負も全て行い、万が一おまえらが勝ち越すようなことがあれば、ボンゴレリングもボスの地位も全てくれてやる」
だが負けたら大切な物は全て消えるとザンザスは悪い顔をして綱吉を脅した。
ティエラが次回は嵐の守護者の対決だと告げると、その場の空気が僅かに緩んだ。
その瞬間、俺は纏わり付くような気配を感じ隣の校舎を振り返った。
こちらを見ている三つの黒い影。
「来てるのか、骸」
まぁ、またすぐに会うことになるだろう。
俺は小さく笑ってまもなくお開きになるだろう争奪戦に背を向けて屋上から立ち去った。
* ひとやすみ *
・兄様、完全無意識で何気なく呟いてますけど、かなり煽ってます。笑
そのせいで調子に乗って未定の話をしちゃったりしてるザンザス。笑
ここから先が少し進みづらいんですが、ちまこら頑張ります!!本当にちまこらですが。笑 (11/06/28)