ドリーム小説

今夜は星がよく見えるだろうと言い残して去って行ったの背中を見送って、俺は手を組んで息を吐いた。

守護者は天候を司り、その中で唯一星がまともに見えるのは晴れの空。

が言うのだからおそらく初戦は晴れの守護者のバトルなんだろうが、アイツは予知能力でも持っているのだろうか。

時折未来を予知するような言動をすることがある。

まぁ、アイツは俺には理解出来ないような頭脳の持ち主だから、未来を計算で弾き出しているだけかもしれないが。

考えれば考えるほど欠点の見当らない男に俺は小さく咽喉を鳴らした。

目の前のグラスの中で氷がカランと音を立てた時、部屋の扉が小さく開いた。




「あれ?一人で飲んでるのザンザス?・・・まぁ、ちょうどいいかな」

「失せろカスがっ!」




赤毛が部屋に入って来た途端に酔いが醒めた。

手元にあったグラスを投げ付けたが、あっさり避けられて破片が辺りに散る。

シトとか言うジジイの手下は肩を竦めると、俺を無視して外に声を掛けた。




「はいはい。皆さん、こっちに運んでー」

「テメェ、何勝手に運び入れて・・・!」

「ザンザスにプレゼント持って来ただけだって」




台車に乗せられた巨大な箱を数人がかりで部屋に運び込んできた。

数メートルはある箱を観察している内にシトを残して全員出て行っていた。

赤毛はここまで運ぶのが大変だったと首を鳴らしていたが、疲れた様子は微塵もない。

今更、コイツ、何しに来たのか。




「そう睨まないでよ。中見せてあげるからさ」




調子に乗っているこの馬鹿をカッ消してやろうと思った直後、奴は箱をあっさりと開いてニヤリと笑った。

梱包材が取り除かれて出てきたそれに思わず息を呑む。

何で、こんな物が・・・!




「じゃーん。これがゴーラ・モスカだよ」

「ふざけるな!何でこんな物!テメェ、これの動力源知らねーのか?!」

「死ぬ気の炎でしょ?」




それが何だと言わんばかりに首を傾げる赤毛に俺は目を瞠った。

死ぬ気の炎は生命力であり、命そのものだ。

使うことに問題はないが、モスカの性能上、相手が誰でどんな状況であろうとも容赦なく一定量吸い上げ続ける。

ましてや、まだ破壊時に内蔵された人間の命まで保障出来る段階まで至ってないポンコツなのだ。

これは諸刃の殺人兵器。

この赤毛がボンゴレの部下を使い、これを持って来たということはジジイも承知してるってことか。

・・・ドカス共がっ!




「俺にコイツの餌になれって言ってんのか、テメェ・・・」

「さぁね。届けろとしか言われてないし、誰が使ってもいいと思うよ」




他に誰がこれを動かすことが出来るんだ?

そう睨み付けると奴は口端を上げて笑うと楽しそうに手を振って部屋から出て行った。

・・・くそったれ!









***








結局、あの部屋を立ち入り禁止にする以外にどうすることも出来ず、初戦が始まった。

この話をにするつもりはない。

アイツには関係のない話だ。

そう割り切って争奪戦会場に向かえば、はすでに試合を観戦していた。

どうやら争奪戦とやらは毎回こんな風に特設会場を造り、戦うらしい。

・・・はっ、子供騙しだな。

の予測通りルッスーリアが特設リング内でガキと遊んでいたが、しばらくするとの表情が曇った。




「・・・アイツ、本当に仕組まれた戦いだって知らないんだよな?」

「・・・のはずだ」




二度目の確認に俺も自信を失くして返す。

ガキで遊んでたまではいいが、遊びが過ぎて膝を砕かれ怯える姿は無様としか言いようがねぇ。

たとえ仕組まれた戦いであろうと、俺の言い渡した任務で失敗など有り得ない。

どうしてやろうか、あのカマ野郎・・・!

俺が目を細めた直後、凄まじい殺気を隣から感じて肌が粟立った。

がキレた。

・・・・・・馬鹿が。コイツは仲間だろうと何だろうと容赦するような甘い奴じゃねぇ。

の足を引っ張るような弱者は必要ない。




「締めてくる」

「勝手にしろ。俺は戻る」




ルッスーリアは自分の不出来を命で償うことになるか。

カマ野郎の末路を俺は鼻で笑って、殺気を滲ませるに背を向けた。

帰ろうとも思ったが、がどうするのか少し気になる。

動いていた足を止めて振り返るとが白い銃剣を構えて飛び降りる所だった。

まだ誰もの存在に気付いていない。

銃が撃たれると予想していた俺は、次の瞬間度肝を抜かれた。

速くてよく見えなかったが、今、手から出たのは死ぬ気の炎か?!

・・・まさか、も炎が使えるのか?!

その事実に気付いた俺は血の気が下がった。




「・・・ゴーラ・モスカの動力源は炎」




あの赤毛野郎は誰が使えとまでは言わなかった。

まさかアイツ、このことを知ってて・・・!!

俺はすぐさまその場を離れて、ホテルへと引き返した。

声を掛けてくる誰も彼もを無視して、俺はあの部屋へと向かった。




「ザンザス様、もうお戻りに?」

「・・・ちくわ女か。時間がない、付いて来い」




タイミングよく部屋の近くを歩いていたの部下を引き摺り込んだ。

部屋を陣取るそれを見た女は、前に例の研究所で見ていたからか目を瞠り息を呑んだ。




「何で、これがここに・・・」

「ジジイの差し金だ。これの動力源になれる人間は俺と・・・」

「ッ!!!」

「いいか、にこれがここにあることを絶対に知られるな!」




青褪めてはいたが真剣な顔で頷いた女はすぐさま行動に移った。

が知れば自分から犠牲になるのは目に見えてるんだ。

何が何でもに知られるわけにいくか。

俺はそのまま椅子に崩れるように座り込んで、深く息を吐いた。


* ひとやすみ *
・晴れの争奪戦の舞台裏。九代目とシトの思惑とは?ザンザスと執事の心内とは?
 当の兄様は何も知らずに並中で周りをドン引きさせて半泣き中!笑
 泣いてる場合じゃないよ、兄様!弱者に報復したとか思われてるよ!!
 ちなみにベルはそれが当然と思ってるので、別に兄様の味方というわけでもないし。・・・兄様不憫。笑 (11/05/21)