ドリーム小説

―――ピ、ピ、ピ

目が覚めた時、そこはやっぱり集中治療室だった。

何て、・・・・都合の良い夢を見てたんだろう。

仰々しい機械に繋がれ、一人で満足に身体も動かせない私には過ぎた夢だった。




『もう一度歩ける身体をやろうか、凪』

『自由が欲しいのなら、共に来い。どうせ捨てる命なんだろ?なら、俺達が拾ってやる』

『凪・・・、僕には君が必要です』




さっき見た夢の内容を思い出して、私は呼吸器の中で小さく笑った。

・・・嬉しかった、な。

私はずっと不用品だったから、そんな私に手を差し伸べてもらえて。

あの人達は一体誰だったのかしら?

私の空想の中の人、かも・・・。

だって御伽噺に出てくる王子様と魔法使いみたいだったから。

まるで月の光をそのまま閉じ込めたような髪に瞳は輝く一等星。

物腰の柔らかさや所作の優麗さは御伽噺の王子様なんて目じゃないとすら思えた。

反対に、あんな綺麗で怖くて苛烈な瞳の人、はじめて見た。

ルビーとサファイアを目に埋め込んでいるようなオッドアイ。

邪悪で純粋な色を放ちながら優しい表情や言葉遣いで騙そうとする悪い魔法使いのよう。

そんな事を考えて小さく溜め息を吐いて目を瞑る。




「(様、骸様・・・、)」




たとえ夢の中でも、必要だと言ってもらえただけで私はもう充分。

こんな私でも役に立てると思えただけで心残りはない。

・・・あ、心残り一つ、ある。

もし、どこかで本当に、骸様が困っていたなら・・・。




「(助けてあげたかったな・・・、役に立ちたかった)」




閉じた左目から涸れたと思っていた涙が零れた。

その直後、カタリと近くで音がした。

こんな所に誰かいるの・・・?

“あのひとたち”がここにずっといるはずがない。

残った左目を動かすと飛び込んできた光景に息を呑んだ。




「やっと起きたな、凪」




黒が混じる灰色の髪も眩しく優しい星色の瞳も全て同じだった。

ゆ、め・・・?

自分の心音に合わせて早くなる電子音。

様は驚く私の呼吸器を外すと、そっと手を握ってくれた。




「眠っている間に骸がお前を治したから体力さえ戻ればまた歩ける。もう一度聴く、俺達と来るか?」




夢じゃ、ない・・・。

差し伸べられた手も、掴んだ手の温もりも全部、全部、夢じゃなかった・・・!

左目から溢れる涙の温かさを感じながら頷くと、様は微笑んで全ての電子機器を引き抜いて私を抱き上げた。

・・・不思議。

凹んでいたお腹は治ってるし、息も苦しくない。

様の腕に揺られて集中治療室を出ると、医者と両親が大騒ぎで私達に駆け寄ってきた。




「き、君!何をしてるか分かってるのかね?!」

「誰か警察を呼んでくれ!」

「凪をどうする気?!」




ヒステリックに叫ぶ母親を見ていると、様が小さく私を呼んだ。

彼らに最後のあいさつをと言われて、私は「さよなら」と言ったけれど掠れた声は音にはならなかった。

寂しくは、ない。

二人が私に関心を持たなかったように、私も二人に関心がなかったから。

両親の隣を通り過ぎる際、様は聞いたこともないくらい冷たい声で二人に囁いた。




「謝らないぞ。この子は連れて行く」

「ふ、ふざけるな!」

「黙れよ・・・?命があるだけマシだと思え、穢れた害虫共がっ」




鋭い眼光が二人を刺した途端に空気が重さを増した気がした。

・・・肌が痛い。

物凄い威圧感に悲鳴を上げて腰を抜かせた両親を見ていると、急に病院内が蒼い炎に包まれた。

思わず息を呑んだけど、どうやら藍色の炎は私と様だけを避けているようだった。

一体、何が・・・?




「問題ない。ただの害虫駆除だ」




安心させるように様が小さく笑った瞬間、背後で突然医者や両親の叫び声が上がった。

皆、突如として集中治療室に視線を向けると大声を上げて雪崩れ込んだ。




「凪はどうなってるの?!」

「落ち着いて下さい!容態が急変して、今、先生が手を施しています!」

「先生!心停止です!」




・・・・え?

私達が見えてないの?

自分はここにいるのに、まるでもう一人自分があそこにいるようだ。

それにさっきの炎は?火傷は?

戸惑っていると、小さく笑い声が聞こえて私は見上げる。




「幻覚を見てもらってる。少し記憶を弄ったからな」




ポカンとしていた私にもう一度笑うと様は颯爽と病院を出て車に乗り込んだ。

窓の外を流れる何でもない町並み、機械の補助なく機能する身体、私に手を差し伸べてくれた人達・・・。

嬉しかった。

何もかもが全部泣きたくなるほど嬉しかった。

不用品の私はもういない。

これからは骸様と様のために生きよう。

私は強く強く心に誓った。


* ひとやすみ *
・凪視点で過去話第2弾!
 凪ちゃんの目で見ると主人公相当いい男に見られてます。笑
 目覚める前に骸と大騒ぎしてたり、一人で起きるの待ちながらテンパったりしてたでしょうが。
 次の話から現在に戻りますが、おそらくその辺りでその他解説入るかもです。笑          (10/12/03)