ドリーム小説

まるで瞬きをするかのような僅かな時間。

身体も心もあの日あの時のままであったが、周囲を見れば確実に八年の歳月が過ぎていた。

目が覚めてみるとスクアーロの髪は異常なほど長くなっていたし、部下達は成長というより老けたように思える。

変わらないのは俺だけか。

ザンザスは妙なものだと己と部下達を見比べて目を閉じた。

あの時、確かに死を覚悟した。

けれどの言葉通り、ザンザスは再び目覚めた。

驚くほどに凪いでいる自分の心にザンザスは口端を上げる。

確かにまだ怒りの炎は消えることなく轟々と燃えているが、その火を溢さぬよう優しく氷の花弁が包み込んでいるのだ。

まるであの白バラの園のように。

その理由をきちんと理解していたザンザスは、一も二もなく喧しい部下をジャッポーネに向わせた。




「ボス、スクアーロがを見付けたらしいわ〜。何だかおまけにボンゴレリングとか拾い物しちゃったらしいわよ」

「門外顧問側のだね。狙ってねーのに奴等リングを死守しろって騒いでたし。気でも狂ってんだと思ってたー」

「む?ボンゴレが沢田家光が暴走しているからリングを取り戻せと言って来たのはその事か?」

「何それ?お膳立てかい?欲しくもないリングを僕達に取り返させるなんて、見え透いた罠じゃないか」




裏で糸引く誰かがいて、ヴァリアーが利用されているのは間違いなかった。

たとえ九代目の命の通りに暴走している門外顧問からリングを取り戻しても、

見方によってはヴァリアーがリングを狙っているように見える。

実際、門外顧問側もヴァリアーがリングを狙っていると思っているし、逆に命を拒んでも罰されるのはヴァリアーだけだ。

全く巧く出来ている。

だが、ザンザスには裏に居るのが門外顧問でもボンゴレでも誰でも良かった。

彼にとってはスクアーロが持ち帰るの情報が最優先なのだ。

何の根拠もないが、さえ居れば何とかなるとさえ思っているザンザスはただひたすらに沈黙を貫いた。






***






「跳ね馬。バジルの容態は」

「安心しろ。傷は浅いぜ」




廃業になった病院の一室に滑り込んだ家光は静かに寝ている部下の顔を見て安堵した。

いくらあのヴァリアーから視線を逸らすためとは言え、バジルには酷いことをした。

だが、そのおかげで十日の猶予を作り出し、リングを守護者全員に配り終えたのだ。

肩の荷が下りたような気持ちではあるが、問題は山積みだ。




「まさかが出てくるとはな」




予測不能な存在だと家光が深く溜め息を吐けば、ディーノが肩を揺らした。

かたしろ以来、行方を晦ましていたはずのを見付けたのはつい先頃のことだったが、

驚くことに妻の奈々はもう十年以上も前から彼と知り合いなのだと言う。

並盛に住んでいたのに気付かなかった自分は何なのだと、家光は苦渋の表情を浮かべた。

しかし、事態はそんな和やかな話ではない。

がヴァリアーの味方であろうとなかろうとリングを盗んでいったのは事実。

つまり家光達にとっては敵ということだった。

唇を噛み締めるディーノをチラリと盗み見た家光は、何故今なのかと眉根を寄せた。

が今現れるなんてあまりにタイミングが良すぎる。

こうなる前にを引き込んで雲の守護者の家庭教師を任せるつもりだったのにと、家光は深く溜め息を吐いた。




「恭弥の家庭教師には俺がなる。兄さんの代わりにはならねーが、手綱握ってなきゃアイツはどこ行くか分からねーからな」




ディーノは苦笑するとロマーリオを引き連れて病室を出て行った。

頼りになる同盟ファミリーのボスを見送って、家光は窺うようにリボーンを見た。




「俺にもは読めねーが、どんなに疑わしくてもアイツは今まで俺達と敵対してねぇんだ」

にも何か考えがあるという事か」

「少なくともディーノはそう思ってるようだな」




だといいんだがと溜め息にも似た家光の呟きは、目が覚めたらしいバジルの声で掻き消された。






***






スクアーロはすぐさま帰国したが、は様々な事情が重なって家にもマンションにも帰れなかった。

そのため、ホテルに缶詰になりながら仕事をこなしていた。

黙々と仕事に手を付けるの背中を見ていた執事はチラリと時計に目をやった。




「主人、そろそろ時間ですが、本日はいかがなさいますか」

「・・・そんな時間か。行くよ」




立ち上がったに着替えを差し出した所で、耳のいい執事はバイブ音を拾った。

仕事中は誰にも邪魔されたくないのか、はいつも部屋に携帯を持ち込まないので

自分の携帯だと素早く判断した執事は一言謝って部屋を出た。

本当は仕事意識が高いのではなく恐ろしい弟を避けて携帯を持ち込まないのだが、まさに知らぬが仏である。

執事が躊躇わず電話に出るも、なぜか電話の向こうは無音であった。




「・・・ティー?どうしました?」

『・・・・・チクワ、』




数秒間たっぷり間を空けて聞こえたティエラの声は酷く沈鬱で、何かあったのだと覚った。

事情が分からなければ対処の仕様もないのだが、聞き出そうにもどうきり出したものか。

時間にしておよそどれだけ経ったのか、執事が我に返ったのはティエラのか細い声が聞こえた時だった。




『・・・覚えてる?あの時、あの人が私とチクワ怒らせて楽しそうに言った言葉』

「あの人?」

『忘れることも背くことも出来ない残酷な呪縛』

「・・・ティー?」




ティエラが呟く虚ろな言葉はまるでここにはいない誰かに向けられているようだった。

・・・・・・呪縛?

ジリジリと胸の内を焦がしながら込み上げてくる何かに警鐘が鳴る。

これ以上は聞いてはならない。

こ れ は 毒 だ 。




『もしもし?彼女動かなくなったから僕が代わりに答えるけど、君も彼女から聞いてるはずだ』

「誰だ、お前は」




雑音がしたと思ったらティエラではなく突然若い男の声がした。

執事はカラカラに乾いた咽喉から辛うじて声を搾り出し、電話の向こうに誰何を問う。

不愉快な笑い声が聞こえた直後、落ち着かないアルトが毒を吐いた。




『“試練”はすでに始まっている』




その言葉を聞いて執事は大きく息を呑んで青褪めた。

彼女の手を滑り落ちた携帯はすでに事切れており、役目を終えたと一定の電子音を刻んでいた。

目を見開き微動だに出来ない執事は恐る恐る震える手を握り締めた。

まるで毒に支配されたように身体の自由が利かない。

執事が呆然と立ち尽くしていると、部屋から着替え終わったが出てきた。




「どうかしたのか」




返答のない執事を不思議そうに見ながら、落ちた携帯を拾い上げるに何かが込み上げる。

何とかに首を振ると、手渡された携帯がズシリと重さを増した気がした。

身動きが取れないほどに絡みつく罪悪感を感じながら、執事は己を射抜く黄金の瞳を見つめた。

なるほど、これが呪縛。

執事は逃げられない現実を肌に感じながらきつく目蓋を閉じた。


* ひとやすみ *
・バラバラに起こっていることを繋げるのって難しい。
 特にヴァリアー組の時間軸がややこしい!!それもこれもスクアーロのせいだ!酷
 自分が作った設定なのに頭がこんがらがりそうなのは何故・・・?笑
 何だか雲行きが怪しくなってきました!皆さんの予想が尋常じゃなく楽しいんですが
 まだ当たりはいませんねー。オリジナルなので簡単に正解されちゃうと私の立つ瀬がないんだけども。笑 (10/11/23)