ドリーム小説

黒曜ランドは惨状だった。

点々と転がる黒曜生を辿れば恭弥の居場所はすぐに分かるだろう。

血塗れで呻く男達を出来る限り視界に入れないように俺は走った。

何だよこのオバケ屋敷!マジ怖ェよ!!

一度来たことがあるから迷うことはないけど二階に来た所で物音が聞こえ、俺はを構えて飛び出した。




さーん!!」

「犬?」

「本物だぁ。本物の臭いがするびょん!」




目を輝かせて俺の周りをクンクン嗅いでる犬はかなりデカくなっていて、まるで野犬というか野獣のようだった。

大きくなっても人懐こい所は全然変わらないけれど、絆されてる場合じゃなかった!

俺は慌てて恭弥の行方を聞いた。




「恭弥はどこだ」

「骸さんのとこれすよー」

「上だな」

「ダメれすよ!骸さんに並中のボス以外通すなって言われてるんれすから!」




俺の腕に縋り付いて引き止める犬に困って、俺は上の階を見上げる。

暴れているような音が僅かに聞こえてきて、俺は気が気じゃない。

上は一体どうなってるのか。




「離してくれ、犬」




首を振る犬を何度も諭すが、離れるつもりは微塵も無いようで困った。

ガルルルと唸る犬は本当に骸に忠実で、何と言うかマジで番犬だなコイツ。

あぁ、マジで俺、今急いでんのよ。

イライラしながらそんな失礼なことを思っていたからか、俺は思わず犬の頭を掴んで言っていた。




「お座り」




・・・えーと、あー・・・、ゴメンナサイ。

いや、だってホントにワンコみたいだったんだもん!

思わず犬の頭を押さえつけるようにしてしまって、犬は俺の腕を離してペタリと座り込んだ。

わーん!ごめーん!そりゃビックリするよな?!

泣きそうな顔して俺を見上げる犬の前に膝を付いて、頭をそっと撫でた。




「悪い。急いでるんだ」




動物扱いされてショックで動けない犬をその場に置いて、俺は階段を駆け上がり三階に上がった。

人を殴る嫌な音が聞こえ、俺は心の準備をしてから部屋の戸を開けた。

うわ、ヒデェ・・・。

埃臭さに雑じる微かな鉄臭さは見るからに恭弥の血のものだ。

一方的に骸にボコられてる恭弥は原作通りボロボロだった。

部屋の隅の方でその様子をぼんやり見ているフゥ太を横目に、俺は部屋に足を踏み入れた。




「おや、弟君を助けに来たんですか、




グシャリと恭弥を床に投げ捨てて、どこか楽しげに言った骸に溜め息を吐く。

お前、ホント、趣味悪いな。

天井の桜と傷だらけの弟を見て心底そう思った。

身体は動かないようだが、意識だけはあるようで恭弥は目だけで俺を見た。

俺は痛々しい恭弥を出来る限り視界に入れないようにして骸に答えた。




「俺がそんなことをすると思うのか」




恭弥がそうして欲しいと言うのなら俺は命を張って助けるよ。

でもな、そんなことしたらコイツのプライドは傷付くし、絶対嫌われる気がするんだよな。

大体、そんなことしなくても恭弥は強い。

だけど、今回は条件が悪かった。

それを何とかしようと俺が走り回ったのに先走りやがって。




「だから待てと言っただろうが、馬鹿が」




俺は怒ってるんだぞ。

反省しろ、バカ恭弥!

僅かに目を見開いた恭弥を睨み付けると、俺はもう一度溜め息を吐いた。




「瀕死の弟に向かって辛辣ですね。なら僕が彼に何をしようと構いませんね?」




クフフと笑いを漏らした骸は情け容赦なく踵を恭弥の腹に落とした。

口内の血を吐いた恭弥は虚ろな視線を俺に向けて、気を失った。

・・・骸、お前、ふざけんなよ?

恭弥がいたぶられてるこの状況をこの俺が許すと思ってんのか?

そいつは俺の弟なんだよ!!




「邪魔する気はないが、それ以上恭弥を傷付けたらいくらお前でも許さないぞ、骸」




気を失い血塗れで横たわる恭弥を俺はそっと抱き上げて骸を睨んだ。

表情を変えた骸は僅かに一歩後退して、俺を見上げる。

何も言わない骸をそこに残して俺は恭弥を階下の狭いコンクリートの部屋に寝かせた。

全く、無茶しやがって。

怪我の具合を確かめていると、ぼんやりと恭弥が目を覚ました。




、兄さん」

「まだ寝てろ」

「・・・怒ってるの?」




おお、怒ってるとも。

喋るのも辛いだろうに揺れる瞳で見上げてくる恭弥に俺は目を閉じた。

未然に防げなかったことはやっぱり悔やまれるが、もう終わったことだ。

それよりも俺や父さん以外に負けて落ち込んでるらしい恭弥に溜め息を吐いた。

どうやら同世代の骸にこてんぱんにやられて自尊心の強い恭弥の心は相当抉られたようだ。

・・・そんな情けない顔すんじゃねーよ。




「怒ってるさ。お前は骸に負けるほど弱くないだろう」

「・・・え、」

「雲雀恭弥はそんなに容易い男なのか」




発破をかけ挑発するように言葉を投げ掛けると、闇色の瞳に光が帰ってきた。

今回の事は桜さえなければこんな一方的な結果にはならなかったと俺は思ってる。

なのに、身体はともかく心まで負けてどうするんだ。

俺の自慢の弟はこれくらいの障害で蹴躓いているような奴じゃないだろ。

らしくねーよ、ホント。

むしろそれすら捻じ伏せて、咬み殺して、誰よりも高く上り詰めるのが雲雀恭弥だろ。




「揺らぐなよ。お前は俺の弟なんだ」




クシャリと頭を撫でてやると、恭弥はホッと息を吐いて再び眠りに落ちた。

俺は今見たものに心底ビックリして何度も目を瞬いた。

い、今、恭弥がスッゲー笑顔だった・・・!!

ちょ、恭弥!今のもう一回!!もう一回!!


* ひとやすみ *
・らしくなく落ち込む恭弥くん。
 叱咤激励した瞬間飛び出した弟の笑顔をカメラに収められず落ち込む兄ちゃん。笑
 落ち込んだり微笑んだりした恭弥については兄ちゃんとお嬢様方だけの秘密ということで。
 さてザクザク進んでもらいましょーか!!!                              (10/08/26)