ドリーム小説

全ての始まりはあの夜からだった。

兄さんは勝手に家を抜け出し、日付を越えた頃に帰って来た。

血塗れになって。

襲われた風紀委員を病院へ運んで血塗れになったらしいけど、兄さんの表情はいつにも増して険しい気がした。

迂闊に近付けない雰囲気を醸し出している兄さんに僕は舌を鳴らす。

兄さんが他人の血を浴びてることも、風紀委員に悪戯する人間がいることも、何もかもが気に入らない。

犯人を見つけ出してさっさといつものように咬み殺しておしまいにしよう。

だけど、そんな僕の心とは裏腹に兄さんは確かに呟いた。

「始まった」と。



その翌日、兄さんの言う通り、被害者は続出した。

狙われてるのは風紀委員ばかり。

しかもご丁寧に歯を一本ずつ残して僕に喧嘩を売っている。

兄さんのいる並盛の風紀を乱すとはいい度胸だね。

家に帰ると兄さんが悠々とコーヒーを飲んでいた。

僕はカップを持ち上げる右手の人差し指に見慣れない指輪を見付けて眉根を寄せた。




兄さんが指輪なんて珍しいね」

「貰った」

「へぇ、女の人じゃないよね」

「・・・・」




この人はまた・・・!!

あの指輪、いつか壊してやろう。

僕が忌々しい指輪を睨みつけると兄さんは何でもない顔をして左手で覆うように隠した。

顔の前で手を組んだ兄さんはどことなくいつもと違う顔で僕に声を掛けた。




「恭弥、俺も、何か手伝おうか・・・?」




まるで笑いを堪えるような引き攣った顔で僕を見上げる兄さんにカッとなった。

僕に解決出来ないと思ってるの?

ふざけないでよ。この程度の悪戯、お仕置きするのは僕だけで充分。

兄さんの手は借りないよ。




「兄さんは応接室にでも籠ってて」




僕はそう言い捨ててまたすぐに家を出た。

そうして僕は兄さんを見返すために本腰を入れて悪戯の首謀者を探し始めた。






***






状況は最悪。

被害者は二桁に上り、不愉快なことに標的は風紀委員ではなく並中生だったようだ。

ようやく目撃者が出てきて、犯人はどうやら隣町の黒曜生らしい。

ここまで分かればあとはどうにでもなる。

最悪、黒曜中に乗り込んで全員咬み殺してしまえばいいからね。

するとポケットの中で携帯が着信を知らせた。




『委員長、十七人目の被害者が出ました。場所は商店街と大通り』

「そう。兄さんは?」

さんは野暮用と言って先程応接室を出て行かれました』




短時間で増えた被害者の数と距離的に複数犯だと思うけれど、問題は兄さんの方だった。

今まで僕の言う通り、応接室で大人しくしていた兄さんが動いた。

後を追わせてもどうせ撒かれる。

僕は黒曜と兄さんを天秤にかけて迷った末に隣町に背を向けた。

どっちにしろ兄さんの行動は今回の事件に繋がってる気がするからね。

僕は兄さんを探して並盛を走り回った。

だけど結局その日の内に兄さんを見付けることが出来なかった。


翌朝、兄さんは何でもない顔をしてキッチンに立っていた。

一体いつの間に帰って来ていたのだろう。

いつもは気配が分かるのに、昨夜は全然気付かなかった。

つまり兄さんはいつも僕に分かるように気配を消さず、帰って来ていたのだ。




兄さん、帰ってたの?」

「恭弥、話がある」




聞きたくなかった。

僕の声を遮り、そう言った兄さんの声はどことなく真剣みを帯びていて嫌な予感しかしない。

やることがあると断ってみたものの、兄さんの鋭い視線は僕から逸らされはしなかった。




「恭弥」




酷く冷たい声が突き刺さった。

こんな風に兄さんが地を這うような声で僕の名前を呼んだのは初めてでどうしたらいいのか分からなくなった。

ただジッと見てくる兄さんを探るように見て、僕は震える足で椅子に座った。

それほどまでに僕は動揺していたらしい。




「お前に渡したい物があるんだが、今手元にない」




あまりにも普通に朝食の準備を始め、そう言った兄さんに僕は一瞬驚いたけど何とか言葉を返した。

僕に急いで渡したい物って何だろう。

もしやそのために昨日どこかへ行ってたのだろうか。

手際よく朝食を作った兄さんはそれを片手に僕の向かいに座って、真剣な目で僕を見た。




「手に入れたらすぐに連絡する。それまで動くな」

「動くなって何それ」

「犯人が見付かっても勝手に乗り込むなってことだ」




あまりに理不尽で強制的な言い方に僕は閉口した。

つまり、兄さんは僕が負けるとでも思っているの?

並べられた朝食に視線を落とし、箸を伸ばしながら僕は犯人について聞いてみた。




「・・・一筋縄でいく相手ではないな」




その答えで僕は全てを悟った。

兄さんはもう犯人を知っている。

その上で僕が勝てないとそう言っているのだ。

悔しかった。

兄さんに守られなければならないほど弱いと思われていたことが。

とにかくここから離れたくて、大人しく連絡受けるまでは動かないとだけ言って僕は家を出た。

絶対に犯人は僕が咬み殺す。

そして兄さんを必ず見返してやる。


* ひとやすみ *
・逆効果・・・!笑
 兄ちゃんの思惑は完全に裏目。しかも完璧とか思ってる辺りが兄様クオリティ!笑
 そしてちんたらしてる内に気が付けば100話!本当に長い間ありがとうございます!
 道のりはまだ長いですがもうしばらくすいか編お付き合い下さい!!                   (10/08/22)