ドリーム小説
俺が少し剣術流派潰しの旅に出ていた間に、学年の雰囲気はすっかり変わっちまっていた。
誰もがその名を口にし、怯え、憧れ、最強だと唱えた三つ年上の男、。
裏の世界に通じるこんな学校だからこそ、最強を名乗る奴らはごまんといて別に興味も期待もしていなかった。
同じクラスのキャバッローネんトコの次男坊が同じクラスの奴に苛められていた。
理由は嫉妬。
ディーノの兄貴がへなちょこな弟を可愛がるのが気に食わないらしい。
ハッ・・・・ダッセェ。
そう思いながらも俺はディーノの兄の名前を覚えるように何度も呟いていた。
授業に厭き、屋上で時間を潰していると、射撃訓練をしているのか銃声が耳に届いた。
ただ何となく、訓練場を見下ろせば一人だけ異様な空気を放っている奴がいる。
遠く離れているにも関わらず、張り詰めた空気に鼓動が速くなる。
誰もソイツに近付かないのは当然だ。
この物凄い殺気、アイツとヤり合いテェ。
ようやく会えた強い奴をひたすら目で追うと、四発の発砲音がして俺は嬉しさで鳥肌が立った。
全ての銃弾をど真ん中に貫通させやがった。
余程の腕が無ければ同じ穴を全てが通るはずが無ェ。
ククッと声を漏らして笑えば、ハトが邪魔をするように目の前を通り過ぎた。
アイツを倒すのは俺だ。
そう思って遮られた視線が再びソイツを捉えた時、信じられない事に目が合った。
まさかこんな遠くの俺に気付いてるって言うのか?!
ガバリと身体を引くと、奴の口が動いた。
『お、ま、え、が?』
まるで奴を倒そうとしている俺に無謀だと言っているように、奴は呆れた顔で俺を見上げていた。
アイツ、一体何者なんだ・・・。
***
それから目で追うようになったアイツが噂のだと知ったのはすぐの事だった。
間違いなくアイツがこの学校で一番強い。
ならそれを倒して俺が最強になってやる。
容姿もオーラも誰より目立つに決意の視線を向けると金色の目が俺を捉えた。
ビクリと思わず身体を揺らした俺を、嘲るでも憎むでもなく奴は興味なさげにすぐに視線を逸らした。
俺は舐められてんのかぁ・・・?!
そうだと確信したのはそれ以降、どんなに殺気を向けても奴は振り向きもしなかった。
そんなアイツと直接向かい合ったのは、昼時だった。
完璧なテーブルマナーでパスタを優雅に食べるはあから様に溜め息を吐いて言った。
「出てこいよ」
パスタから視線を上げもせず、言い放った奴は俺を馬鹿にしてるとしか思えねェ。
しかも、やはり俺に気付いていた。
呼ばれて出ていかねェなんてクズのする事だぁ。
―――
ガキィィィィィィン
「ゔぉぉい!いつから俺がお前を狙っていた事に気付いてたぁ?」
不意打ちであったが、俺の渾身の一撃はフォーク一本で止められた。
逸る気持ちを抑えるように白々しい言葉を口にしつつ、焦りを必死に隠す。
何なんだ、この馬鹿力は・・・ッ。
「落ち着け」
表情一つ動かさないは端整な顔をようやく俺に向けた。
金色の中に俺が映っている。
それを見て機嫌がよくなったのを自分で感じながら言葉を綴る。
「・・・はッ!噂通りだなぁ。お前に勝てば俺が最強って訳かぁぁ?」
「何か勘違いしてないか?」
すぐさま返されたその一言で俺の気分は急降下。
冷たい瞳は暗に「お前じゃ俺には勝てない」と言っていた。
どんなに押しても力強く返される剣に手が震え、それに気付いたがフォークを引き抜いた。
唇を噛んでも噛み殺せない悔しさに、再び剣を振るうもは簡単にそれを避ける。
「・・・ッこの俺がお前に劣るって言いテェのかぁ?!」
実力に差が、ありすぎるのは始めから分かっていた。
だけど、どうしても挑まずにはいられなかったのだ。
プライドを捨ててでも縋り付きたくなったその恐怖と圧倒的な威圧感に飲み込まれそうで。
熱を少しも感じないの目は興味ないとばかりにもう俺を映してはいなかった。
俺はどうすればコイツの目に留まる?何をすれば・・・。
必死に考えていた時、が急に立ち上がった。
「ゔお゙ぉぉい!まだ話は終わってねぇ!」
行かせるか!そう思い、無意識に剣で行く手を遮れば、剣が押し返された。
「邪魔するなッ!」
「・・・・ッ、」
身体が心底震え上がった。
間近で殺気を浴びて硬直したのもあるが、走り去るの背に泣きたくなった。
嫌われた・・・・ッ。
アイツの目にもう二度と俺は映らない。
目の前が闇に包まれたようだった。
なぜ、こんなにも奴に執着しているのかなんて俺にも分からない。
ただ、に嫌われたのが酷く悲しかった。
全てが地に落ち、絶望だけが重く圧し掛かっていた俺の前に、なぜかが帰ってきた。
再び、椅子にドサリと座って俺を睨んでいる。
俺のせいで何かを逃した事を責めるつもりなのだろうか。
それがどうしようもなく怖い事に思え、聞こえてきた溜め息に身体が跳ねた。
嫌われたくない、嫌われたくない・・ッ。
「・・・わ、るかったっ、」
気が付けば口からそんな言葉が漏れていた。
今まで誰かの返事を聞くのが怖いなんて思った事があっただろうか。
硬い声で「そこ座れよ」と言われて俺は大人しく従った。
やはり知らなかったようで俺の名前を問われ、震える声で名乗る。
名乗った所で呼ばれる事なんてありえねェのに。
「俺はだ」
な、んだ・・・・?
俺に名乗ってくれたのか・・・?
「スクアーロ、顔を上げろ。俺は別に怒ってないから」
途端に弾かれたように顔を上げた。
今、俺の名前・・・。
怒ってない・・・?俺、は、嫌われて、ない、のか・・・?
金の瞳がもう一度俺を映しているのが嬉しくて、力が抜けた。
ふと口の端を上げて笑ったの顔があまりにも綺麗で顔に熱が集まる。
楽しそうにしている奴の名を恐々と呼ぶと、普通に返事が返ってきた。
と呼ぶ事を許してくれたらしい。
「さっき何を追ったんだぁ?」
一瞬にして表情が元に戻ってマズイ事を聞いたかと焦ったが、は分からない事がある、と淡々と言った。
が話し出した事はあのへなちょこの話だった。
なぜだかそれにムッとしながらも、自分で考えて悩んで乗り越えていく努力をもっとすべきだと
答えたに俺も同意した。
「努力が足りないなら努力すればいい。弱ェなら強くなればいい。
だからディーノが苛められるのはアイツ自身の責任だろぉ」
それは俺にも当てはまる事で、認めて欲しければもっと努力しなければならない。
思った事を言ったまでだったのだが、その途端には凄まじい殺気を爆発させた。
素直に恐怖を示す身体を押さえ込むように力を入れなければ、とてもじゃねぇが耐えられない。
が怒ってる・・・・。
弟が苛めにあっていると知って怒ったのだ。
このの殺気と怒気が向けられている奴はとんでもねェ阿呆だ。
コイツを敵にするなんて、命知らずもいい所。
だが、同時に怒りでもの目に止まった事が心底羨ましかった。
俺は、コイツにとって、どういう存在なんだぁ・・・?
激流のような不安に飲み込まれそうになった時、静かに立ち上がったが確かにこう言った。
「一緒に来るか?」
ひどく心地よい声が耳を打った。
認められた・・・?
信頼されたのか・・・?
ただの気まぐれか・・・?
いや、もう何でもいい。
俺の答えは決まっている。
「付き合ってやる」
喜んでいる心を隠すように、わざと意地を張ってそう返せばの金色が愉しそうに笑った気がした。
* ひとやすみ *
・何このツンデレっ子!!笑
設定上仕方ないとはいえ、ディーノに引き続きチミっ子を誑かす主人公。笑
騙されるなスクアーロ。中身はちんちくりんだぞ?!笑 (09/06/09)