ドリーム小説
その日は我がキャバッローネファミリー総出の大騒動だった。
まだか、まだかとボスは落ち着きなく歩き回るし、他の奴らもソワソワと貧乏揺すりをしていた。
おそらくこの日に侵入者がいたならば、呆気なく俺達はやられただろう。
部屋の前でソワソワと俺達が集まっているのを見て、メイドは溜め息を吐くし、
懇意にしている庭師の爺さんは根性がなってないと説教する始末。
待ちきれなくてボスがついに発狂し始めた時、屋敷に響いた声で俺達はハッと顔を上げた。
部屋の扉が開き、現れた婆さんは嬉しそうな顔でボスに告げた。
「9代目にそっくりな元気な男の子ですよ」
半ベソをかいていたボスが婆さんを抱き締めて、俺達もボスの子供の誕生を喜び、歓喜の声を上げた。
それが神童、様の誕生だった。
奥方と様をそれはそれは大事にしていたボスは二人を別の屋敷に移し、屋敷を行き来する日々を送っていた。
そんなある日、唐突にボスがとんでもない事を口にした。
「を十代目候補としてファミリーに迎えようと思う」
「ボス・・・、子煩悩はいいですが、いくらなんでもまだ幼い様をファミリーにするのは・・・」
「あの子は天才だ。・・・・上に立つべくして生まれた人間だ」
その時の俺達はボスの言う意味を全く理解できず、またいつもの惚気話だと思って聞き流した。
それが本気だと知ったのは、反対派の上層部を納得させるため様に厳しい試験をさせる事を提案した時だった。
大人でも難しいペーパーテストはわざと卑怯な問題も交ぜてあるし、
マフィア四人との対戦など俺達だってギリギリである。
正直言って、三歳の子供にさせるなんて正気の沙汰じゃないが、ボスが譲らず上層部も無理だろうと判断して折れた。
そしてファミリーの中でも若い俺が様のボディーガードを任された訳だ。
恥ずかしながら最初はガキの子守りなんて面倒などと思ったが、三歳になった様と対面した時、鳥肌が立った。
――――格が、ちがう。
会って初めてそう思い、ふとボスの言った言葉を思い出した。
生まれながらにして上に立つべき人間、王としての素質、その全てを詰め込む器として
様はあまりに小さい気がした。
しかし、ボスと奥方のどちらの遺伝でもない黄金に輝く瞳は間違いなく何か大きな力を秘めていて。
小さな身体に、大きな存在感。
そのアンバランスさに魂ごと吸い込まれてしまったような感覚に陥る。
気が付けば他の奴らも俺と同じような反応をしていて錯覚じゃない事を突きつけられた。
哀願とか畏怖とかでなく何か混沌とした、全てを差し出してもいいと思えるようなオーラが様にはあった。
それがボスたる資格だと言うならば完璧であるが、同時にそうさせてしまう様の力が恐ろしく感じた。
迎えに行く際、ボスが最後の最後になって止めると駄々をこねたが、
様は決意していたようで素直に付いて来てくれた。
寂しいなら奥方も一緒にどうかと提案してみたが、やはり様は強く逞しい子だった。
ボスとは大違いだ。
***
本部に着いたらファミリーの奴ら総出で様を出迎えていた。
全く、みんな噂のボスの息子を見たくて仕方なかったんだろう。
スーツで並ぶなんて威圧感しか与えないというのに。
俺は心配になって隣を歩く様をちらりと見たが、ただ真っ直ぐこれから起こる事だけを見据えている様だった。
しかも父上を心配する余裕まである。
「父さんは大丈夫だろうか」
「・・・どうでしょう。ウチのボスは気まぐれですからね」
そればっかりは俺にも分からないです。
様も同じ気持ちなのか困ったように小さく息を吐いていた。
その後、試験会場に向い試験官の上司と合流して、マフィアになってボスを支える覚悟の有無を確かめた。
様自身がボスを、キャバッローネを助けたいと思っていなければこの試験に意味がない。
「その歳で本当にお父上を助けようと?」
「当たり前だろ。それに歳は関係ない」
「・・そうですか。様がお決めになったのならもう何も言いません」
なんて出来た子なんだ!
上司も感動したらしく、涙を誤魔化そうとさっさと試験を開始した。
そして俺は目を疑った。
信じられない。
カレッジレベルの問題、論理、計算、その全てを解いている。
しかもあのインチキ問題に答えがない事を分かっていたのか「ありえない」と書き殴られていた。
上司も目を丸くして驚いていて、よほど嬉しかったのか様の頭を撫で回していた。
照れを隠すように上司の手から逃れ「これくらい何ともない」と呟いた様に
高揚感を抑えられない俺はすぐに次の体術試験を開始したが、不服そうに眉根を寄せておられた。
「・・・止めておいた方がいいんじゃないか?」
「命令ですので」
「無駄な事を」
お前らじゃ相手不足だというように首を振った様を見てドキリと何かが跳ねた。
何だろう。俺は様に惚れそうだ。
次の試験官四人は三歳児相手に最初は嫌がっていたが、様に会ってそんな事吹き飛んだらしい。
向かい合った様から発せられる気迫に耐え切れず、試験官から飛び掛っていった。
決着は一瞬だった。
背を向けた様は滑るような動きで後ろに足を振り上げ、一人を蹴り倒し、その隣に靴を飛ばして二人を倒した。
残り二人で挟み撃ちにしようとしていた試験官のカウンターを地面に伏せる事でかわし、
そのカウンターがニアミスで試験官の腹にヒット。
最後の一人をかわすように地を転がる様が立ち上がった時、そこが試験官の股の間で・・・。
お、俺まで、股間痛い・・・。
悠然とそこに立つ様と地に伏せた同僚を見比べ、俺は天に感謝した。
この人の側にいさせてくれてありがとう。
いずれ様は必ず誰もが平伏す人になるだろう。
試験後、様は案の定、上層部をその実力で黙らせ、ファミリー入りされた。
ボスと抱き合ってる所を見て、俺は心に深く誓った。
このロマーリオ、ずっとお傍で様を守っていきます。
* ひとやすみ *
・ろまりお・・・、アンタ誰だ?!敬語か?!敬語がいけなかったのか?!
わっかりにくい事この上ないですが、今後ああなると期待したい・・・。
激しく主人公との話が食い違っています。 (09/06/01)