ドリーム小説

体術試験と称して、黒スーツが俺に向って襲い掛かってきている。

三歳児相手に大人四人がかりなんて卑怯も何もあったもんじゃない。

何より、目が血走ってて怖すぎる!!

心底、命が危ないと感じた俺は本能のまま奴らに背を向けた。




「(逃げるしかないって!)」




クルリと反転して足を踏み出した途端、身体が前に傾く。

嘘だろ。こんな時に滑ってすっ転んでる場合じゃないのに。

ズルっと音を立てて前のめりに倒れ込んだ拍子に靴が後ろにすっ飛び、おまけに目にゴミが入った。

ゴミ、痛ぇ!!最悪だ。俺ってどこまでついてないんだ!

あまりの目の痛さに目を押さえたまま、床に倒れ込む。

ヤバイ。このまま転がってたら捕まってジ・エンド・オブ・俺、じゃねー?!

涙で見えない目を押さえながら、床をゴロゴロと転がって逃げる。

カッコ悪いことこの上ないが、命の方が大事だ。

涙が止まり何度か目を瞬いて俺は意を決して立ち上がる。

あ、いってェ!何か頭ぶつけた!

まだ戦ってもいないのにすでにあちこちぶつけて満身創痍だ。

でも、どうせ死ぬなら一つくらい何かカッコいい所見せて死んでやる。

まだ涙で歪む視界を細めて前を睨むと、監視役か何かのあの若いマフィアの兄ちゃんが目を見開いて立っていた。

あれ、襲ってきた黒スーツ四人がいない?

恐る恐る後ろを振り向くと、なぜか黒スーツが四人とも床で寝ていた。

一体、何がどうなってんだ・・・・?

唯一事情を知っているだろう兄ちゃんを振り返れば、いつの間にか目の前にいた。

ち、近ッ!!




「これにて試験は全て終了です」




生きてるって素晴らしい!!

やったー!俺何にもしてないけど、頑張ったー!

母さん、もう一度あなたに会えそうです!!

はっ!そうだ、父さんは?!




「父さんは?」

「すでに準備を整えておられます」




準備って何の・・・?

あ、もしかして家に帰る準備万端、いつでも帰ろうぜ!って事か?!

うんうん。さっさとこんな所から出よう。

どことなくさっきより優しくなった兄ちゃんは、牢獄のような部屋の扉を開けて俺を外に出した。

ようやく壁に囲まれた圧迫感から開放されて息を吐く。

どんどん奥の方に進んでいく兄ちゃんに付いて行きながら、目だけを動かして屋敷の中を観察する。

あんまキョロキョロして銃でズドン!とされたら堪らないからな。

しかし、見れば見るほど、ウチの屋敷の雰囲気と似ているのは何故だろう。

おそらく置いてある調度品の取り合わせが似ているからだろうケド。

どこにでも似たような趣味の人っているんだなー。

真っ赤なフカフカ絨毯を踏みしめて歩いていると、兄ちゃんが立ち止まったので俺も止まる。

気が付けば廊下は一本道、先には大きな白い扉。

そして果てしなく嫌な予感がするのは気のせいか・・・?




「ボスが様をお待ちです」




ハハハ。人の家で遊んで行ったんだから挨拶ぐらいして帰りましょうってか?

うわーん!これぞホントのラスボスだー!

何なんだ、この責め苦は。

普通の三歳児ならとっくに気が可笑しくなってるぞ?

中身が十九歳、まぁ成長してたら二十二歳だが、そんな俺だから良かったものの。

いや、むしろ全然良くないが。

もしかして前の鬼家族の元で育ったおかげで打たれ強くなってるのかもしれない。

嬉しいのか嬉しくないのか複雑な気分だけど、今度ばかりは無理な気がする。

今まで体験してきた事もあるし、何でも有りなこのマフィアが俺と父さんを無事に帰してくれるはずがない。

憂鬱な気持ちを吐き出すように深く溜め息を吐いた時、大きな影が俺を包んで思わず振り返った。




ー!!父さんのせいで無茶させてゴメンなー!」

「父さん?!」




いつものようにギュウギュウに抱き締められて何にも見えないが、このうっとおしい感じは正しく父さんだ。

てか、アンタ監禁されてんじゃなかったの?!

一人でこんな所に出てきた事を兄ちゃんも驚いたようで目を見開いていた。




「こんな所で何をやってるんです!」

が試験頑張ってたから迎えに来ただけだ」

「すでに準備は整っています。お待ちのはずでは・・」

「分かってる」




何やら俺には理解できない話が肩越しに交わされる。

準備とやらがあの部屋の向こうで整っている、という事だけは分かった。

やっぱり、俺達はここで死ぬのだろうか。




、お前にはもう一仕事残ってる。行こうか」

「・・・・うん」




あぁ。二度目の人生も短かったなぁ。

父さんの大きな手に手を引かれて白い大きな装飾扉を開けると、黒スーツが部屋を埋め尽くしていた。

舐め回すような視線に晒され、ゾクリとした感覚が背筋を走る。

父さんと俺が部屋に入ると避けるように黒スーツ達が奥にあった机まで道を開けた。

そのしっかりした造りの机がおそらくボスの物なのだろうが、椅子には肝心のボスがいなかった。

首を傾げた途端に父さんが俺を急に抱き締めた。

いつもと違ってふわりと腕に包まれて、俺は自分の最期を悟った。

擦り付けるように父さんの灰色の髪に顔を埋めると煙草の臭いがした。




、今まで窮屈な思いをさせてすまなかった」

「・・・・父さんは悪くないよ」

「そうか・・・。だが、それも今日で終わりだ」




そのまま抱き上げられて、黒スーツの花道を父さんと二人歩いた。

黒い花道。最後の最後までいやな感じだ。

父さんの抱き上げる腕に力がこもった時、俺は目を閉じた。

グッバイ、三歳の俺。




「今日この日をもって、息子を我がキャバッローネファミリーの次期後継者とする」

「よかったな、ボス!」

「ボス、おめでとうございます!」

「ん?」

様ぁ!」

「さすがボスの息子!」

「んん?」

様ならやり遂げると思ってました!!」




・・・・・・・・・・・・ん?

何だこの状況は??

ここに来てからずっと一緒だった兄ちゃんが後ろにいたから聞いてみた。




「皆様がファミリーになられて嬉しいのですよ。

 幼い様を後継者にするのに反発していた者を納得させるため試験を行ったのですが、

 あっさりクリアなさって反対派を黙らせてしまったでしょう?

 このロマーリオ、様付きのボディーガードとして鼻が高いです」

「・・・・そうか」




目の前の状況をもう一度整理してみよう。

黒スーツ達が小踊りして、父さんが感涙してて、俺が次期後継者で、ついでにボスの息子で・・・。

嬉しそうに俺に顔を寄せてくる父さんに視線を止める。

ようするに・・・・。


犯人はお前かぁぁぁぁあああ!!!


* ひとやすみ *
・なんて事ない結果でした。笑
 さくさくっと成長してキャラと絡んでもらいましょう!(09/05/30)