ドリーム小説

「恭弥さん!さんがいないんですッ!!」




恭弥が玄関を開けた途端、草壁が涙を浮かべて叫んできた。

何だかそれがあまりに目に耐えない光景だったので、恭弥はそのまますぐに玄関の戸を閉めた。

何というか、ものすごく気持ちが悪い。

玄関を叩いてウォンウォンと泣き叫ぶ草壁がウザくて、戸を開けるとすごい勢いで叫び出した。




さんと連絡が取れないんです!携帯も繋がらないし、学校も休まれてて!どういう事なんでしょうか?!」

「・・・・兄さんは、旅に出たよ」

「旅ィ?!何でまた急に!俺達はこれからどうすればいいんです?!」

「知らないよ。兄さんがいないと何にも出来ないの、君達」

「出来ませんよ!さんがいたから荒くれ者が集まってたようなものです」




風紀委員の瓦解が目に見えた瞬間、草壁の顔は一気に青褪めた。

恭弥には草壁の気持ちが手に取るように分かった。

風紀委員がいなくなるという事は、圧力から解放された不良を野放しにするのも同然だった。

そうなれば、並盛は混乱に陥る。




「一体、いつさんは戻られるんです?!」

「・・・・・・そんなの、僕が知りたいよ」

「え」

「ふーん、なるほど。の代わりに僕が務めてもいいよ、委員長」

「父さん」




ビシリと固まった草壁に雲雀父はそう言って笑いかけ、恭弥は胡散臭そうに父を見上げた。

初代委員長で総裁だか何だか知らないけど、父さんが出て来て碌なことになった例がない。

息子の不満そうな顔を見て、雲雀父はくしゃくしゃと髪を撫でて言った。




が留学している間、僕が委員長代理を務めるとまず街中に知らせてくれるかい、副委員長」

「わ、わかりました!」




ニコリと笑った雲雀父に、まさかあんな事になろうとはまだ誰も知らなかった。




君が留学?ひ、雲雀さんが代理委員長?!」

「終わりだ!!荷物まとめて逃げるぞ!」

「またあの暗黒時代を繰り返すのか?!」




その噂は瞬く間に並盛に広がった。

雲雀父の現役時代を知るだろう大人達は阿鼻叫喚。

訳が分からない子供達は首を傾げるばかりだった。

恭弥はそんな街の様子を見て、碌でもない父親に呆れた。

一体何をしたんだ、父さんは。

並高にいるはずの雲雀父と草壁が気になって、恭弥は一つ溜め息を吐いて歩き出した。








***







「委員長。まもなく予算上乗せを求める部との話し合いが」

「へぇ、、そんなこともやってたんだ」

「はい」




が馬鹿丁寧にファイリングした資料を眺めながら、雲雀父は楽しそうに笑った。

草壁の視線に促されて立ち上がった父は思い出したように言った。




「あ、そうだ。そこの風紀支援金としての払い、三倍に増やしといて」

「これ以上ですか?!」

「うん。は甘すぎるよね。じゃ、話し合いに行こうか」




ニッコリ笑った雲雀父とは対照にその場にいた風紀委員はゴクリと喉を鳴らした。

何か自分達は重大なミスを犯したのではないか、と。








そして会議室に着いた雲雀父は集まっている各部長達に向ってニコリと笑った。

その笑顔と裏腹に告げられた言葉は酷く残酷なものだった。




「話し合いを全部聞いてるほど暇じゃないらしいんだよね」

「「 え 」」

「だからさ、戦って勝った方に予算上乗せしてあげるよ」

「「 は?! 」」

「うん。だけど風紀にそんな財源ないから、負けた方が払うってことでどうかな?」




あまりに滅茶苦茶なことを言う委員長代理にさすがの草壁も声を上げようとした。

しかし、笑顔なのに場が凍るような空気をしている雲雀父に誰も反論出来ず、流れのままに会議室で乱闘騒ぎが起こった。

ニコニコとそれを見ている雲雀父に草壁は冷や汗を掻いた。

どうして教師達があんなに怯えていたのかがようやく分かった。

総裁や初代委員長の肩書きの前に「悪の」と付く意味が浮き彫りになった。

むしろこれは悪とかいう可愛らしいものじゃない。

この人は魔王だ。

しかもあろう事か、雲雀父は乱闘に自分も交ざりたいと殴り込み、全員一発KOさせた上にこのトドメ。




「勝ったのは僕みたいだから、君達が風紀予算に上乗せ頼むよ」




おそらく意識もないだろう生徒にあっさり部費巻き上げ発言をしてニコリと笑った。

その笑顔にゾッとした草壁の目に驚くものが目に入る。

会議室の入り口にピンクのエプロンの主婦が仁王立ちしていた。




「やぁ、奥さん」

「やぁ、じゃないでしょ、このおバカさん!!」




遠慮の欠片もなくスコーン!と音を立てておたまで雲雀父を殴った主婦に開いた口が塞がらない。

その後もポコポコ殴り続ける女に呆然としてると、その後ろから恭弥が出て来た。




「こんなことだろうと思って、母さん連れて来たのは正解だったね」

「あの、恭弥さん・・・」

「ごめんなさいね。旦那さんがまたオイタしたんでしょう?」

「い、いえ!」

「もう!今日はいそべ揚げを作るから手伝ってて言ったでしょう?」

「忘れてたよ。じゃあ帰ろうか」

「旦那さんのご飯は当分、全部ちくわですからね」

「え゙」

「恭弥、旦那さんの代わりにこちらのお手伝いしてあげてね!夕食までには帰るのよー?」




雲雀父を引き摺りながら帰っていったピンクエプロンの主婦に風紀委員一同はポカンと立ち尽くしていた。

つまり、雲雀父を倒した(?)雲雀母が委員長代理で、その委員長に全権与えられた恭弥が委員長なの、か?

一斉に小さな恭弥に視線を向けた風紀委員達に、恭弥は眉間に皺を寄せ深く溜め息を吐いた。




兄さんの風紀委員を父さんにめちゃくちゃにされたままじゃ気に食わないからね」




その言葉に風紀委員は恐怖からの解放に喜び叫び、街の人々も夜逃げせずに済んだ。

よりか少し厳しい恭弥の政策であったが、悪の総裁を経験した並盛はあっさりとそれを受け入れた。

こうして風紀委員は恭弥委員長代理の元でが帰って来るまで続くことになった。


* ひとやすみ *
・やんちゃどころじゃない雲雀父。
 家族には滅茶苦茶甘い人だけど、実は恭弥よりも残酷な人。
 雲雀母に怒られ、恭弥に呆れられるくらいがちょうどいいってこと。笑
 分かってやってる辺りが手に負えない天邪鬼総裁。昔の並盛には暗黒時代があった!笑
 てなわけで拍手お礼作品第二弾!                             (09/09/18)