ドリーム小説
「まぁ!まぁ!とっても美しい瞳ね!貴方はどなた?」
「本日はお招きいただき感謝いたします。私は・ラドリアと申します、アデルトルート様」
「うふふ!メアリーのことはメアリーでいいのよ、お姉様」
着いた途端、ご令嬢たちから距離を取られて傷付く暇もなく、悪の親玉が俺の元に飛んできた。
普通に可愛い美少女にしか見えないが、本当にこれがティエラを傷付けるようなことをしたのだろうか。
つーか、警備もこんなザルでいいの?
俺の名乗ったラドリアは、とある小国の病弱な娘の家名である。
その娘は遥か昔に天に召されたらしいが、家格の低いラドリア家は忘れ去られた一族であり、
都合が良さそうだと執事が家ごと買い取ったのだそうだ。
ラドリアのことは執事が手配したのだから警備を潜れたとしても、メアリーはそんなことはどうでもいいようだった。
俺の周りをくるくると回りながら見つめてくる無邪気な少女は優しげな黄色いドレスに身を包んでいた。
「ねぇポチ!私、お姉様の目が気に入ったわ!おもちゃ箱に入れましょうよ!」
メアリーは目を輝かせて良いことを思い付いたとばかりに手を合わせて背後を振り返って言った。
彼女の後ろには付き従うようにひっそりと、背の高い青年が立っており彼はメアリーの言葉に淡々と返す。
「巫女様。おもちゃ箱はすでにいっぱいです。それにあの瞳はあそこにある方がより良く鑑賞出来ると愚考します」
「まぁ!・・・それもそうね!動く方が何倍も素敵だわ!」
うふふと笑う少女に淡々と返す青年、俺はあまりに異常な光景にゾッとした。
何だ、今の会話は・・・。
俺の目がどうしたって?
何かおかしなことが起きてるというのに、世間話をするかのような軽さが場を占めている。
ビリリとした鋭い気配を感じ視線を向けると、ポチと呼ばれた青年の死んだような目がこちらを向いていた。
これは、気合いを入れなきゃ、生きてここを出られないかもしれねーな・・・。
戦闘モードのスイッチを入れた俺は、メアリーが掴んできた手を握り返して微笑んだ。
「お姉様!向こうでメアリーとお茶しましょ!」
「えぇ、喜んで」
彼女に腕を引かれながら、俺はが足の間にあることを確認して悪魔のお茶会へと向かった。
全く、何ていうデスゲームだよ・・・。
***
「メアリーはね、とーってもキレイなものが大好きなの。女の子はね、みぃんなフワフワしてて可愛いから好きー!」
「それでパーティーを?」
「いろんな色があってキレイよねぇ。・・・でもメアリーと同じ色は嫌。いらない」
すうっと目を細めて声のトーンを落としたメアリーに俺は視線を落とした。
彼女が見ているのは招かれた令嬢の一人で、彼女は黄色いドレスを着ていた。
同じ色ってドレスのことか?
いやむしろ、同じ色じゃねーだろ、アレは。
メアリーがタンポポのような優しい色なら、あれはヒマワリのような鮮やかな黄色。
パステルとビビッドほどに違うだろうに、と首を傾げていたが、
メアリーはすぐに機嫌を直してニッコリ笑って俺を見た。
「お姉様は月の女神様のようにとってもキレイだわ!ずっと見ていたいくらい」
うっとりと俺を見上げるメアリーに顔が引き攣ったのも無理もないと思う。
だってここから出してもらえる気がしない。
ゾワリとした感覚を背筋で感じながら曖昧に返すと、ふとポチが離れるのに気が付いた。
周囲に気配を融かすように姿を消した青年に気を配りながら、俺は少女に手を引かれてその場を後にした。
ままごとのようなお茶会が始まり、豪勢なスイーツがテーブルに並べられる。
甘いものは好きだが、はっきり言って食欲なんてない。
敵陣で出される食糧に警戒しないわけにはいかないしな。
不安しかないお茶会は外に大きく突き出したテラスで行われた。
階下には先程のパーティー会場が広がり一望できる。
キラキラでフワフワの星がたくさん見えるでしょうとメアリーは無邪気に笑った。
「そこより上に輝くのがメアリーなのよ!」
「巫女様こそが唯一無二の一等星でございます」
「・・・えぇ、本当に」
俺はいつの間にか彼女の傍に戻ってきていたポチの言葉に呆然と返して口を噤んだ。
階下のパーティー会場には色とりどりのドレスが広がるが、
メアリーと同じ黄色のドレスはどこを探しても見当たらなかった。
なら先程のご令嬢はどこに消えた?
「・・・先程のメアリーと同じ色の彼女がいませんね」
メアリーは心底不思議そうに首を傾げた。
・・・気持ち悪い、何だこれは。
さも当然のように彼女は微笑んで言った。
「変なお姉様。神様はメアリーの願いを何でも叶えてくれるのよ?ねぇポチ?」
「はい。巫女様の意のままに」
純粋にこの場所が、この空気が怖いと感じた。
可笑しいだろ、ここは。
何でそんな風に笑っていられるんだ?!
彼女は巫女様のお願いの通りにドレスを染め直してくれましたと告げるポチにケラケラと笑うメアリー。
酷く歪んだ世界に俺は足を突っ込んでいると知り、気分が悪くなった。
少し休みたいと申し出ると機嫌のよかったメアリーはそれを許して、ポチに案内を頼んだ。
俺の傍をポチが通りすぎる際に知りすぎている臭いが鼻を突き、俺は彼に聞こえるような声で呟いた。
「・・・靴と首が汚れていますよ」
「それはお見苦しい所をお見せしました」
「彼女のドレスはさぞ罪深い色に染まったのでしょうね」
「いいえ。それはそれは見事な美しい紅色でしたよ」
鉄臭い血の臭いをプンプンさせて固まった血液を落としながら彼は獣のように笑った。
最悪な気分を引き摺ったまま俺は案内された部屋の扉を潜った。
扉が閉まる直前に、ポチが頭を下げて呟いた。
「・・・良い夢を」
・・・くそったれ!!
* ひとやすみ *
・救いのない話です。ティエラとガレノスが酷い怪我をしたことも理解出来る話です。
メアリーとポチの歪な主従に兄様は身の毛もよだつ思いを抱いています。まぁ常人には
理解不能な世界ですからね。さて、これからどうなるのか、最後まで見て下さると嬉しいです! (14/07/20)