ドリーム小説
「はい。それからこれを下に穿いて、ここから足通して・・・」
「悪いな、ビアンキ」
「いいのよ、仕事でしょう?」
俺は今、大変恥辱に塗れながらビアンキに着替えさせてもらっていた。
ハッキリ言って恥ずかしさしかないが、何も考えないように頭を空っぽにしようと努力している。
あれからかなり時間を掛けて悩んだが、ティエラの怪我や執事の危険な任務を考えたら
俺がこんなところで躓いている場合じゃなかった。
トドメはガレノスの負傷の知らせだった。
どうやらガレノスもティエラと共に潜入して反撃に遭い、ティエラを庇って大怪我をしていたようだ。
それでセイヤーが敵討ちを俺に頼んで行ったのかと、納得がいった。
俺は嫌々ながら女装することにしたが、当然ドレスの着方なんて知るわけがない。
こんな薄い生地なんて触ったら破れないのか。
頼みの綱のティエラもしばらく起きないだろうということで、困った末に俺は恥を忍んでビアンキに頼んだのだ。
だって野郎に頼んでも頼りないし化粧もしないといけないから、頼むなら全部一人でやってくれる人が良かった。
こんな恥ずかしい格好を晒すのは一人でいい。
しかし、ビアンキを選んだのは正解だった。
恥ずかしいのは恥ずかしいが、仕事だと割り切ってくれる配慮に救われている。
ドレスを着た後にビアンキはどこからか俺の髪色そっくりの長い鬘を持ってきて被せた。
「驚いた・・・。なんだけどじゃないみたい」
「それは、どうなんだ」
「あぁ心配しないで。出来は極上だから」
ニッコリと笑うビアンキに何とも微妙な気持ちになりながら、溜め息を吐いた。
鬘を綺麗に結い上げていく腕は流石女子だなと感心しながら座り込んでいると、
急に扉が開いて俺とビアンキは入り口に目をやった。
「兄さん!何か大変な・・・はぁ?!」
飛び込んできたのはディーノで入って来るなり、素っ頓狂な声を上げた。
まぁ確かに実の兄が女装してたらそうなるわな。
目を瞬かせて驚きで声も出ないディーノに溜め息を吐いた俺は、髪を結われているので動けず弟を手招いた。
フラフラと誘われるように俺の正面に来たディーノの顔を掴んで目を合わせる。
「俺だ。分かるか?」
「え、いや。俺が兄さんを分からないはずがないけど、さ。え、何が、どう・・・」
「仕事だ」
納得したようなしていないような曖昧な返事を返したディーノに苦笑する。
まぁいいか。別に趣味でやってるわけじゃないと分かってくれれば。
ディーノはフラフラと座り込んで俺の髪が結われているのをしばらくじっと見ていた。
「しっかし、すげーな。兄さんは兄さんだけど、どう見ても女だ」
「それは・・・目論見通りというか、虚しいというか」
「ホントに兄さんなんだよな?」
「あぁ」
ディーノはしげしげと近付いて俺の顔を覗き込んで、俺のぺったんこの胸を見た。
言っとくが何にも入れてないし、偽装はしてないぞ。
ビアンキがまな板の方がリアルで色気が出るって不思議なことを言ってたし、俺も気が楽だったからこうなった。
ディーノは俺の胸元をペタペタと触って確認している。
そんなディーノを見てビアンキは顔を引き攣らせて言った。
「・・・跳ね馬、貴方、今どんな風に見えてるか分かる?・・・・・・・美女の胸を弄る変態よ」
何かとんでもないこと言われたと顔を上げたディーノは俺を見て顔を真っ赤にして飛び退った。
何かすごい言い訳をしているが、慌てた顔が少し面白い。
はい出来たとビアンキに髪を解放されると、次はメイクだと顔中に何かいろんな物を塗りたくられた。
一段落して薄ら目を開けると落ち着いたディーノが離れて俺を見ていた。
居心地悪くて再び目を閉じると、その間にいろいろ弄られて気が付くと終わっていた。
目を開けて装飾品を付けられると、肩周りが強張っているのに気付いた。
女の人っていつもこんなことしてるのかと、心底尊敬した。
久々に見た鏡の中の俺は宝石ごと髪を結われて背中に長い髪を流して目蓋と唇が色付き、まつ毛が天を向いていた。
すっげぇ・・・、化粧でこんなに変わるんだなぁ。
ハッとして振り返ると、ビアンキとディーノが可笑しな顔をしていた。
「いや、これは・・・」
「女の私でも惚れそうだわ」
頬を染めて出来栄えを褒める二人に俺はニッコリ笑って言った。
「お褒めに与り光栄ですわ」
ちょっと悪ふざけしてみたのだけど、効果のほどはディーノがあまりの気持ち悪さに倒れたとだけ言っておこう。
魘されるディーノが兄さんだの姉さんだの言っていて、悪いことをしたと反省した。
・・・・・・ごめん、もうやらない。
案内されて辿り着いた会場にはたくさんの車が止まっていて、すでに煌びやかなご令嬢達がひしめき合っていた。
これの中を行かないといけないと思うと胃が痛い。
どう見ても俺はデカいし可愛げがないし、ディーノが倒れるくらいに気持ち悪いのだろう。
ビアンキはあからさまに世界一美人だから大丈夫と太鼓判を押してくれたが、
小さくてフワフワな女の子の中に巨大な男女が交じってたら浮くに決まってるし、任務にも支障が間違いなく出る。
無謀すぎる状態に俺は溜め息を吐いたが、運転手は容赦なく車の扉を開けた。
こうなりゃ目立ちまくって癇癪玉こと、メアリー・アデルトルート・メイラインの足を止めるしかない。
胎を括って車からゆっくり降りると、令嬢たちの物凄い視線を感じて内心汗を掻く。
「まぁ・・・!」
「あの方はどなたかしら」
「あのような方は初めて拝見しましたわ」
ほら見ろーーーーー!!!
すっげー怖い視線がいっぱい向けられてるじゃんーーー!!
引き攣る口元を隠すように俺はビアンキに持たされた黒のレースの扇を開いて翳した。
お、俺はクールで高貴な凛々しいご婦人!
合言葉を言い聞かすように呟いて、前を見てご令嬢方に微笑んだ。
雲雀、いざ出陣!!
* ひとやすみ *
・兄様の女装姿・・・見たいッ・・・!!つるぺたなのにゴージャスとか何それスゴイ!
兄様マジックで皆様の想像力を補って下さいませ!本格始動です!うちの姉様は
ヘタレですが、開き直ると物凄い堂に入ってる方です。ビアンキナイスフォロー!
仕事と割り切って特殊メイクすげーとか思ってそうですが、その実、ほとんど弄ってない事実。笑
さてどうなることやら。もう少しお付き合い下さると嬉しく思います! (14/07/20)