ドリーム小説

何が起きたのか分からなかった。

瞬きした次の瞬間、気が付いたらここにいた。

普通の中学生だったはずの俺はなぜか赤ん坊になっていて美人な母親がそばにいる。

意味が分からない。

だけど誰かが説明してくれることもなく、ただわけが分からないまま流されて

俺は無理やり赤ん坊であることを飲み込むことしか出来なかった。

前の俺がどうなったかは分かんないけど、今の俺がここにいるのはいわゆる転生ってやつみたいだ。

しかもどうやら外国で生まれたらしく、周囲は何語かで喋っていて聞き取れない。

それからはただ生活に慣れることに必死だった。

思えば俺がここで目覚めてから2年はただ無事に育つことだけを求められ、不自由なく過ごしたような気がする。

そう。2年を少し過ぎた辺りから環境は一変した。

ただ受け入れるだけの生活をしていた俺は、頭を使って生き延びなければ死を待つのみだと身を以て知った。

あの美しい母親は鬼か悪魔だった。

吐くほど運動させられたし、泣いて喚いても止めてくれるどころかノルマが増えた。

出来が悪いと罰が待ってたし、俺はすぐに抵抗するだけ無駄なことを覚った。

ただ黙々と言われたことをやるマシーンと化した頃、初めて拳銃を持った。

その時、初めて自分が危険な環境に生まれたことを知った。

だけど3歳児に何ができた?

俺は逃げることも嫌がることも出来ずに、ただその状況を受け入れるしか出来なかった。

母は全く俺に対して何もしない人だったが、味方ではなかった。

ただ「あなたのお父さんはすごい人なの」とばかり繰り返して、いろんなその道の達人を俺に付けた。

子どもに優しい人もいれば、碌でもない人もいた。

技術を学ぶついでに必要に駆られてそういった大人への対処の仕方も身に付けた。

その頃だったろうか。

話のついでにこの世界があの漫画のリボーンの世界だと知ったのは。

何が何だか分からないけど、生活は全く優しくなく、泣き言を言ってる余裕もなく、ただただ必死だった。

5歳になるまで、俺の世界は母であるあの人と真っ当な大人ではない教師達と伝え聞く人類最強の父で構成されていた。

あの人が目を輝かせて語る父は、とんでもなく強くてカッコよくて何でも出来てしまう奇跡のような人だった。

ハッキリ言ってかなり胡散臭い。

会ったこともない父だったが、俺がこんな環境にいるのは父のせいだと言うことは感じていたので

どれだけあの人が褒め称えても全く賛同出来なかった。

毎日をただただ消費してやり過ごしていたある日、その日の教師のおっさんが呟いた。




「何かに似てるな、坊主」

?」

「おう。その昔、アイツがガキの頃に会ったんだが、末恐ろしいマフィアでなぁ」

「今日はここまでにしましょう」




機嫌よく話すおっさんを珍しくもあの人が止めた。

よく分からないがその場は解散となり、おっさんが帰るとあの人は俺をジッと見て溜め息を吐いた。

そして、彼女は何を思ったのか近付いて来て、俺の頬に手を添えた。

そんなこと今までなかったので思わずビクリと飛び跳ねると、彼女は困ったように笑ってもう一度頬を撫でた。




「本当に似てること」




思えばこの時すでにあの人は俺を手放すことを決めていたのだろう。

その日の晩御飯を食べた後から記憶がない。

目が覚めたら目の前にとんでもない美形の男がいて、思わず条件反射で武器になるガラス片を手に飛び掛かっていた。

だって見知らぬ人間は全部敵だって教えられたし。

初手は逃げられたけど、とりあえずやられる前にやる!

ガラス片じゃ頼りにならないけど、唯一の武器を振り上げて飛び掛かれば男が一瞬で掻き消えた。

驚いてる間もなく腕が掴まれ、足の間に身体を割り込まれ、身動きできないよう身体はぎゅうぎゅうに締められていた。




「落ち着け。お前の母さんに頼まれた」

「・・・母さんはいない」




何とか逃げ出そうともがいてみたけど全くビクともしない。

この人の言ってるのはあの人のことだろうか?

未だかつてなかった事態に混乱していると、育てた女性と言い直された。

本当にあの人が?

そう思って改めて男を見上げると、その男は俺と同じ色の髪と目をしていることに気付いた。




「俺とおなじ色だ・・・」

「そうだな。俺の血が濃く出たらしいな」




俺の血って、血?!

じゃあこの人、まさか・・・!




「え?・・・父、さん?」




呆然と呟けば、美形がコクリと頷いた。

えぇぇぇ?!この人が例の人類最強ーーーー?!

あの人の言う父さんってマジで実在してたんだ?!

テンパる俺を見て美形はとんでもなく美しく笑った。

その瞬間、俺は現実に戻った。

今まで存在を微塵も感じさせなかった父親が出てくるってどういうことだ?

あの人が居ないことが俺の不安を一層掻き立てた。

頼まれたって何を?

俺は、これからどうなるのだろう?




「お前は俺が引き取ることになった」




目の前が真っ暗になった。

俺はあの人に捨てられたのだと理解した。

とんでもない人だったし、良いことなんて何もなかった。

だけどあの人は俺の唯一の肉親だったんだ。

まさかこんなに簡単に捨てられると思っていなかった。

俺はこの人外な最強男に売られたのだ。

・・・俺って一体何なのだろう?

何でこの世界に生まれたんだ?




「お前、名前は?」

「・・・ジュニア。そう呼んで」




名前なんて何の意味もない。

呼ばれたこともないし、呼ばれたいとも思わない。

生きる意味すら見付からず、自棄になっていた俺にはどうでもいいことだった。




「ジュニア、俺は雲雀。お前の父親だ。父さんとでも呼んでくれ」




雲雀ッ・・・?!

雲雀ってこの世界ではとんでもなく縁起が悪い名前だ。

まさかと思わずにはいられず、父と名乗る美形に恐る恐る聞くと、不思議そうに弟だと告げてきた。

信じらんねぇ!!ここに来て最恐の原作キャラとニアミスかよ!!!

半狂乱に陥ってる俺を無視して美形は呟いた。




「とりあえず、並盛に帰るか」




な、みもり、だと・・・?!

あの原作キャラ大集合な全く並じゃないあの町のことか?!

無理無理無理!

俺、こいつに殺される!

差し出された手が地獄への誘いにしか見えず、俺はその手を振り払った。




「いやだ!絶対行かない!!」




俺は悪魔に売り渡されたんだ!

今までこんなに頑張ってきたのに!

堪えてきたものが溢れ出して俺は美形の前で泣いてしまった。

俺、マジでどうなるんだろう・・・?


* ひとやすみ *
・父親は悪魔。そう認識されてるパパ兄様。笑
 息子視点が少し続きます。結構しんどい過去を持つ息子です。
 現代に戻るまでもう少しお付き合いいただけると嬉しいです!
 誰得話ですが、皆様の暇つぶしくらいになるといいなぁ。           (18/08/13)