ドリーム小説
あの一件以来、ジュニアとの距離は近付いたと思う。
話もいろいろしてくれるようになったし、不安になると俺の服の裾を掴んでいたりしている。
まぁ本人が気付いてないから言わないけど。
「あの人の前で戦いたくないなんて言えなかったんだ・・・」
ジュニアは母親をあの人と呼ぶ。
彼女は俺の足を引っ張らない強さをジュニアに求めていたらしく、子供の意志を無視して戦闘訓練を執拗に強要した。
たった一人の肉親である彼女の言葉を聞かずに生きていくことは幼い子供には出来るはずもなく、
おかげでジュニアは5歳児にはあるまじき戦闘能力を身に付けていた。
「しんどかったし、こわかったよ」
子供が淡々とそう語る事実が本当に痛い。
ジュニアの中でそれが当たり前のことになっていたことを考えると遣る瀬無い。
俺と一緒に行くことを嫌がった理由も聞いてみた。
「だって、父さんは世界一強いらしいから、今よりもっと戦わないといけないところに行かなきゃいけないと思ったから」
何て嘘教え込んでるの?!
世界一強いとか虚言も過ぎると嫌味にしか聞こえないよ?!
つまり、ジュニアは俺に引き取られることで今まで以上に戦わされると思ったってわけか。
並盛を嫌がった理由も同じなのか?
だけどあの反応は並盛がどういう場所か知らなければ出来ないと思うんだが、それも教え込まれてたのか?
「並盛について何か知っていたのか?」
「なにも。父さんとはじめて会った時にアジトだって知ったよ。あの人が父さんにつながること教えてくれるわけないし」
確かにそうだ。
あんなに慎重に動いてた彼女がそんな不用意にジュニアに情報を漏らすか?
今思えば恭弥のことだってそうだ。
俺と関係の深い恭弥のことを知っていたのはかなり不自然だし、初めて聞いた並盛という言葉にあの反応はやはりおかしい。
おそらくジュニアは恭弥のことも並盛のことも事前に知っていて嫌がっていた。
まぁ、普通の人間には恭弥もあの町もいろいろ起きて怖いからな・・・。
だけど、彼女が教えていないのだとしたら、ジュニアは一体誰からそんな話を聞いたんだ?
やっぱりこいつはまだ何かを隠している。
我が息子ながら謎だらけのジュニアの頭を足元に押し込むと、銃撃してきたチンピラに撃ち返す。
「きちんと隠れてろ」
「・・・父さんは戦うのが怖くないの?」
「馬鹿言え。怖いに決まってるだろ」
「えー?」
何だその目は本当のことを言って何が悪い!
カッコ悪かろうが、事実は事実だ!
何でこういつも物騒なことに巻き込まれるのか俺が聞きたいくらいだよ。
あと少しの所で弾詰まりした古びた拳銃に舌打ちして、走り来る敵に向かって銃を投げ捨てる。
「怖いのにじゃあどうして戦うの?」
足元で丸くなって心底不思議そうに俺を見上げるジュニアを横目に、襲い来る残党を投げ飛ばす。
そんなの理由なんか1個しかないだろうよ。
最後の一人をぶん殴って沈め、手についた汚れを払うと俺は息子を見る。
「守りたいものがあるからに決まってるだろ」
何当たり前なこと聞いてんだこいつは。
ハッと息を呑んで俺を見上げるジュニアが心底不思議に思えた。
そうじゃなきゃこんな面倒で怖いことしてるはずないだろうが。
お前だってそうだろ?
命とか居場所とかそういう大事なもののために闘ってきたんだろう?
俺もお前も何も違わねぇよ。
小さな頭をポスポスと叩けばジュニアは俯いて笑った。
「・・・ヘンなの。世界最強のマフィアのくせに、父さんは全然怖くないや」
んんん?
何かお前満面の笑みで笑ってるけど、今聞き捨てならないこと言わなかったか?
世界最強も盛り過ぎって思うけど、それ以上におかしなこと言ったぞ?
「勘違いしてるから正しておくが、俺はマフィアではなくごく普通の善良な並盛市民の一人だ」
「え?」
「え?」
だから、何なのその顔?
俺、マフィアとか無理だし、怖いことには関わりたくないわけよ。
ってさっきからずっとそう言ってんじゃん?!
どこか遠い所を見つめていたジュニアは、ふと俺の方を見た。
「あのさ、おれ、まだ戦いとかよく分かんないしイヤだけど、父さんみたいになりたいとは思うよ」
「そうか」
おおお?何だこれ?
身体中がムズ痒くて、顔の筋肉が自然と緩む。
思いがけず嬉しい言葉を息子からもらってニヤけた顔を隠すべく俺はジュニアを抱き上げた。
すげーな。世の父親達はこんな喜びや重さを感じながら頑張ってんのかー。
俺も父親業、頑張ろう。
* ひとやすみ *
・ジュニアとの距離感を測っています。兄様いろいろ化けの皮剥がれてるんですが
どう伝わってるのか微妙な所です。見栄とか虚勢とかもはや記憶の彼方。笑
ジュニアは結構大人な子どもですが、さて今後どうなることやら。
もう少し頑張るので是非また遊びに来てやって下さい! (18/06/24)