ドリーム小説
「助けて」
ある日の午後、唐突にかかって来た一本の電話から全ては始まった。
か細く憔悴した彼女の声を俺が聞き間違えるわけがなかった。
誰にも知られるわけにはいかないと言う彼女の言葉を聞いて、散歩途中だった俺はそのまま黙って飛行機に飛び乗った。
恭弥に連絡を入れたい所だが、今は彼女の状況を把握する方が先決だった。
俺から離れて以来、海外を飛び回っていた彼女に会うのは数年ぶりだが、電話先の彼女は相当切羽詰っていた。
焦燥感に駆られて言われた場所に向かったが、そこにあったのは携帯一つ。
何でこんなに厳重な警戒態勢なんだ?
登録されていた唯一の連絡先に掛けてみると言葉少なに次の場所を告げられる。
その後も点々と移動を繰り返していると、気が付けば人気のない山村に辿り着いていた。
どうやらこの村は廃村らしく人っ子一人いない。
古びた建物群の中を歩いていると一際大きな建物が見え、自然とそこへ向かっていた。
「教会、か?」
ゴシック式の薄汚れて朽ちかけている教会のうるさい扉を押し開けて入ると、
少し埃っぽいものの中はそこまで傷んでいないのか綺麗なものだった。
飾られている何かの像を見ながら祭壇まで進むと、祭壇の陰に人の足が見えてドキリとした。
恐る恐る覗き込むと小さな子どもが倒れていた。
とても綺麗な子だが、何か既視感がある子だな・・・。
死んでいるのかと思ったがその胸は規則正しく上下しており、
安堵した俺はその男の子が何か紙を抱えていることに気付いた。
それが俺宛の手紙だと分かった瞬間、物凄く嫌な予感がした。
未だ目覚めない子どもを横目に手紙を抜き取って目を通す。
彼女からの手紙だった。
そして衝撃の事実を知る。
この子は俺の子。育ててくれって・・・。
は?えぇぇぇぇぇ?!嘘だろ?!いや、てか今まで黙ってたこと自体あり得ねぇ!!
俺の子か。
・・・多分なくはない。なくはないけど、一言も相談がなかったことが悲しい。
ややこしい境遇の俺の子とバレれば命がないと思ったため、内緒で育てることにしたとある。
出来る限り何があっても一人で対処できるように強い子に育てたつもりだが、
隠しようがないくらい俺に似てきてしまい危険度が跳ね上がってしまった。
そしてもっと強さが必要となる以上、ここから先の教育は自分には無理だと覚ったらしい。
頼るつもりはなかったが、こうなってしまえば俺の側の方が安全だと思い、彼を託すことにしたそうだ。
子どもの安全の為に俺や子どもとの関係を徹底的に隠すことを選んだ彼女はきっとここに姿を現さない。
なんてめちゃくちゃな女なんだ・・・。
すごく苦労しただろうに、それを微塵も匂わさない彼女は最高にいい女だと思う。
押し付けられた子どもを見て苦笑した俺は父親になる決意をした。
急に父親とか言われても正直よく分からないけど、彼女とこの子の5年間を無駄にはしないと誓うよ。
子どものサラサラな髪を撫でると、ぱちりと目を開いて金色の瞳と目が合った。
「・・・ッ」
次の瞬間、子どもは跳ね起きて俺の喉笛を掻き切ろうと落ちていたガラス片を拾い振り上げた。
身を引いてそれを避けた俺は、威嚇する猫のような反応をする子どもを見た。
警戒に身を固くしているが、身のこなしはとても5歳児とは思えないほどキレが良かった。
彼女の教育とやらがまさかこういう所までなされてるとは思っていなかったけど、
この動きを見るに涙なくしては語れない訓練があったのだろう。
俺が勝手にジーンとしている間にも子どもは俺に向かってくる。
まぁ、動きは良いが所詮子どもの動き、可愛いものだ。俺の敵にはなり得ない。
振り上げられた手を掴んで、足も固定しながら子どもを抱き締める。
「落ち着け。お前の母さんに頼まれた」
「・・・母さんはいない」
呼吸荒く唸っていた子どもだが、抵抗は無意味だと知ると小さくそう言った。
・・・マジで彼女、血縁を隠すことを徹底してるな。
子どもにこんなことまで言わせて。
俺は小さく溜め息を吐いて、お前を育てた女性に頼まれたと言い直した。
すると、子どもは目を見開いて俺をマジマジと見た。
「俺とおなじ色だ・・・」
「そうだな。俺の血が濃く出たらしいな」
「え?・・・父、さん?」
父さん・・・ッ!
そうだよな。俺、父さんだよな!
無性にむず痒くなりながらぎこちなく頷けば、ポカンと口を開けていた。
あ、このアホ面。俺の子だわ、こいつ。
何だか可笑しくなって笑っていると、何とも言えない顔をした子どもは俯いた。
「俺は、どうなるの・・・?」
震えながら口を開いた子どもに俺が引き取ることになったと言えば青褪められた。
え、俺、めっちゃ嫌われてる?!
父親の威厳も何もなし?!これヤバくない?!
あ、そうだ。コイツ名前何ていうんだ?
「お前、名前は?」
「・・・・・」
顔を逸らされて無視された。
どうやら教えてくれる気はないらしい。
これ、修正不能なくらい嫌われてるよね?!
無言の居心地悪さに半泣きになると、子どもが小さく呟いた。
「・・・ジュニア。そう呼んで」
え、それ名前じゃないんだけど・・・?!
明らかな偽名だが、言うつもりのない子どもに無理強いさせるわけもいかないよな。
一先ず納得することにする。
「ジュニア、俺は雲雀。お前の父親だ。父さんとでも呼んでくれ」
「・・・ひばりッ?!」
何故か名乗ったらとんでもない声を出して驚かれた。
零れんばかりに見開かれた目を見つめながら首を傾げる。
何かおかしなこと言ったか、俺・・・?
「・・・じゃあ、雲雀恭弥って」
「俺の弟だな」
「ッ」
彼女に恭弥の話でも聞いていたのだろう。
言葉も出ない様子で驚くジュニアを見て俺も遠い目をする。
ジュニアの存在とか恭弥に知れたらとんでもなく怒られるんだろうな・・・。
そんでディーノにはきっと泣かれる・・・。
けど、この状況は話さないわけにはいかないだろ。
だって俺、子どもなんて育てられる自信なんかねーよ!
何か話すたびに少しずつ俺から離れていくジュニアに悲しくなる。
もう全部みんなに相談して助けてもらおう。
「とりあえず、並盛に帰るか」
「な、みもり」
頷いてジュニアに手を差し出せば、手を振り払われて逃げられた。
ビックリして目を瞬かせていると、ジュニアは泣き出した。
え、えぇぇぇぇ?!
「いやだ!絶対行かない!!」
途方に暮れる俺だが、一つだけ分かることがある。
ごめん、弟達。
兄ちゃん、何かもうしばらく帰れそうにないわ・・・。
* ひとやすみ *
・兄様視点。この辺りからようやく語れます。笑
実は兄様には秘密の彼女がいたそうです。しかしある日突然捨てられ彼女は姿を消しました。
兄様不甲斐無い自分にしょんぼりしてたけどそういうことらしいよ?笑
まぁ兄様もいい年ですから、彼女の一人や一人、一人くらいはいたようです。笑
ちなみに彼女についてはご想像にお任せします。笑
今後もちまちま更新頑張るので、また暇潰しに来てやって下さいませ! (18/06/03)