ドリーム小説
世界が凍る。
空気が酷く冷たい気がする。
ただジッと俺を見てくる父さんの金の目が怖くて仕方ない。
まるで極寒の地に裸で立たされたような心境で、恐ろしさに身体が震えて息も出来ない。
黙り込んで何も答えない俺に痺れを切らしたのか、父さんは目を眇めてもう一度呟く。
「言い直す。お前の中身は何だ?」
その言い方で俺は理解した。
父さんは全部分かってて聞いている。
俺の中身が本当の息子ではないことを知ってるんだ。
5歳の息子の中にどこの誰とも知れない中学生がいたら普通は気味が悪い。
悪魔憑きとか精神病とか疑われてきっと俺はまた捨てられる・・・!
「・・・この世の中、中身が違うことなんて結構そこらに転がってたりするぞ?」
・・・・・え、今、何て言ったのだろう?
父さんは至極どうでもよさそうにしているけど、こんなおかしなことが石ころみたく転がってるわけがない。
都合のいい聞き間違いだと飲み込もうとしてみたけど、父さんの呆れたような表情に困惑する。
やっぱり何を言ってるのか全く理解できなかったけど、父さんに俺の存在自体を疑われた時点で
俺はきっともう今までみたいに父さんの息子でいられないのだろう。
それは酷く寒くて怖いことだと全身の震えが教える。
「俺は・・・、俺はっ」
ようやく見付けた寄り辺が急に脆く崩れていく感覚が酷く恐ろしい。
父さんの側にいたいと思ったばかりなのに、俺はまた捨てられる・・・!
急激に未来が閉ざされていく気配に視線を足元に落とすと、不意に父さんが動いた。
見知った大きな手が頭に乗せられてハッと目線を上げると屈み込んだ父さんの金色と目が合った。
あまりの近さに驚いた瞬間、父さんはとても綺麗に笑って俺にだけ聞こえる小さな声で囁いた。
「・・・これは誰にも話したことがないんだが、実は俺もリボーンの世界への転生者だ」
え・・・・?!
何だかとんでもないことを聞かされた気がして顔を上げると、父さんは楽しそうにニヤリと笑った。
父さんも転生者・・・?
おれとおなじ?
その意味をじんわりと理解し始めた時、父さんが優しく笑って俺の頭を撫でた。
それはこの話をする前の父さんと全く同じ空気で、父さんは俺をどうこうするつもりはないようだった。
それどころか父さんも俺と同じ転生者だった。
何度も頭の上を往復する暖かい手に緊張で固まっていた身体が崩れ落ちた。
ガクリとしゃがみ込んで膝に顔を埋めると、緊張から解放された涙腺が緩んだ。
俺はここに、父さんの側に居ていいらしい。
呻くように堪えるように泣いていたら、ふわりと身体が宙に浮いてすっぽりと父さんの腕の中に収められた。
そして優しく背を叩かれるから堪ったもんじゃない。
涙腺崩壊とはこういうことを言うんだと思う。
俺はこの世界に来て初めて大声で泣いた。
***
俺はどうしてここにいるんだろう?
この世界に生まれてその理由も原因も分からないまま、ただ流されて生きてきた。
ここは漫画の世界で、誰一人味方がいない世界の中で、ただ流されて生きてきた。
もはや自分が本当に生きているのかそれすらも曖昧な人生で未来なんか見えなかった。
だけど父さんと出会えたことで、俺はようやくこの世界に生まれた気がする。
泣きすぎて腫れぼったい目蓋を眠気に逆らって必死に押し上げながら、父さんの手をぎゅっと握る。
「・・・父さん、俺ね。ちゃんと名前あるんだよ」
生れてすぐにあの人に付けられた名前だけど、ここじゃ誰も俺をそうは呼ばない。
でもそれでよかった。
あの生温い元の世界へ戻りたい気持ちは強かったし、この世界で生きていかなければいけない実感を持つのは怖かった。
それでジュニアと呼ばせ続けたのは完全に現実からの逃避だったけど、父さんは責めなかった。
「父さんあのね、俺こんな変なやつだけど、ここにいていい・・・?」
「当たり前だ。何馬鹿なことを言ってる。お前の中身が何だろうと俺の息子に違いはないだろう?」
俺も似たようなものだしなと笑う父さんに俺も笑って頷く。
俺はズルいやつだ。
優しい父さんなら絶対拒まないと分かってて言ってるんだから。
でも少しくらい許してほしい。
こうして誰かに言葉を貰うことで自分という存在を、この世界に在るということを、
確かめながらここで生きることを認めていきたいのだ。
「お前はこれからここで良いことも悪いことも経験していくんだよ」
「えぇ?そこは良いことだけでいいのに」
目を閉じながら父さんの声に耳を傾ける。
優しい声音が酷く心地良くて微睡ながら言い返すと、小さく笑われた。
「甘えるな。それこそそんな人生、漫画の中だけだ」
「・・・そっか。俺、ここで生きていくんだ」
俺達が生きている人生は漫画なんかじゃない。
そう言われた気がした。
良いことも悪いことも全部の経験が俺の人生か。
ちょっと前までの俺なら明日も見えない状況にお先真っ暗だっただろうに、
今は少し何か良いことが起きそうな予感がしていて調子のいい自分に笑いが込み上げる。
それもこれも全部この暖かくて大きな手が側にあるからだ。
俺はここから始められる。
「父さん、俺ね、俺の名前はね、って言うんだ・・・」
こうして俺は父さんの子、雲雀としてこの世界に生まれ落ちた。
* ひとやすみ *
・これで息子視点一区切りです。兄様視点に戻ります!
ここで終わってもよかったけど、さすがに冒頭までの流れをぶった切るのもどうかと思って。笑
なかなか難しい子だったけど書けて楽しかったです!もう少しお付き合い下さると嬉しいです!
更新の遅いサイトですがまた遊びに来て下さると幸いです!! (18/10/21)