ドリーム小説

そしてチャンスは唐突に訪れた。

プラントに何時頃着くのか気になった俺は再びラウの部屋の前に立っていた。




「ラウ、いるか?」




部屋をノックしたが返事はなかった。

まぁ目的は先延ばしになりそうだが、居ないなら居ないでいろいろ探れそうだから好都合だ。

俺はそんなことを思いながら、無許可で入室することにした。

ドアを開けて足を踏み入れた俺は床で倒れているラウを見付けた。

意識はあるようだが、苦しそうに胸を押さえてもがいている。




「ラウ!」

「・・・くっ、は、くすっ・・・り、をっ」




何かを言おうとしているが、呻き声でよく分からない。

駆け寄った俺の腕を痛いほどの力で握って何かを訴えている。

何だ、何て言っている?!




「あ、・・・こに、っはぁ・・・く、す、ぅっり・・・がぁ」

「薬かッ!」




弱々しく指差したのはポケット。

俺はラウの胸ポケットを漁ったがどこにも薬はなく、代わりに鍵が出てきた。

困惑する俺を余所にラウは苦しそうに机を指差した。

ハッとした俺はすぐに机にあった鍵穴にそれを突っ込んで回した。

ガチャリと音がして荒く引き出しを開けると、そこに青と白のカプセルが入ったケースと共に仮面の予備があった。

こんな所にあったのか・・・。

俺は予備と薬を掴んでラウの元へ向かった。




「ラウ、こんな時に悪いが、その仮面貰っていく」

「な、っにを・・・!」




身動きが取れないラウの横で俺はパチンと奴の仮面を外した。

そしてすぐに薬を出してラウの口に放り込んだ。

最初こそ息が荒く苦しそうだったが、すぐに落ち着いてきたようだ。




「・・・見苦しい所を見せたな」

「いや」

「説明して欲しいか?」

「いや」




乱れた髪を掻き上げたラウに俺は持っていた予備を手渡しながら首を振った。

気にならないかと聞かれれば気になるが、ラウは何かの病気で発作を抑える薬を飲んでいるのだろう。

コイツが詳しい話を俺に聞いてもらいたいと思っているとは思えない。

だから俺は首を振った。

するとラウは小さく笑って、手渡した仮面を着けた。




「君が私の素顔に興味を持っていたとは思えない。となると、例の探し物がその仮面だったということか」

「正解」

「・・・ふっ、どんな探し物だね、それは」




くくっと咽喉を鳴らして笑ったラウは立ち上がってソファに身体を預けた。

すると何かね、君は出会ってからずっと私の仮面を狙っていたのか、

そう呟いたラウは聞いたこともないほど大きな声を出して身体を捩って大笑いしだした。

え、ついに本格的におかしくなったんじゃ・・・。

ソファの背もたれに肘を付いたラウは笑いながら言う。




「久々にこんなに笑ったよ、。私はね、生まれつきテロメアが短く、長生きが出来ないと定められている」




こんな時、どんな反応を返せばいいのだろう。

心配するのも違う気がするし、悲しむのも違う気がする。

しいていうなら俺はその時すごく動揺していたのだが、ラウは何も言わない俺を見て小さく笑った。




「この顔は世に二つとあってはならん顔だし、短命のため老化が早い。その仮面はそれらを隠すためにあるのだよ」




あっちゃダメな顔ってどういう意味だ?

てか、あの仮面、ただの趣味じゃなかったの?!

まさか好きで付けてるとも?と聞きたいのか胡乱気に俺を見るラウに思わず口元が引き攣る。

俺はラウの向かい側に座り、ボロボロ鞄の中に仮面をしまうと足を組んだ。




「・・・ラウ、何でそれを俺に話した?」

「・・・・・・なぜ、だろうな」




何か黄昏てるラウに俺は溜め息を吐くと、鞄の膨らみが凹んでることに気付いた。

そうか、もう転送されたか。

残り時間が余りないことを感じた俺は遠慮なく口を開いた。




「人は必ず死ぬぞ。尚更こんな仕事をしていれば、空気穴一つ開くだけで簡単に死ねる」

「そんなことは分かっているつもりだが?」

「分かってない。お前が腹の中に何か暗い物を抱えてるのは俺でも分かってたさ。

 ここからは俺の主観で言うが、・・・・・・・・・ラウ、お前もっと必死に生きろよ」




黙って俺を見つめるラウに小さく息を吐く。

お前、一体何を思ってんの?

俺にはお前が面白がってわざと周囲に悪意を振りまいてるように見えたよ。




「人が憎いか?それとも自分か?世間か?運命か?神か?・・・救いの神などいない。あるのは不公平と理不尽だけだ」




俺はそれを身を以て知っている。

あんな変な奴ら神とか言ってたけど、どう考えても疫病神だ。

実感を込めて言うと、いつの間にかラウがジッと俺を見ていた。




「それでも人は生きられる。なぜなら人には心がある。お前が何とも思っていなくても、お前の名を呼び、

 慕う人間が必ずいるだろう?お前がこの世界を壊したいほど憎んでいても、少しは周囲を見てやれ」




ラウにも誰か思い至ったのだろう。

白い指がピクリと動いたのを見て、俺は一安心した。

が、次の瞬間、ラウの言動に肩を落とした。




「・・・そうだな。少しは気に留めておこう」




軽・・・・っ!!

何それ、全然そんなこと思ってないだろ、お前!

俺は深々と溜め息を吐いた。

どうやらコイツの胸の内は相当病んでるようだ。




「ま、お前の人生だ。好きにしろ。ただ、人様に迷惑を掛けるのは程ほどにしろよ」

「善処しよう」

「嘘吐け」

「ふっ」




コイツ、ついに否定もしなくなったぞ。

全く、周囲の人間が可哀相になってくるよ。

俺は額を押さえた手が透けてるのに気が付いた。

あぁ、ついにカウントダウンが始まったか。

同じく気が付いたラウが顔を上げた。




「・・・、君は本当に別世界から来たのだな」

「俺はお前と違って嘘吐きじゃないんだよ」

「ククッ。違いない」




一頻り笑ったラウに俺は立ち上がった。

こんな捻くれ者だから心配は心配だが、周囲が何とかしてくれるだろう。

・・・多分。きっと。おそらく。そのはず。

ジッとこちらを見てくるラウに小さく笑って、俺は言った。




「じゃあな」

「あぁ」




戦艦を後にする間際、ラウが小さく呟いた気がした。

後処理は任せろ。は死んだことにしておく、と。

ちょっと待て!テメェ、何でそんなk・・・・!!


* ひとやすみ *
・兄様ご帰還。最後は面倒をほんの少し見てくれたラウの心配をしてます。
 原作を見てると業が深すぎて彼はきっと誰の言葉も聞き入れないのだろうな、と。
 それでも、兄様の言葉がほんの少し届いてるといい。きっと兄様もそう祈ってるはず。
 こうして兄様は謎の仮面を手に入れた!笑                (14/01/19)