ドリーム小説

一日もいたら無重力には慣れた。

少しこの浮遊感を楽しむ余裕も出てきたが、慣れないのはこの白い軍服だ。

前に面白がって執事に軍服を着せられたが、やはり本物となると重みが違う。

なんちゃってヘタレ偽軍人が簡単に着て良い物ではないが、着る物がないので仕方ない。

俺は襟を止めると軍服の裾を直して自室を出た。

食事は部屋に運ぶと言われたが、ミゲル達は食堂らしいので、郷に入っては郷に従え。

朝早いからか食堂に着くと人は疎らで俺は空いてる席を陣取った。

淹れてもらった美味いコーヒーを呑みながら今後のことを思う。

どうやってあの仮面剥がすよ?

普通に考えて無理じゃね?

だって一日見てたけど外すとこ見たことねぇぞ。

もうあれはさ、ラウの眼鏡的な身体の一部じゃん。

うわー、もう、不可能犯罪に近いよ・・・。

って!犯罪じゃないって!もらえばいいだけだろ?!

・・・・・・くれるわけねぇよなー。

コーヒーをプレートに戻して深く溜め息を吐くと、向かいの席に手が二つ掛けられた。




「あの、同席よろしいでしょうか」

「お前らは・・・」

「申し遅れました!クルーゼ隊所属アスラン・ザラであります!」

「お、同じく、二コル・アマルフィですっ」




やたらとカチカチな少年が二人、プレート片手に敬礼している。

その様子があまりにおかしくて俺は小さく笑って、どうぞと席を勧めた。

何だかポカンとしていた二人は慌てて座った。

確か今年の赤はボンボンの集まりだが、実力は折り紙付きだとか。

情報収集は戦闘で生き残るために不可欠なものであるため、昨日は耳をダンボにして話をかき集めたのだ。

さて、そんな優秀な少年達は俺の何を探りに来たのか・・・と思ったが、どうやら純粋に話がしたかっただけのようだ。

目を輝かせちゃってまぁ、何か昔のディーノを見てる気分だよ。




「あのっさんは素晴らしい功績を残して来られたそうですが、ご自分の機体を持ち込まれなかったんですか?」

「あぁ。モビルスーツは苦手なんだ」

「ではやはり白兵戦が得意なので?私もナイフと銃撃戦の訓練は散々しましたが、実戦は・・・」




あーあーあーあー、何か猛烈に話し出したよ、この二人。

俺もね、それなりにしょぼーい戦場は駆け抜けてきたけどさ、ひよっことはいえ軍人には敵わんよ。

大体さ、モビルスーツってかガンダムとか操縦できるわけないでしょうに、苦手とか何言っちゃってんだろうね、俺。


楽しげに語り合う二人を見ながら俺はフォークを進める。

こっちのフワフワ緑髪の子が二コルで、こっちの藍色の髪を顔のラインで跳ねさせてる子がアスラン。

二人とも評議会所属の親を持つ赤軍服のエリートだが、まだ十代半ばというとんでもない話である。

俺らが乗ってるこのヴェサリウスは通称ザフトと呼ばれる軍に所属しているが、

何と敵が地球軍という超ビックリな事態である。

地球人と戦うとか、お前ら何なの宇宙人か?と思いきや、何と遺伝子操作されて生まれた有能な人間で、

コーディネーターと呼ばれているらしい。


元は地球人から生まれたというのに、忌み嫌われて地球に居れなくなって宇宙にコロニープラントを造って住み出した。

それだけならよかったが、生命の操作が宗教的倫理に引っ掛かって地球側と大戦争。

まぁ紆余曲折あって、最悪にも地球からの核攻撃を受けてプラント約二十四万五千人の命が一瞬で宇宙の藻屑と消えた。

それにコーディネーターが怒らないはずがなく、超緊張状態の現状に至る。

どれくらいぼんやりとしていたのか、二人の背後から来た別の人物に声を掛けられてハッとした。




「そんなに気になるなら、にも午後の戦闘訓練に参加してもらえばいいではないか」

「隊長っ!」

「せっかくの食事を邪魔して悪いな」

「いえっ」




突如現れたラウにアスランと二コルは飛び上がって立った。

俺はというと何だか嫌な予感がしたので、視線を逸らしてそのまま食べ続けた。

今、訓練とか不吉な言葉を発してなかったか?

ていうか、悪いと思うなら来るなよ、ここに!

俺の思いを余所にラウは何だか優しげに二人に声を掛けているが、言ってることは最悪だ。

お前、俺が一般人だって知ってるくせに、何で軍人の戦闘訓練に参加させようとしてんだよ、この野郎!

二人の好奇心を持ち前の話術で高めた仮面は、口調だけ俺の下手に出て問いかけた。




「どうだろう、。二人もそう言ってることだし、午後の模擬戦にひよっ子達の手本として出てくれないだろうか?」




・・・・・・こっんの腹黒仮面野郎めっ!!

俺が困る姿が見たくてわざとそういう方向に話を持って行きやがったな!!

というか、ザフトレッドの少年二人が目を輝かせて俺を見ている・・・!

期待がデカすぎて、こ、断れねぇ・・・・・。

しばらく目を泳がせた俺は苦し紛れに声を絞り出した。




「・・・少しだけなら」




歓声を上げる二人に優しげに微笑む仮面が憎い・・・!

軍人相手にとか俺、死んじゃうよ!大丈夫じゃないよ!

もう俺のバカァーーーー!!!











***











ついに俺の命のカウントダウンが始まった。

あっという間に時間は過ぎ、ラウの言う通り模擬戦をするためにトレーニングルームに向かったのだが、

何だよこのギャラリーの多さ。

部屋の真ん中をぐるりと取り囲むように人が集まっていて俺は冷や汗を掻いた。

皆で俺が無様に負ける所を見たいのか?!

シクシク痛む胸を抱えながら俺はヒラヒラの軍服を脱いで、ピッチピチの袖なしアンダー一枚になると肩を回した。


トレーニングルームはどうやら地球と同じ重力が掛けられているようで、

ようやくいつもと同じ感覚に戻って少しホッとした。

だけど、どうも身体の調子が変だ。

んー、悪いわけではないが、体内バランスが少しおかしいような、何とも言い難い違和感がある。


身体を確かめるように動かしていると、空気が張り詰めたので視線を向けるとラウが居た。

あーあー、ついに始まっちゃうのか・・・。

自信なんて微塵もないが、出来るだけのことはしてみよう。




、早いな。今回の模擬戦はナイフ戦ということだが、相手はアカデミーでも好成績を残したアスランに・・・」

「隊長ッ!どうか私に相手をさせて下さい!!」

「イザークか。ふむ・・・、まぁいいだろう」




ラウはあっさりと許可を出したが、俺は断固として反対したい・・・!!

成績はアスランの方が上だったようだが、絶対アスランの方がよかった!!

だって、アスランは手加減出来そうだけど、コイツは絶対俺を殺そうとしている!!

何だよその殺気染みた怖い眼は?!

すると少々残念そうにしているアスランと目が合った。




「アスランが良かったが仕方ない・・・」

「・・・それは、俺では相手にならんということ、ですかッ」

「いや、別に・・・」




落ち込むアスランについ声を掛けてしまっただけなのだが、まさかこんな近くにイザークがいるとは思わず驚いた。

肩を震わせて怒りを抑えている銀髪オカッパの少年に慌てて弁解しようとしたが、足音荒く立ち去ってしまった。

も、物凄い背中が怒ってるんですけど・・・!!

誰か助けてと視線を周囲に向けると、皆がいかにも呆れたように溜め息を吐いていた。

え?え?




「・・・まぁ、よくあることだ。気にするな」




えぇ?!いつものことなのコレ?!

てか、気にするよ!!

だって向き合うイザークの顔にデカデカと書いてあるんだもん。

抹 殺 っ て ! !

恐怖に慄く俺を無視して、戦いのゴングが打ち鳴らされようとしていた。


* ひとやすみ *
・クルーゼ隊可愛いよ。何であんな面白いくらい皆キャラ濃いのかね?笑
 元ネタ知らずに読んでる人も万一いたらと思って簡易説明。あーそうだったなーくらいで
 読み流しちゃって下さい。ちなみに兄様も知らない話ですので、所々間違ってたりします。
 あと、体の違和感は身体が異世界に適応するため若干変化してるから少し強くなってるんです。笑
 イザークキレ過ぎて「きしゃま」とか言って欲しかったけど、そうするとかなり読み辛くて止めた!
 基本兄様は年下の男の子が好きです。(語弊有り 笑               (14/01/19)