最弱ヒーロー×少年陰陽師

09.異常事態発生！

その夜も俺の探し物に昌浩達が付き合ってくれることになり、闇夜の都を俺達は走り回っていた。

敏次の情報を頼りに戌亥の方角を中心に探しているのだが、さっきから足元の騰蛇がブツブツ煩い。




「もー！もっくん、しつこいよ」

「なーんで俺達がアイツの指示で動かなきゃならないんだよ！これならまだ昌浩のへなちょこ占術の方がマシだ！」

「それ全然褒めてないよね？！」




何でか騰蛇は敏次が嫌いらしい。

昌浩はそんなことないのにおかしな関係だな。

というか、深夜に煩いよ、このちみっ子達。




「ん？」




今なんか誰かに見られていたような・・・。

不思議な気配を感じた気がしたが、まあいいかと意識を払い、そんなことよりと目の前の現実に立ち戻る。

小路という小路を片っ端から探してはいるものの、人はおろか妖一つ姿がない。

騰蛇曰く、お前みたいな奴がいれば、どんな妖でもすっ飛んで逃げるだろうよ、ということらしい。

それってつまり、素人すぎて足手まといってことじゃ・・・。

ズドーンと落ち込んだ俺に昌浩が慌てて、気配を何とかすれば大丈夫だと思うってフォローしてくれた。

・・・お前、優しいなぁ。

そんなわけで俺は今、透明人間、秘技いないフリ！

俺は空気、俺は空気・・・。

その効果は出ている気がする。

雑鬼達が逃げなくなったし、何より本当に昌浩と騰蛇が俺の存在を忘れているようなのだが・・・。




「うーん。やっぱりそれらしい物はないなぁ」

「ほんとーにっ！仕方なく、それらしい妖も探してみたがそんな気配もないな」

「何だもっくん、敏次殿のことちゃんと認めてるじゃないか」

「一万歩譲って仕方なくだって言ってんだろ！」

「ははっ！誤魔化さなくてもいいよ」

「うるさいっ」

「・・・悪いな、二人とも」

「「　ッ！！　」」




手間を掛けさせてるのが申し訳なくて、二人に声を掛けたら物凄い顔で見られた。

何だその俺の存在忘れてたの丸出しの顔は！！

お兄ちゃん、ホントに泣くぞ！泣いちゃうぞ！！

別に二人が楽しそうで羨ましかったとかじゃないんだからね！

ぐすんと鼻を啜った所で、項に酷い寒気が走った。

何だこの感じ・・・！

思いっきり振り返るもその小路の先は真っ暗。

だけど、何かいる。

背後に目を凝らす俺に僅かに遅れて、騰蛇が昌浩に注意を促す。




「昌浩！何か来るぞ！」




臨戦態勢の俺達の目に映ったのは、禍々しい気配の巨鳥。

闇に溶け込むような色相の翼を広げて頭上を滑空してくる。

耳障りな鳴き声を上げて突っ込んできたので思わず、を抜いたが次の瞬間、思わぬ事態が起きた。

その巨鳥は俺達には目もくれず、頭上を通りすぎて行ったのだ。

昌浩も俺もその手に札と銃を構えたまま、呆然とそれを見送り、立ち尽くしていた。

え、何それ、普通、そこは戦っていかない？！

何とも言えない思いを抱えていた俺達の耳に騰蛇の硬い声がして我に返る。




「あれほどの妖異がお前らみたいな極上の餌を無視するなんておかしい」




そっか、俺ら餌なんだー・・・。

少し物悲しい気持ちになりながらも、騰蛇の言いたいことも分かった。

確かに何か嫌な予感がヒシヒシしてるもんな。

こういう時、本当に碌なことが起きない。

俺が暢気に黄昏ていると、その直後にすぐ近くの大路で眩しい稲光が落ちた。

今のはどう考えてもさっきの巨鳥の力だ。




「行こうっ！」




真っ先に昌浩が駆け出し、俺と騰蛇がそれに追従する。

悍ましい巨鳥の鳴き声が暗闇に響き、何かと交戦している様を伝えてくる。

小路の角を曲がり、大路に辿り着いた瞬間、俺は息を呑んだ。




「・・・嘘だろ」




緊張感とやる気を削がれた俺はガクリと肩を落として、片手で顔を覆った。

俺の様子を見ていた騰蛇が警戒したまま、何があったと問うてきた。

何ってこれをどう説明してよいやら・・・。

どうやらこれ俺にしか見えていないようだが、この雰囲気クラッシャーな事実を呪いたい。




「・・・見付けたぞ、探し物」

「「　え？！　」」

「あの巨鳥が対峙している先にある」




二人が視線を向けた先には暗闇しかないが、俺には見えている。

何てったって、そこには赤い大きな矢印が『コレ！』と指して浮かんでいたのだから。

おい、神よ！もっとやりようあっただろ？！

雑いにもほどがあるだろうが！

矢印が指す物は暗くてよく見えないが、どうも気配が薄い。

生き物なのか、ただの物なのかもよく分からんが、とりあえずこの巨鳥を何とかしない限り、手に入りそうにない。

どうしたものかと頭を悩ませていると、急激な力の収縮に俺は慌てて昌浩と騰蛇の首根っこを掴んで飛び退った。




「うわっ」




昌浩の驚いた声と共に耳元を劫火が唸り、逃げ遅れた巨鳥の翼が燃えて悲鳴が上がる。

おいおいおいおい！俺の探し物って火を噴くのかよ？！

心底物騒な探し物に俺は泣きたくなった。

まさかお前、ザンザスじゃないだろうな？！