ドリーム小説

翼を奪われ怒りに燃える巨鳥を尻目に、俺達は冷や汗を掻いていた。

おいおい、俺の探し物ってそんなに物騒な物なのか?!

何とも言えない昌浩からの視線を無視して、どうしようかと未だ闇に隠れる探し物に焦る。

この巨鳥をここまで追い詰めるんだから、多分相当強い奴がこの先にいる。

だけど、何だこの変な感じ・・・。

巨鳥ですら禍々しいが大きな気配があるというのに、矢印の先には気配がほぼないのだ。

不気味な事態に俺も昌浩も様子を窺うことしか出来なかった。

すると、小さいがタタタタッと砂を蹴る音が聞こえた。

来る・・・ッ!!

身構えた俺達が見たものは意外なものだった。

小さな茶色の体躯に丸い耳、ふわふわの尻尾に愛嬌のあるその顔は・・・。




「たぬきぃ?!」




や、やっぱあれ、どう見ても狸だよな?!

昌浩の素っ頓狂な声に俺も声を失う。

いや、だってあれどう見ても普通の狸だし。

挙動不審な態度は全くの強者に見えず、狸の方も混乱しているのか、巨鳥に怯えている。

でも、確かに矢印は狸の頭上に出ており、俺の探し物は狸で間違いない。

え、それってつまり、生け捕りにしろってこと?!




「・・・おい、。お前、狸なんかを探していたのか?」

「・・・そのようだ」




やーめーてー!!そんな目で見ないで!

分かってる!分かってるから!!

何とも言えない生温い視線を無視して、巨鳥の嘴から逃げ惑う狸を見ていると次の瞬間、狸が火を噴いた。

あの小さい口からどんな火力よと言いたいくらいの劫火である。




「・・・都の狸は火を噴くのか」

「そんなワケあるか!!」

「ちょっと、二人ともふざけてないで!狸が逃げる!」




あのプルプル震えていた狸はたった二回の劫火で巨鳥を丸焼きにし、敵がいなくなったとばかりに逃走を図った。

思わず呟いた俺に騰蛇が突っ込んでいる間に、賢い昌浩は狸を見逃さなかった。

素早く刀印を組んで真言を唱える。




「その行く先は我知らず、足を留めよ、アビラウンケン!!」




昌浩の術のおかげで足を止めた狸に、すかさず騰蛇が走り迫るが、狸は身の危険を察知し、再び劫火を放った。

足を止めて炎と対峙するため騰蛇は顕現し、神力で炎に抵抗する。

紅蓮と叫んだ昌浩と共に俺も眉を顰めた。

闘将騰蛇が圧されている。

本人も驚いたのか、ギリギリと声を漏らして炎を押さえている。




「おい・・・っ!この狸、何で神力を扱えるっ?!」




あー・・・、やっぱ神様関連だから強いのか。

何と説明したらよいものかと頬を掻く俺を余所に、昌浩は次の祝詞を紡いでいた。

さすがだ。騰蛇の言葉にすぐさま神に抵抗できるような力へと切り替えたようだ。




「謹請し奉る・・・」




うーん。生け捕りって難しいなぁ。

ぶっ放せないし、この場合、無手で行くしかないか。

相棒を懐にしまって昌浩の祝詞で身動きが取れなくなっている狸に向かって俺は走り出した。

ギョッと跳び上がった狸は俺に慌てて炎を吐いてきた。

その威力はデカいが噴射する口は小さい為、射線上から反れればそう怖くない。

綱吉やザンザスのホーミング系炎からすればこんなの屁の河童だ。

炎を躱して回り込んだ俺は一気に狸の首元に手刀を叩き込んで首根っこを掴んだ。




「捕まえた」




手間掛けさせやがってと溜め息を吐くと、きょとんとした昌浩と憮然とした騰蛇に見られていた。

え、何?

気絶した狸をブラブラさせながら困惑していると、昌浩がキラキラした目を向けてきた。




「すごいね、さん!あんな動きができるなんて!」

「ふんっ。俺だって頑張ればあれくらいできる・・・」




えーと、何だこれ?

騰蛇にブチブチ言われながら、昌浩に賞賛の声を貰う。

何だかよく分からないが、とりあえず一件落着ということか。

術者だからかそれほど身体能力の高くない昌浩から羨望の目で見られるのはくすぐったいものがある。

大興奮の昌浩の頭を思わず撫でると、自分が舞い上がっていたことに気付いたのか真っ赤になった。

それに小さく笑うと、俺は手にある狸をどうにかしようと、例のボロボロ鞄を取り出した。

狸を鞄に突っ込もうとした瞬間、ピンポンと脳内で警告音がなり、目の前にゲームのように文字が躍った。




『ここに生き物を入れることはできません』




呆然とした俺は鞄の口に何か透明な蓋でもあるかのように、狸が押し返される感覚があることに気付く。

え、俺達の苦労は何だったの?!

だって、狸に矢印出てるじゃん、ほら?!

何でーーーーーーー?!

固まる俺を繁々と眺めていた昌浩が声を上げた。




「あ。さん、この狸、何か付いてますよ?」

「ん?」




狸の身体を指差す昌浩から視線を移せば、毛に埋もれて赤く光る何かがある。

毛を掻き分けてみると狸の背中に相応しくない派手な赤い宝石が突き刺さっていた。

つまみ上げれば驚くほど簡単に取れたそれは、どう見てもピアスだった。

その途端、狸はシュルシュルと身体が縮んで、小狸になってしまった。




「どうやらそれのせいで狸が炎を吐いていたようだな」




いつの間にやら物の怪姿になっていた騰蛇が俺の手元のピアスを見て言う。

うーん、しかもこれ自動装着機能があるらしい。

小狸が興味本位に近付いたら、くっ付いて取れなくなったということか。

何それ、怖いな神様装備・・・!

矢印は今は狸の頭上にはなく、赤いピアスを指していた。

俺は大きく溜め息を吐いて、今度こそピアスを鞄に放り込んだ。




「昌浩、騰蛇、世話になった。おそらくこれで俺の仕事は終わりだろう」

「見付かってよかったですね、さん」

「あぁ。晴明にも礼を言っておいてくれ。じゃあな」




俺は小狸を片手に二人に礼を言った。

何だか面白い二人組だった。

きっとこいつらは大物になるに違いない。

だってあの晴明の孫だもんな。

俺は見送る二人を背に、氷見の屋敷へと戻った。

多分まだそれくらいの時間はある。




真っ暗闇の屋敷に戻った俺は真っ先に鈴生[すずなり]の部屋へ向かった。

こんな時間だから寝ているのは分かっていたが、世話になった氷見家に礼も言わずに行くのは嫌だった。




「帰るよ、鈴生」




感謝を込めてそう呟いた俺は短い間、弟であった熊のような鈴生を見つめて立ち上がった。

すると身じろぎした鈴生がぼんやりと眼を開いてこっちを見た。




兄上・・・?」

「こいつは連れて行くぞ。元気でな」




寝惚け眼の鈴生に抱えていた小狸を見せて俺は部屋を出た。

そのまま塀を越えて屋敷を去った俺は消えかけた指先に気付いてタイムリミットを覚る。

近くにずっと感じていた気配に後は任せようと、俺は小狸を木の上に放り投げた。




「こいつを頼んだぞ」




返事が返って来るより先に、俺はこの摩訶不思議な京の都から姿を消した。

舞い上がった風は小言を孕みながら、小狸を包んで山へと運んで行ったのだった。



* ひとやすみ *
・これにて陰陽師編終了です。お付き合い感謝です!!
 我が家に来ていたお嬢様と盛り上がって出来たこのシリーズでしたが、
 設定盛り込み過ぎて長くなりました!楽しかったので反省はしてませんが!笑
 狩衣兄様、妖兄様、敏次とかいろいろ書けて楽しかったです!笑
 またどこかの世界でお会いできることを願いまして。ありがとうございました!        (15/02/28)