ドリーム小説

朝起きると、家では何か妙な騒ぎが起きていた。

家人がバタバタ動き回ってるのを横目に渡殿を歩いていると、物悲しげな龍笛の音がした。

これは鈴生[すずなり]だな。

コイツの才能は曲に感情を乗せると、聞き手にまで影響を与えることである。

覗きに行けば案の定、鈴生が龍笛を吹き鳴らしていた。




「・・・何があった」

兄上・・・、乾漆緋色蒔絵鼓がぁ・・・、革が破れてしまいましたぁ!」




シクシクと強面を歪ませて泣き出した鈴生に何とも言えない気持ちになる。

何だそんなことかと呟いたら最後、背後から間違いなく撲殺される。

しかし、楽器の保管には使いすぎなくらい気を遣っているのに、鼓の革が破れるとは。

思わずそう呟けば、たすき掛けをした弓秋が足音荒く刀を手に鉢巻を靡かせて現れギョッとした。




「違いますよ、様!狸です!あの憎き獣が蒔絵鼓を破壊して行ったのです!私の琵琶にも足跡がくっきりと!」




許すまじと怒りを露わにする氷見家一同、朝から急きょ大捕物が始まった。

何だこれぇー・・・。

その後、狸の痕跡は見当らず、屋敷中の怒りだけが積もりに積もり、

狸汁にしてやると殺気立っていた家人を横目に俺は大内裏へお使いに出掛けた。







昌浩との探し物はまず初めの段階から躓いた。

どこにあるやら、何を探すのやら、いろいろ占じてくれたものの、結果はいつもよく分からない。

どうしたものかと頭を悩ませていると、最近見慣れた肩に白い生き物を乗せて歩く人物を発見。




「昌浩」

「あ、殿!大内裏にいるなんて何かあったのですか?」

「家の使いっ走りでちょっとな。騰蛇も元気そうだな」

「・・・おう」




目が合った途端、すすすと昌浩の影に隠れるように下がった騰蛇に悲しくなった。

何でかこいつ俺が話掛けると借りてきた猫のように大人しくなる。

どうしたんだよもっくんー情けないなぁと呟く昌浩に、騰蛇はいろいろあるんだと吼えていた。

混ぜてもらえない寂しさにシンミリしていたら、思い出したように昌浩が顔を上げた。




「あの後、何度か占じてみたんですけど、あの・・・」

「どうした?」

「昌浩はまだ半人前だからいつも場所は違うし、内容は要領を得ないんだよ」




せめて探す物くらい分かればと思ったんですけどと、しゅんと項垂れる昌浩に俺は慌てる。

こっちこそよく分からんが何か探せとか無茶苦茶なことを言ってる自覚はある。

全部あの神のせいだと分かってはいるが、申し訳なさばかり募る。

小さくなってしまった昌浩の肩をぽんぽんと叩くと、目を瞬いて顔を上げた。

お前のせいじゃないよーと微笑めば、昌浩はなぜか固まり、騰蛇は深い溜め息を吐いた。

え、どうしたの・・・?




「昌浩殿と、・・・殿?」




すると後ろから声を掛けられて振り返ると、何冊か書を抱えた敏次がいた。

昌浩も気付いたのか深々と挨拶をしている。

というか、騰蛇は敏次に何をそんなに怒ってるんだ?

あぁ、そういえば敏次は昌浩にとって同じ陰陽寮の先輩に当たるのか。

敏次とは藤原一門に縁ある邸での宴に呼ばれた際そこで出会った。

あの日は演舞までしたから目立ってたらしく、フラフラ〜とやって来た敏次と仲良くなったのだ。

ここに居る理由を昌浩と同じように説明すると、今度は昌浩とどういう関係なのだと怪訝そうに聞かれた。




「昌浩の祖父に会った時にちょっとな」

「・・・そう、ですか」




あれ?

どこか陰りを見せた敏次の表情に首を傾げたが、次の瞬間にはいつもの表情に戻っていた。

うーん、またどうでもいいことで落ち込んでるんだろうな、これは。




「そうだ。前に言ってた失せ物について私も占術を行ってみたのですが」

「おい、。お前、こんな奴にまで頼ったのか?!」

「・・・あぁ」

「どうやら場所が動いているようで特定は出来なかったのですが、戌亥の方角を示すことが多かったです」




敏次は見鬼の才がないため騰蛇が見えないし声も聞こえていないが、騰蛇うるさい!

何でもないような顔で淡々と報告してるけど敏次すげぇ!

同じことを思ったのか昌浩も目を輝かせて敏次を見ている。

占いってそんなはっきり出るのかよ!

昌浩が毎回違う場所が出ると言ってたのも、案外ハズレではなかったのだろう。

つーか、動いてるって何?!

難しい顔をした敏次は俺をすぐに心配そうに見上げて言った。




殿!晴明様に頼ったことといい、今回の結果といい、何の妖を探しているのですか?!」




うえええええええええええ?!

俺の探し物、妖なのーーーー?!

吃驚しすぎて声も出ない俺と昌浩を見て、何を勘違いしたのか言えないことなのですねと一人納得している。

それから何かよく分からんが、札やら数珠やらを押し付けられて気を付けて下さいと心配された。




「いつでも声を掛けて下さいね。殿の力になりますから。まぁ、私如きでは力不足でしょうが・・・」




また憂い顔を見せた敏次に俺はすぐさま首を振った。

何だか自分の才能の無さをコンプレックスに思ってるようだが、真っ直ぐなコイツが俺には微笑ましい。

騰蛇はともかく、昌浩も敏次の努力を尊敬しているようだしな。




「頼りにしてるよ、敏次」




小さく笑ってそう言えば、敏次は満面の笑みで頭を下げた。

うーん、やっぱいい奴だな、コイツ!


* ひとやすみ *
・好きな敏次を無理やり出したらこうなった。長くなってるのでいろいろカット。笑
 もっくんは兄様がちょっと怖い。けど太陰はもっくんが怖い。何だこの図は?笑
 先日、美術館に行ってきたのでそれっぽい物もぶち込んでますが、架空の物です。
 でも蒔絵ってキレイよね。柄によっては悪趣味にも成り得るあの曖昧なバランスが好き。                   (14/08/31)