ドリーム小説

「氷見か・・・」

「晴明!本当に昌浩にやらせるつもりか?どう考えても手に負える輩ではないだろう!」




日が暮れて薄暗くなった室内で朱雀は主である晴明に突っ掛っていた。

それはもちろん日中に訪れたのことである。

物凄い力を秘めた人物で、何度対面してもその力に圧倒され会う者を委縮させる。

・・・だが、昌浩ならきっと大丈夫じゃろう。

何度もそう神将達にそう言ったが、特にに何度か会っている朱雀は聞く耳を持たなかった。

何せ、大丈夫の根拠が晴明の勘だからである。

小さく笑った晴明は、数日前のことを思い出した。










その日の夜はじっとりと暑く、夜中急に降り出した雨は屋敷を激しく叩き、晴明は薄らと目を開けた。

急激な天候の変化に何かを感じた晴明は床から身体を起すと、すぐさま顕現した十二神将天一がその肩に袿を掛ける。

十二神将とは安倍晴明がその昔下した式神であり、その名の通り神の末席に属する神族である。

占術で使う六壬式盤に記された十二の神が晴明の配下として存在している。

この金色の長い髪を高く結い上げた儚げな少女である天一や、その恋人である火将朱雀、木将青龍などもその一人である。

晴明がぼんやりとしていると、凄まじい光と音を放った雷鳴が都中に轟いた。

その方角を確かめた晴明はすぐさま立ち上がり、外へ出ようとしたが、新たに顕現した鳶色の長い髪の男が止めた。




「晴明、俺が見に行ってくる。お前はここにいろ」

「六合か」




渋る晴明を納得させるよう、次いで青龍と朱雀が顕現し、青龍が主を睨んだ。




「貴船には俺も行く。お前はここで占術でもしておけ」




そう言い捨てて六合と青龍は姿を消し、晴明を守るように天一と朱雀が部屋に残った。

優しいのか何なのか、分かり難い奴じゃの・・・。

頬を掻いた晴明は天一に式盤を用意して欲しいと頼んだ。




「・・・遥か異邦の地より巨星来たる。分水嶺は星に委ねられたり、か」




どうやら貴船に何か降り立ったようだ。

酷い胸騒ぎがするが、一体何が現れたのだろうか。

すると六合と青龍が難しい顔をして部屋に戻ってきた。

どうやら貴船の神域にある結界に阻まれて中に入ることは叶わなかったようだ。

しかし二人は表情硬く、中に凄烈な力を持つ何かが居たと言う。

晴明はふむと唸って、豪雨の空を見上げた。







***







どうやらその異邦の者は今、鞍馬山にいるらしい。

占術と雑鬼達の話からそのような結論に至り、晴明は離魂の術を使って鞍馬山へ登っていた。

ぶつくさと文句を言いながら付いてくる青龍と朱雀。

確かに離魂の術は身体から魂だけを抜けさせて飛ばす術なので、多大な霊力と精神力を使い、時に命を削る。

全盛期の姿を取るため青年時の姿だが、文句を言うくらいなら付いて来なくていいのにと思う。

だが、それを口にすればまた憤慨されるのは分かっているため晴明は口を噤む。

しかし、この強烈な気配は恐ろしいものがある。

鞍馬山には甚大な力を誇る主がいる。

だが、この気配は主である鞍馬天狗ではない。

確かに天狗の気配もあるのだが、それからは少し離れた所にあり、山の中は酷く静かで脆弱な妖すらいない。




「これだけ苛烈であれば、百鬼連なって街へ逃げるのも通りというものか」




ぽつりと呟いたと同時に、開けた視界の先にいた不思議な形をした青年に神将二人が身構えた。

姿形は人に見えるが、その気配は完全に徒人から逸脱しており、痛いほどの力を肌で感じた。

これは心せねば食われるやもしれんな・・・。




「高龗神に止められてはいたが、まさかここまでとは。さぞ名のある異邦の方とお見受けします」




後日、貴船に窺えば、あの神に詮索無用と釘を刺されたのだ。

あれに手を出せばお前でも手を焼くぞと言われたが、これは無理もない。

これほどまでに高い霊力を持つ妖には出会ったことがない。

もはやここまで強い力を持つのなら神と言っても過言ではないやもしれん。




「陰陽師が俺に何の用だ?」

「鞍馬山の様子がおかしいと見に来たのですが、まさかこんなことになっているとは」




このように力の強い妖なれば、この鞍馬山が静まり返るのも致し方なかろう。

銀に瞬く髪と金色に光る瞳は明らかにこの国の物ではなく、その纏う衣も身体に沿った物だが不思議と似合っていた。

その鋭い眼光でわしを見た男は淡々と言う。




「・・・お前に何とか出来るのか、陰陽師?」

「この老骨には荷が重い。遠慮しておきます」

「・・・そうか」




試されたのだろう。

己を何とか出来るほどの力がお前にあるのかと、その目は挑発していた。

挑んだところで勝てる見込みはほぼないだろうな。

あっさりと断れば、見るからにガッカリとした様子で、バカにされたと思った神将二人が激怒していた。

よくよく話を聞けば、失せ物探しをしておると言う。

見付かれば帰るという言を信じて、晴明はその場を去った。

うーん、いやに好戦的な妖だった。

下手に手出しせんでよかった。

晴明は冷や汗を掻きながら、邸へと戻った。






***






次に異邦の大妖であるの話を聞いたのは、意外にも孫の成親からの文であった。

何やらおかしなことに、彼は今、氷見と名乗り、氷見家で養われているらしい。

何でそんな面白いことになっているのかはさておき、

成親からは「何か凄い狐狸妖怪の類に会った。多分爺様の仲間。でもおそらく害はない」とのことである。

あれと一緒にされるとは恐れ多いと晴明は笑ったが、成親の勘は良く当たる。

近い内にやってくるだろうを思い、晴明は準備をせねばと意気込んだ。



後日、先触れを貰い、やって来たはおかしなことに彰子姫と一緒だった。

彰子姫に付けていた神将玄武が言うにはゴロツキから守ってもらったそうだが、

門前で彼に突っかかっていく昌浩には冷や汗を掻いた。

再び出会った彼は狩衣を纏っており、都に馴染んでいるようだが、やはりその類稀な容姿に思わず溜め息が漏れる。




「鞍馬の主に会われたのなら力を貸してくれたのでは?」

「・・・天馬のことか?あれは役に立たん」




間髪入れず不機嫌そうにそう返したに晴明は息を呑んだ。

あの絶大な力を誇る鞍馬の主の名を呼び捨てるばかりか、役に立たんと言い捨てる大妖の在り様に驚いたのだ。

神将達も一目置いている鞍馬天狗をそう邪険に扱える者はおらず、彼らも目を丸くしていた。

しかし、あの鞍馬の主ですらどうにも出来なんだのなら、おそらく占術などは役に立たん。

運に任せて足で探すより他ないか・・・。

運か。

チラリと盗み見した孫は殿の後ろでキョロキョロしてるものの、畏怖で固まる様子は微塵もない。




「ふむ。山の主でも無理なら私が役立つかどうか。・・・昌浩や。ちょっと殿と失せ物ぱぱっと見付けて来い」




そう言えば、いろんな奴が大声で反対してきたが、当の殿は面白そうにしながら顎に手を当てている。

ちらりとわしの方を見て、特に不満もないように口端を上げた。

・・・これは、何とも器の大きい人物のようだ。




「だそうだが、出来ないのか、お孫殿?やはり安倍晴明の孫と言えど難しいか?」




その美麗な表情から想像も出来ないほど、淡々とそう告げた殿にわしと紅蓮は目を丸くした。

確かに昌浩を焚き付けるのにそれ以上の言葉はないが・・・。

わざとらしく首を傾げて昌浩を見るに晴明は絶句したが、孫の叫び声にすぐ我に帰る。




「孫言うなーーー!!あぁ、どうせ俺は未熟半熟じゅくじゅくの半人前ですよ!

 でもいつかはじい様を越える大陰陽師に絶対なるんだから、失せ物くらいぱぱーっと見付けてみせますよ!」




これだけの凄烈な気配を出す相手に憤慨して叫び回る昌浩にその場に居た誰もが目を疑った。

本性は十二神将最強と謳われる騰蛇である物の怪姿の紅蓮すらも驚愕で言葉を失っている。

・・・確信はなかった。

だが、おそらく昌浩ならきっと解決できるだろう。




「なら、よろしく頼むぞ、昌浩」




どうやらこの方もいろいろ分かっているらしい。

口元を緩めて恐ろしく綺麗な顔で微笑む殿と目が合い、思わず晴明も笑った。

案じることは何もない。

殿なら悪いようにはせぬだろう。

その根拠を示せと怒る朱雀に晴明は笑って答えた。




「勘じゃ」




だが、わしの勘とてよく当たる。

まだまだ孫に負けるつもりはないと晴明は笑った。


* ひとやすみ *
兄様、ついに妖と勘違いされる。笑容姿が整いすぎるのも考えものですね。
 この話が書きたくて陰陽師を書き始めました!ちなみに氷見家の方々は妖でも何でも
 音楽分かる奴は皆友達精神で生きておられます。都の運命は昌浩にかかっていると送り出されました。
 分かっていないのは昌浩と兄様ばかりなり。ちょっと長くなりそうですがもう少しお付き合いいただけると幸い!            (14/08/10)