ドリーム小説

安倍晴明が待つ部屋へ通された俺は円座に座る老人を見て違和感を覚えた。

老人は背後に式神である朱雀と青龍を立たせており、その二人は今にも襲い掛からんと俺を睨んでいた。

あれ、何か見たことあるような絵だな。

・・・あぁ、山で会ったあの白い狩衣の陰陽師の時と同じ構図なのか。

そう思えば纏う空気や佇まいもあの若者と目の前の老人安倍晴明は似てる気がする。

室内の緊張感に俺を案内してくれた少年昌浩と白い兎のような物の怪のもっくんは肩を跳ねさせた。

好々爺のような晴明が俺を見るとニコリと笑って、席を促した。




「やはり、また、会いましたね」




・・・・・・ん?また?

内心首を傾げた俺は、その響きに何かが引っ掛かった。

リフレインされた「それでは、また」という声に、俺はあの時の若い陰陽師を思い出した。

って、え?どういうこと?!




「鞍馬山ではやはり失せ物は見付かりませんでしたか」

「くぉら!晴明、お前また魂魄だけを飛ばしたのか?」

「紅蓮や、青龍も朱雀もおったし、大事ない」

「そういう問題じゃないんだ!」




晴明と言い争っていたもっくんは険しい表情で俺をチラリと見て、他の式神二人も俺を見ていた。

え?なんかよう分からんが、つまり、あの若い陰陽師は仮の姿で実は晴明だったってこと?

無理やり自分を納得させた所で、晴明がポンと手を叩いて言った。




「おぉ、挨拶がまだでしたな。安倍晴明と申します。そしてそこでぼへーっとしてるのが孫の昌浩です」

「ぼへぇっ?!・・・〜っ安倍昌浩と言います。それでこれはもっくん。物の怪のもっくんです!」

「物の怪言うな!」

「そこな白い生き物は私の式神で闘神騰蛇です。後ろの二人はすでにご存じでしょう」

「・・・俺は氷見と名乗っている」




突然始まった自己紹介合戦に俺も加わり、軽く頭を下げる。

何やら言いたそうな顔をしたが、晴明はすぐに話を戻した。




「鞍馬の主に会われたのなら力を貸してくれたのでは?」

「・・・天馬のことか?あれは役に立たん」




あれは全く以て失礼で意味不明な奴だった。

ガラクタばっか運んできて、俺を家から叩き出した冷血漢だ!

俺が思い出してプンスカ怒っていると、その場にいた奴らが息を呑んでいた。




「ふむ。山の主でも無理なら私が役立つかどうか。・・・昌浩や。ちょっと殿と失せ物ぱぱっと見付けて来い」

「・・・・え、はぁーーーー?!」

「おい晴明!お前でも無理なものをどーして未熟な昌浩に出来るんだ!」

殿、そこな孫は半人前ではありますが、この安倍晴明の孫で唯一の後継であります。いかがですかな」




うーん。陰陽師の探し物ってどうやって探すのかとか、俺は全く知らんが、多分占いとかお呪いとかなんだと思う。

それって結局は物探しの指針とかで、魔法じゃないんだから自分の足で探しに行かなきゃいけないはずだ。

そう考えたら晴明みたいな高齢のお偉いさんをこの広い都中歩かせるのは気が引ける。

何やらてんやわんやと騒いでいるが、俺は健康そうな昌浩を眺め回して顎に手を当てた。

どうせ街中歩くなら、昌浩みたいな健脚の若者の方が気が引けないかな。

俺の視線を感じてか、ピタリと動きを止めた昌浩はギギギと不自然な動きで俺に顔を向けた。




「だそうだが、出来ないのか、お孫殿?やはり安倍晴明の孫と言えど難しいか?」

「〜〜〜〜ッま、」

「ま?」

孫言うなーーー!!あぁ、どうせ俺は未熟半熟じゅくじゅくの半人前ですよ!

 でもいつかはじい様を越える大陰陽師に絶対なるんだから、失せ物くらいぱぱーっと見付けてみせますよ!





な、何か面白いことが起きたーー?!

いきなり昌浩って呼ぶのもなぁと思って孫と呼んだのだが、何か地雷だったっぽい。

どっかんどっかん怒りまくってる昌浩に目を瞬いたが、俺は嬉しそうに笑った晴明を見た。

こりゃこいつ確信犯だな。

歳の離れた昌浩の兄に当る成親に会った時も思ったが、多分「晴明の孫」って言葉には深い意味があるのだろう。

しかも今、晴明自身が昌浩を唯一の後継と言い切った。

つまり、その辺の陰陽師より半人前の昌浩のがスゴイってことだろう。

全く晴明も性格悪いねぇ、俺も怒ってる昌浩がちょっと可愛いとか思ったので大概だが。




「なら、よろしく頼むぞ、昌浩」

「・・・はいっ!・・・へっ?うえぇぇぇぇ?!」




ふと我に返った昌浩が叫ぶが、もう遅い。

ニヤニヤ扇子の向こうで笑う晴明と目が合い、俺も小さく笑う。

手玉に取られてる昌浩に、もっくん、紅蓮、騰蛇やらいろいろ呼び名のある生き物が小さい手で

器用に額を押さえてるのが印象的だった。


* ひとやすみ *
・あーやっと安倍家本命に辿り着きました!もっくん可愛いよもっくん!
 でも兄様に何て呼ばせるか少し迷いました。もっくんて言わせたかったけど、
 本人が嫌がる呼び名を兄様が呼ぶと思えないし、無難に騰蛇でしょうね。
 今回はじい様と一緒ににんまりしながら昌浩を書きました。楽しかった!                          (14/08/10)