ドリーム小説

平安時代に飛ばされて都の外れに住むようになったものの、すぐに地理に詳しくなれるはずもなく、

俺はフラフラと歩きながら一条にあるという安倍邸を目指していた。

昼間の大路は人が多く、賑やかな喧噪の中を俺はとにかく歩いた。

鈴生[すずなり]達にも何も言ってないので、軒などは使わない。

歩けない距離でもないし、散歩がてら俺は市を覗きながら一条戻り橋を目指した。

市は何だか雑多でいろんな物を売っていて面白い。

ごちゃごちゃしてる人の合間を歩いていると水菓子屋の前に衣被きをしたお嬢さんがいた。

衣の合間から見えた目が真剣だったので少し気になったのだ。

何をそんなに悩んでるのかと覗き込むと、そこには干した桃や杏などの山。

え、そんなに悩むことか、これ?

呆気に取られ、視線を外して立ち去ろうとした時だった。




「きゃっ」




微かだが確かに聞こえた悲鳴に振り返ると、人混みに紛れて男がさっきの衣被きの少女の手を掴んでいた。

嫌がる少女を余所に男は人混みを隠れ蓑にしてぐいぐいと引き込もうとしている。

おい、それは完全に誘拐犯の手口だぞ!




「彰子姫を離せ、この変態じじいー!こんな奴、ぶっ飛ばしてやる!」

「止めろ太陰!こんな所で力を使えば、いらぬ被害が出る!」

「じゃあどうしろって言うのよ、玄武!」




何か薄着の小さい男女がもめてんだけど?!

栗毛のツインテール少女と何か黒くて小さい男の子。

可愛いなぁ・・・じゃなくて!

グイグイ引っ張られてる姫さんを助けないと!

俺は姫の後ろから男の手を掴んで捻り上げ、彼女の手をまず解放させた。




「嫌がってるのが分からないのか?」

「ぐっ!何だよお前ッ!関係ない奴はすっこんでろ!」




捻られた腕を抱えて何だかピーピー言ってたが、男はすぐに俺の顔を狙うように殴りかかって来た。

俺の胸元には姫さんが居たので、彼女を抱き込んで空いてた右手で男の腕を払いのけ、

袖口に隠し持つようにしていたの背剣を突き付けた。




「もう一度言う。嫌がってるのが分からないのか?・・・次はない」

「ひぃッ!もうしません!」




青褪めて転げるように逃げて行った男を見送って、腕の中の彼女を解放した。

衣被きがあるので表情は分からないが、ホッと肩を撫で下ろしているようだった。

全くこんなか弱そうな女の子を襲うなんてけしからん奴だ。




「あの助けて下さってありがとうございました。何とお礼をしたらいいのか・・・」

「よくやったわ、そこの男前!褒めてあげる。でも詰めが甘いんじゃないの?代わりに私が吹き飛ばしておいたわ!」

「・・・ただの偶然だ。気にするな」

「太陰、喧しすぎると彰子姫が困るだろう?」

「別にこの男には聞こえないんだからいいでしょ?大体、ボーッと突っ立ってただけの玄武に言われたくないわよ!」




あー、後のチビッ子がスゲーうるさい。

めっちゃ話にくくて、俺も姫さんも黙り込んでしまった。

あーもう・・・。




「二人で喧嘩して観衆の居る中、彰子姫に仲裁してもらう気か?姫が周囲に変な目で見られるぞ」

「え?」

「「 え?! 」」

「悪いが俺は先を急ぐ。安倍邸を探さなければならないからな」




チビ二人に諫言して溜め息交じりに三人に背を向ける。

善いことしたのに何で疲れないといけないんだ・・・。

人混みに紛れようとした直後、気の弱い姫からすると予想外に大きな声がした。




「あの・・・っ!晴明様のお屋敷なら私、案内出来ます!」











***










「彰子!」

「あ、昌浩。ただいま」

「・・・誰、ですか?ここに何の用で?」

「待って、昌浩。あのねっ」




安倍邸に着いた早々、何かまた小さいのが突っかかって来た。

毛を逆立てた猫のような反応をした少年は赤い狩衣を纏い、髪を一つに結って後ろに流していた。

後ろには白い兎みたいな変な生き物もいる。

子供に突っかかられると心が痛むんですけど?

困って頭をガリガリと掻いたら、すげぇ身構えられた。

すると、スイーッと滑るように飛んできた白い鳥が狩衣の少年の前でただの紙になった。

少年は心得てるのか、それを掴んですぐさま目を落とすと、フルフル震えだした。




『昌浩や、いくら相手が強そうだからと言って、確かめもせずに突っかかるとは何と情けない。その方はわしの客人じゃ。

 お前も一緒に来なさい。客人に突っ掛るとはほんとーにっ情けない!精進せねば彰子姫に嫌われるぞ。ばーい晴明』




何だかよく分からんが、晴明の手紙とやらのおかげで俺は助かったが、少年は大層ご立腹のようで大暴れしている。

孫孫言いながらからかってる白い兎を見ていたら、袖口を掴む手があって驚いた。

ってこの子、確か太陰っていう名の女の子・・・。

こりゃ無意識だな、放って置こう。

それから俺は塀の奥から感じた視線にチラリと目を向けた。

その瞬間、姿が見えなくなったが、あれは青龍だな。

この家、入る前から何か怖いんだけど、大丈夫だろうか?


* ひとやすみ *
・た、辿り着かないだと?!彰子さんとか巧妙な罠である!!てか神将が多すぎるんだよね。笑
 兄様原作知識ないから突っ込みが足りんというアレ。多分私の頭も足りんのです。
 次こそ何とかメインと絡めるはず・・・!神将達の会話が少し分かり難くて申し訳ない。
 というか、顕現してる神将達って誰でも見えるの?顕現しててもやっぱ見鬼ないとダメなの?
 一応見えない設定だけど今更ながらそんなことを思うダメな奴です。分かる人誰か教えて下さい。笑              (14/08/10)