ドリーム小説

「・・・で、これはどういった状況ですか、鈴生[すずなり]様?」

「あ、弓秋[ゆみあき]。たけのこ明神殿、俺の笛でお腹空いたって!!」

「はぁ?」




盆を片手に新たに現れた男が池の中に居る俺と、笑顔の笛のおっさんを見てすげえ嫌な顔をしている。

・・・なぁ、とりあえず、この鯉のいる池から俺、出ていい?










「つまり、たけのこ明神殿は勝手に屋敷に入り、たけのこを投げ付けてきたわけですね」

「そうなるかな」

「鈴生様、それは立派な不審者です。検非違使に引き渡しましょう!」




現れた細身の若い男は淡々とそう言ったが、おっさんはすぐに縋り付いて止めた。

ギャーギャー騒いでるのを他人事のように感じながら、俺は呆然とそれを見ていた。

何だろう、この家。どういう関係なのかな、コイツら。




「弓秋、待って待って!この人、さっきの俺の笛聴いて腹ペコの歌って気付いたんだよ!」

「っ・・・それは、イイ人ですね」

「うん。イイ人だよね!」




えーーーーっ?!

何この人達、目がキラキラしてて怖いんだけど!!

おかしい!絶対おかしいからね、その発想?!

それでたけのことはお見逸れしました、と頭まで下げられた。




「悪いが何のことだかさっぱり・・・。お前達は一体・・・」

「あ、俺はこの家の当主、氷見[ひみの]鈴生[すずなり]と言います、たけのこ明神殿」

「私は氷見家門下の弓秋と申します、たけのこ明神殿」

「・・・そのたけのこ明神は止めてくれ。俺はだ」




こうしてよく分からんが、俺は氷見家に拾われることになったのだ。









***









あれからいろいろあったが、俺は気付けば氷見[ひみの]ということになっていた。

雅楽で名を馳せる氷見家当主に拾われた血の繋がらぬ悲劇の従兄ということらしい。

先々代当主の隠し子とか、こんな見てくれだから隠されてたとか、物の怪だとかいろいろ言われている。

ちなみに前当主、つまり鈴生の父ちゃんに会ったら、相変わらずのぶっ飛んだ氷見解釈が発動して、

「曲が分かる奴に悪い奴はいない。お前、良い奴、家に来い」と満面の笑みで親族にされた。

怖ぇぇよ氷見家、そんなんで大丈夫なんか?!


つーか、俺が一番驚いたのは、どう見てもちょび髭おっさんの鈴生が、俺より年下だったことだ!!

あんなデカい図体して熊みたいなのに、弓秋と同い年な上にまだ十代ってどういうこと?!

あれは詐欺だ!

まぁ、熊みたいな弟が出来たが、俺は氷見でお世話になりながら、街での探し物が可能になったのだ。




兄上ー!観月の宴ですよ!道長様が氷見を奏者にと!」

「へぇ」

兄上の楽器は何がいいですかね?三ノ鼓、いや一鼓、ならこの際、壱鼓で番舞などどうでしょう?!」

「え、ちょ・・・」

「はいッ!なら私、琵琶やりますよ、鈴生様!」

「おぉ弓秋、それはいい!父上が篳篥[ひちりき]でやはりここは俺が二鼓・・・」

「あの、まっ・・・」

「え?!じゃあ誰が龍笛吹くんです?」




恐ろしいよ、氷見家・・・。

雅楽の話になると誰も話を聞きやがらねぇ・・・。

こうして観月の宴は飛ぶような速さでやってくるのだった。










東三条殿に着いた俺はその屋敷の規模にぶったまげた。

これもう家じゃないよな、テーマパークだよな?

さすが時世をトキメク左大臣、藤原道長の家だ。

そりゃこんだけの規模になるわな。

重い衣装を引き摺りながら俺達は南庭へと向かった。

そこにはすでに特設ステージが出来上がっており、舟遊びのための船まであった。




「あーでも、様の笛も聴きたかったなー!此度は楽太鼓ですけど、次はぜひ聴かせて下さいね!」

「「 えっ?! 」」

「あ、私も聴きたいです!」

「ダメだダメだダメだ!兄上の笛など聴かせられん!!」

「えー!鈴生様、独り占めはズルいですよー!!聞きましたよ?様の笛を聴いたんですよね?」




どうでしたかと同じ楽師が興味津々と鈴生に言い寄るが、この熊男と弓秋は顔を青くして震えている。

そんな恐ろしげな顔をしなくてもいいだろーが。

2人は引き攣った顔で律儀に答えていた。




そ、そうだな、兄上の笛は一度聴いたら忘れられない程、斬新かつ大驚失色の音色で思い出すだけで涙が出るよ

「わー、鈴生様にそこまで言わせるなんて、やっぱりそんなに凄いんですか!」

・・・えぇ。それは天上界を垣間見れるような音色で、その腕前は前人未到なほどで私は今でも夢に見ます

「いいなー!」




お前ら、何も泣くことないじゃないか。

吹けと言われたから吹いてみただけなのにさ!

どうせ俺が吹ける笛はリコーダーだけだよ!

聴いてぶっ倒れたくせに、諦めもせず俺に太鼓を叩かせる根性がすげぇんだよ、コイツら。

そんで太鼓だけは上手い!と乗せられて気付けば、こんなとこで叩いてました。



観月の宴を無事に乗り切れば、酒の入った貴族達が歌詠み合戦など始めて、暇になった俺は散歩に出た。

直衣とかめっちゃ歩きにくいし、立烏帽子も邪魔。

烏帽子を取って頭をガリガリ掻いていると、向こうから歩いてきた人物が急に俺の前で止まった。




「こんな所で何してるんだ?」

「・・・何って休憩?」

「あーーー!!お前は鞍馬の厄災!!天貴、成親、気を付けろ!」




あ、確かこいつ朱雀だ。

真っ赤な髪の男は金髪の美人を背に庇い、同じく烏帽子の男に声を掛けた。

あっれー?お前、こないだの陰陽師の手下じゃなかった?

すると、成親という名前の男が関心したようにジュウニシンショーが見えるのかと頷いていた。




「氷見と申します」

「あぁ、これは丁寧に。安倍成親と申します」

「安倍?」

「氷見?!お前、次は氷見家を乗っ取る気なのか?!」

「朱雀!少し落ち着いて」




はぁ?!

何なのコイツ?!どう見てもこれは喧嘩売られてる。

ギンと睨み返せば、急に空気が張り詰めた。

すると成親が溜め息を吐いて頭を掻いた。




「俺にはよく分からんが、ウチのじい様関係なんだろ?ならそっちで頼むわ。多分まるっと解決してくれると思うんで」

「成親様!」

「いや、だってなぁ。俺に解決できるとは思えん」




じい様?

何かよく分からんが、内輪揉めを始めた三人を眺めていると、成親と目が合った。

ニヤリと笑った成親は何か渋カッコよかった。




「ウチの御爺様、稀代の大陰陽師、安倍晴明と会ってみたらどうだ?」




なるほどー。

そういや、前に龍神様に聞いたな、その名前。




「アンタは孫ってわけか」

「いや、孫じゃない。息子の長男ってだけだ」

「?」




はぁ?そりゃ孫だろう?

よく分からんが、そうだな、安倍晴明に会ってみるかぁ。


* ひとやすみ *
・兄様、氷見家に拾われる。やっぱりここでも兄様してます。従弟は熊ですが。笑
 家の兄様は芸術肌ではないので音楽はさっぱり。リコーダーと太鼓は出来るそうです。笑
 大驚失色とはビックリして色を失うこと。とんでもない腕前のようです。笑
 相変わらずよく分からない勘違いを振りまいてますが、ようやく安倍家と絡めそう。
 設定好きが高じて何だか酷く遠回りをしたような気がします。もう少しお付き合い願います!                 (14/08/10)